第12話 覆面の獣医師は、杜に隠れる。
手首の妖を狂った様に、倒した陸羽は、久しぶりに、訪ねてみる事にした。あれ以来、尋ねる事は、なかった兄。陸鳳。雪山に消えてから、何年も経った兄に出会った時の衝撃を今でも、忘れる事はできないでいた。兄は、傷だらけで、瀕死の重症だった。祠様と呼ばれていた時の、面影はなく、ただ、怯えているだけの情けない姿になっていた。何が、彼をここまでにしたのか、陸羽は、彼を問い詰めたが、具体的な返事が返ってくる事はなかった。怯え震える彼に失望し、一つの望みをかけ、杜の都に住むと言う獣医のおばばに頼み込んだ。
「兄をあ助けてくれ」
オババは、一つの条件で、引き受けてくれた。
「良くなるまで、一切、関わりを持つな」
それが、陸鳳を治療する条件だった。陸羽は、山の神の兄を預ける事に、躊躇したが、他に方法はないと諭され、預ける事にした。あれから、何年が経ったのだろう。連絡を取らない事が条件だったが、いつしか、兄弟は、互いの消息をとる事を忘れていった。時間は、流れ、兄の代わりに、山を沈め、時折、都へと降りて来ていた。
「いつ以来だろう」
昔の記憶を辿りながら、着いたのは、都の外れにある寂れた街だった。古い崩れかけた建物の1階に、先代のオババが頼んで作らせた看板が、その当時のまま、立てかけてあった。
「昔のままじゃん」
建物の前には、三台ほど、停まれる駐車場があり、この時間なのに、車は、一台も停まっていなかった。
「意外に、流行っていないんだな」
あの時のオババは、とうに亡くなったと風の頼りに聞いている。オババがなくなっても、陸鳳は、何があったのか、自ら尋ねて来ることはなかった。陸羽は、建物の前に立ち、その古いひび割れた建物を見上げた。2回は、誰かが、住んでいるのか、窓には、カーテンが掛かり、端には、鉢植えが置いてあるのが、目に入った。
「2階にでも、住んでいるのか?」
陸羽が覗き込もうとすると、上から、誰かが、覗いているような気がした。
「?」
どこかで、書いたような匂いがしたが、陸羽の関心は、1階の自動ドアが開いて、出てくる長身の男性に、向いていた。
「あれ?」
長身の男性は、キャリーケースを抱え、携帯を覗き込みながら、ちらっと、陸羽の顔を覗き込む。何気なく、互いを見つめる。
「待てよ」
陸羽は、思わず、男性の肩を掴もうとすると、男性は、陸羽の手を祓い、急に駆け出す。
「待てよ!」
再度、叫ぶ。どこかで、見た事がある。そうだ。見たんではない。この匂いだ。嗅いだ事がある。この匂いは、決して、味方の匂いではない。どうして、陸鳳の所に?追いかける陸羽の姿が、溶けるように、狼へと変わっていく。
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