第13話 覆面の下に覗く優しい瞳
陸羽は、いつの間にか、本気で追いかけていた。風を切る速さに、姿は、人ではなく、もはや、獣の姿と化していたが、キャリーバックを抱えた人物には、届かない。キャリーバックの中からは、嗅いだことのない柔らかい小動物の匂いがする。
「一体、何者なんだ」
人ではない。陸羽は、唸る。かなりの速さで、追い詰めるが、その者は、人の形を保ちながら、追いかける陸羽を嘲笑うかのように、あちこちと、逃げ回る。追いかけられているのを、楽しむように。
「結局・・・」
この一帯を一回りし、元居た医院の前に戻っていた。
「辿り着けないね」
陸羽が、追いつくと、男は、薄く笑った。笑った表紙に、唇の左端から、八重歯が除く。陸羽h、無性に腹が立って、殴りかかろうとした時に、風を切り、陸羽の右腕を押さえた者が現れた。
「兄者・・」
陸鳳だった。白衣を見に纏い、首からは、聴診器を下げたまま、いかにも、獣医の姿をした兄の陸鳳だった。かつての、モフモフ王は、今は、獣医となり、深く被ったキャップとマスクで、表情は、読み取れない。
「辞めるんだ」
「辞めるって?」
陸羽は、いつの間にか、人間の姿に戻っていた。
「どうにも、怪しい奴だよ。逃すのか?」
「いいんだ」
陸鳳は、男と目で、会話をし、男は、軽く会釈すると、その場を去っていった。
「俺の勘は、当たるんだ。あいつは、俺達と同じ・・・」
陸鳳は、黙って、陸羽を置いて、医院の中に入ろうとするのを、陸羽が、遮る。
「いつまで、知らんぷりするんだ?」
あれから、陸鳳は、自分とは関わらず、過去を捨てて生きているように見える。
「聞けよ」
陸羽を無視して、陸鳳は、院内で、仕事を続けようとする。
「覚えているか?桂華が、厄介な奴を持ち込んできた。そのせいで、森の守護陣が、動き出し桂華を狙っている。持ち込んだ奴も、ただもんじゃない」
「帰ってくれ」
「陸鳳?」
「元々は、お前の許嫁だ。お前が、なんとかなるしろ!」
「何だよ!」
陸羽は、思わず、陸鳳の首元を掴んでしまう。白衣は、はだけ、中に来ているシャツの襟元から、陸鳳の首元が見えた。
「何だよ。それは?」
陸羽の目には、首の下に広がる真っ赤に爛れた紅肌が見える。
「気にするな」
陸鳳は、慌てて、白衣を引っ張り、背中を向けた。
「何があったんだ」
「帰れ。桂華は、お前が守れ」
再度、陸鳳の体を自分の方に向けようとした時に、中から小柄の女性が飛び込んできた。
「医院長!遅いですよ」
「わかった」
小柄な女性は、陸羽を上から下まで、舐め回すように見つめた。
「患者さん?」
笑った顔が、この女性も、人間ではないと感じていた。短く切った髪と筋肉質な両足が、人離れした美しさを感じさせた。
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