第20話 時の糸を編む時量師 栗鼠を拾う

陣の軌道が狂っているのは、その地に住む、小動物達も感じていた。長い間、都を守り千年を前にして、効力が弱まってきている。陸鳳が、住めたのも、そのせいかもしれない。杜の都に妖や魔物が迫ると陣が起動し、守護妖達が、放たれる。その陣の起動が、狂い始めている。

「外の妖達が多すぎる」

千年余りも、陣を守り続ける時量師 創宇は、六芒星の一角の寺にいた。陳内に入り込んだ小動物をキャリーバックに封印し、寺の祈祷台に備える。

「ちまちま、滅していたのでは、間に合わない」

キャリーバックには、小さな耳を持つ、四つ足の生き物が、小さくうずくまっている。創宇は、妖と言い、炎で滅すると言うが、この小ささから、とても、害を及ばす者には、思えなかった。

「その場で、殺せばよかろうに」

創宇と同じ、もう一人の僧侶。伊織が言った。

「他の者達とは、違う匂いがしてね。気になった」

創宇は、この寺の僧侶の一人では、あるが、剃髪をしておらず、長い髪を後ろで、束ねていた。あの陸羽が、すれ違った男である。独特の花の香が、辺りを漂い、そばにいる物を陶酔させる。

「この地の者ではないな」

一方、寺の僧らしき姿をした伊織は、長い袈裟を見に纏い、眉毛もなく、一見、人を寄せ付けない雰囲気である。手のあちこちに、武器でできた様な痣がある。

「まぁ・・私に任せろ」

キャリーバックを手に取ると、蓋を開けて、小さな栗鼠に似た生き物を手に取ろうとする。

「やめろ」

創宇が、止めるが伊織は、栗鼠の首を抑え、締めようとする。

「離せ!」

締め付ける手の間から、栗鼠は、飛び出し、伊織の首筋に齧り付く。

「うわぁ!」

太い首を齧られ、伊織は、手をバタつけせる。

「だから」

創宇が、手首を返すと掌に小さな光の惑星が、浮かび上がる。外へ放り出すように中指を、反らせると、指から一筋の光が、栗鼠の額へと走っていった。

「結界を越えては、だめだ」

光の溶け込んだ栗鼠は、力を失い地面へと落ちていった。

「面白い生き物を拾った。お前には、渡さない」

「ふん。」

機嫌悪く鼻を鳴らす伊織。

「陣が歪んだのも、その生き物のせいか?」

「後、何年持つ筈だったのか?それとも、これは、明らかに、計算された事なのか」

空気が、何重にも回っている。目眩にも似た感覚があった。

「まただ・・・」

創宇は、宙を見上げた。予測していない事が、起きようとしていた。

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