第21話 創宇の憂鬱
創宇は、滅多に人前に姿を現す事はなく大体は、僧侶の伊織が表に出ていた。いつも、突然、現れ、そして、姿を消す。話によると、六芒星の中心にある古城とこの寺には、地下路があり、そこを行き来しているとの話もあるが、誰も、見た事はない。時量師として、陣の時間を管理し、長い時を1人で、過ごしているとも聞いている。陣の守護人の伊織も、創宇の事は、よく知るはずもなかった。創宇は、陣の地下通路をたった蝋燭1本で、移動していた。陣は、大きく、人間の足で、移動するには、大変な距離であったが、もとい、創宇は、人ではなかった。何キロもある通路を、滑るように進んでいく。それは、陣の中心、古城の地下へと向かっている。
「もう、何年、いや・・・何千回行き来している事か・・」
中心へは、斜度が深くなり、地底深くに進んでいく。地上は、何ら変わらない観光地にもなっている古城であるが、その本体は、地下にあった。中心に進めば、進むほど、体感温度は、少しづつ下がり、地面の下にいても、凍える寒さであった。通路の壁も、白く光り、創宇の息も白く凍った。創、ようやく、中心に辿り着く頃には、辺りは、氷の世界となっていた。その古城の地下深く、氷に包まれた四角い部屋があった。
「今日も、来ました」
六芒星の都市伝説には、戦国時代の武将が、陣を敷いたという伝説がある。だが、その四角い部屋の真ん中にある棺の中で、眠るのは、武将とは、程遠い姿をしていた。
「また・・・来ました」
創宇は、そっと、棺の蓋を下にずらした。飾りのない棺は、上等な木材で、出来ており、創宇が手にすると、重々しい音がする。何度、この棺の蓋を開けただろうか。中から、現れたのは、透き通るような肌で、まだ、眠っているかのような漆黒の髪の女性の眠った姿だった。
「咲夜姫」
創宇は、思わず、触れようとした指先を、止めた。
「私が、ここに留まろうと決めて、もう、一千年近くなります」
閉じている長いまつ毛は、ピクリとも動かない。
「1人で、過ごす時間は、なんて、長いんでしょう」
古城の地下には、六芒星の陣を敷いた武将が眠っっている。華々しい武将の生涯が、地上の観光地化した古城では、語られている。だが、その地下では、1人の若い女性が、氷の中で、眠り続けていた。
「私だけが、歳をとってしまいました」
創宇の双眸からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
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