第36話 逃げ出した北の守護神

いつまで、隠し通せるのか。創宇は、苛立っていた。丁度よく、現れた栗鼠を捕まえる事に成功したが、伊織がうっかり逃してしまった。この世の者ではない栗鼠だった。代わりの者が必要だ。六芒星の陣の中央真下に、咲夜姫が眠る石棺があり、陣を挟んで真上に、古城を支える柱がある。この柱。城壁にも似ており、幾つかの箱を重ね合わせ、高さを出している。どこか、一つが崩れても支え合う事ができるが、その中のどれか、一つに北の守護神、鼠が閉じ込められていた。「誕生」

を司る鼠の霊獣。創宇が咲夜姫の復活を願い閉じ込めたのだが、忽然とその霊獣は、姿を消した。同時に、咲夜姫の気配は、無くなり、氷室となっていた石棺は、ただの棺となってしまった。陣が効力を失い、抑えられていた霊獣達が、目を覚まし、恨みを晴らそうと、北の都を目指して集まりつつあった。特に炎龍は、始末が悪い。死の馬を呼びかねない。水を司る氷龍を呼び寄せたい所だが、創宇には、力がなかった。伊織に、陣の鼠を探し出させようとしたが、見つからない。代わりに、あの世の気配を持つ栗鼠を見つけ出したが、またしても、逃げ出されてしまった。失態続きにイライラしていた。

「まだ、見つからないか?」

創宇は、考えた。伊織に任せる事自体、無理なのではないか?時量師の弟子になりたいと言って、門前に現れたのは、何年前だろうか。

「全く、気配がありません」

伊織は、頭を下げた。ここは、創宇の言いなりになっていた方が得策だ。いつまで経っても、創宇が時量師の座を渡す事はない。このまま、創宇のいいように使われるよりは、菱王の手となり、自分が、時量師になった方が早い。それにしても、何故、ここまで、栗鼠にこだわるのか?異国の者だからなのか。

「一つ、情報があります」

伊織は、菱王から言われた打ち合わせ通りに口を開いた。

「菱王が、かの栗鼠を捉えたとの事です」

「菱王が?」

創宇と菱王は、古代から仲が悪い。名前を聞くと眉間の間に、深く皺がよった。

「何故?菱王が?」

「そればかりではありません。あの山神の兄弟を捕える事ができたそうです」

「あの忌々しい山神の兄弟か」

陣の効力とは、程遠い神々の住むと言われる高山は、創宇もあった事のない古代の神々がいると聞く。

「菱王にそんな能力があったのか?」

「なんでも、手負らしいです。何かの音に反応して苦しみ出したとか」

「音?」

「獣神ゆえ、音には、敏感なのでしょう」

伊織の言葉に、創宇は、納得いかない様子だった。

「果たして、音だけなのか、山神が以前、死にかけた一件のせいなのか」

「何か、ご存知なのですか?」

伊織は、好奇心に満ちた表情をしたが、創宇は、話す必要はないと想い、目を逸らした。

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