第一章 / 29話 『本人の証明』
次の行き先をエレクシア達に話してから、二日が立った日。
「――――シルクー! 届いたぞー!」
ギルドから戻ってきたワタルが、部屋を開けて大声でシルクを呼んだ。
「わわ!? この距離ならそんな大きな声じゃなくても聞こえるよぉー…」
「あぁ悪い悪い」
「で? 何が届いたのぉー?」
そう聞かれると、ワタルは《器》から一つの箱を取り出した。
「それはぁー?」という彼女の問いに、その箱を開けることで答える。
その箱の中には―――、
「お前の武器だ」
一つの、真っ白な弦のない弓が入っていた。
「レイブウィアのデリバンっつー鍛冶屋に作って貰ったんだ」
「これ…ウチの……?」
「おう。魔力操作が苦手だって言うから、弓使ったらいいんじゃないかって思ってな」
「でもこれ、弦がないけど……」
「魔力で作るんだ。矢も魔力生成」
そうやって使うことで、シルクの不器用問題を解決しようというワタルの計らいだ。
「なんにせよ…ありがとぉー!」
「礼はこれからたっくさん体使って返してくれよ」
「……ワタルくんが知識ないの知ってるからいいけど、その言葉結構危ないよ?」
「あれ?」
いい感じに返答したつもりだったが、案外そうだったわけではなさそうで、シルクに半眼を向けられた。
「ま、武器も届いたことだし――――――」
「?」
マーケスト、裏門。
「いざ、フェンドラスに出発だ!」
「えぇー!?」
ワタルが出発を宣言すると、驚きの声をシルクが上げた。
「ん? どうした?」
「”どうした?”じゃないよぉ! ウチ、別に弓経験者じゃないよ!?」
「つっても、時間が押してんだ。正直悪いと思うが、道中で慣れてくれ……」
「んー…そこまでお願いされたら断れないじゃんさぁー……」
ワタルが手を合わせ、頭を下げながら懇願すると、シルクも折れざるをえなかった。
「まァ、案外すぐに習得できんじゃねェかァ?」
「もぉー、他人事だからってぇー…」
「それにしても、センファさんだけでなく、ファリスさんとも結局会えませんでしたわね……」
センファは行方を暗ますとか言っていたからいいものの、ファリスの行方不明は以外だった。まぁ、センファと一緒にどこかへ行ってるかもしれないし、心配の必要はないだろう。
「……行くか」
「ですわね」
「あァ」
「だねぇー」
「うん」
そうして五人は、新な地へと足を運ぶ。
そんな中、一人。アンディスは振り返り―――、
「……そんじゃァ、行ってくるよ。カアサン、オッサン」
と、自分の育て親へ、別れをすましたのだった。
△▼△▼△▼△▼△
王都の中心。王城の玉座の間。
「―――以上が、冒険者であるリベルド・アンクの功績です」
「フム……」
使者が、王であるダリスへ告げたのは、突如現れ、レイブウィアの襲撃者問題、そしてマーケストと王都との流通問題を解決したというリベルド・アンクという男の話の数々。
「『英雄』、『豪傑』、『守り人』、『悪党面』……短期間で名声を挙げただけに、色んな二つ名が飛び交ってますね……」
そう声を発したのは、勇者の一人、エチゼン・ソウタだ。
「して、その功績は真なのか?」
「えぇ。どちらもギルドマスターであるフェル・ヴィザール殿とセンファ・パルスァート殿からの報告です。彼らの業務への真摯さを見ても、間違いのない情報でしょう」
その二人のギルドマスターの事は、ダリスも信頼している。
しかし、そのリベルド・アンクが突如現れたというのが引っかかる。
それが本当であれば、是非とも魔王討伐に参加して欲しいものだが、何せ討伐には娘も向かう。信頼できる人間でなければいけない。
ましてや、キトウ・ワタルの様な男などもっての他だ。
「どうやら、彼らは次にフェンドラスに向かうらしいですが、如何なさいましょう」
「………」
フェンドラスと言えば、確か『彼女』がいたはずだが……『彼女』の気ままさに頼るのは少々心もとない。
「……ゲルニス。主がゆけ」
「!? 正気ですか!?」
ダリスの指名に、その隣にいた大柄の鎧を纏った中年の男性が声を荒げた。
彼こそが他でもないそのゲルニスなのだが、彼は近衛兵で、王のそばを離れることがないよう自分に言い聞かせている。
「……ただでさえ、私は王女様を
「……ぬしは、昔からよく気負う。じゃから、これは儂がそうさせぬための命令じゃ。―――これは、ぬしの贖罪なのじゃよ」
嘆くゲルニスに、ダリスはそう説く。
「贖罪、ですか?」
「ぬしが見極めるのじゃ。このリベルド・アンクという男が、どのような人物なのかを。そうすることで、娘の安全にも繋がる。――――信頼できるぬしにしか、頼めぬことなのじゃ」
「―――――っ」
真摯な目で、ゲルニスへそう命令する。―――いや、これは『命令』という名目の、『懇願』だった。
国民に真摯に向き合い、高慢にふるまわない。国民のことを第一に考える、この国の王。
だから皆、ダリスに付いていく。
「―――このゲルニス・アルフェー。尽力します」
―――――名声は順調に、世界に波紋のように広がっていた。
△▼△▼△▼△▼△
「いやー、うまいこと人搬馬車捕まえられてよかったな」
「もう足がクタクタだよぉー…」
席に座り、ぐったりとシルクはへたり込む。
どうやらこの馬車はフェンドラスに直接続くらしく、このまま乗っていればつくことができそうだ。
「……ところでよォ、リベルドお前、まさかそのままで街に入るつもりかァ?」
「え? ダメなのか?」
「多分、アンタが解決した二つの出来事のせいで、『リベルド・アンク』の名前はケッコー有名になッてるハズだ。そんで、今から行くのは王都にも
「……確かに」
要はフードがなんかを付けておけということだろう。
なら、丁度いい案が今浮かんだ。
『カゲロウ』
ワタルがそう唱えると、カゲロウがフードのようになって身を包む。
これなら、カゲロウを制御するのに慣れれるようになれそうだし、身を隠すのに持ってこいと、一石二鳥だ。
「……怪しさ満点なのは、少々懸念ですが、中々いいですわね」
と、そこへ―――、
「グオォォ……」
少しの地響きとともに、どこからか緑色の巨体が姿を現した。その右手には大きな棍棒を持っており、ワタルを初めて異世界転生させたあのゴブリンの上位種を思い出させる。
しかも、後ろには複数のゴブリンもつれている。
「どうやら、出番ッぽいな」
「だな」
「御者様は、後ろに下がっておいてくださいまし」
「疲れてるけど…やるしかなさそうだなぁー」
皆が立ち上がり、それぞれの武器を構えた。
△▼△▼△▼△▼△
「やっとついたぁー!」
一悶着、二悶着、三悶着の末、ようやくフェンドラスにワタル達は到着した。
「にしても、結構弓使えてたじゃねぇか」
「まだまだ拙いとこもあったけどねぇー…」
まぁ確かに、シルクの放った風の矢がワタルの頬を掠めた時には肝を冷やした。
だが、初使用にしては上々だった。
「で、ここがフェンドラスなわけだが……」
都市というには普通…というか、少し寂れたようなその門に、ワタルは違和感を覚える。
ともあれ、まずはその街に入ることにした。
「………」
街に足を踏み入れると、そこは……
「あれ?」
『都市』と言うほどだから、活気がずっとあると思ったが、フェンドラスは外に出てる人自体少なく、どこか険呑な雰囲気が漂っていた。
そんなワタルの意外そうな反応を見て、アンディスが眉を上げる。
「なんだァ? リベルド、アンタフェンドラスのことあんま調べてねェのか?」
「いや、都市ってのだけ聞いてたから、なんか寂れてるなと思ってよ……」
「あーそりゃァ、ここは王都とちけェだけじゃなくて、『魔界』に一番ちけェとこでもあッからな」
「マジか」
初耳すぎる情報にワタルは素直に驚く。
魔界というのは、恐らく魔王だとか魔族だとかが住まう地域なのだろう。
それでここまで険呑な雰囲気が漂っているのかと納得する半面、気になる点が浮上した。
「それなら、あの門は大丈夫なのか? 一応、ここ魔界との境の都市みたいなもんなんだろ?」
そう、あの門だ。あんなに寂れていては、魔族の侵入を簡単にゆるしてしまうのではないかという疑念があった。
「それは……アタシもよく知らねェんだが、結界? みてェのが張られてるらしいんだ」
「なるほどな」
その結界というのがどんなモノなのかは想像もつかないが、余程すごい結界なのだろう。
「それでは、疑念も晴れたところで、お約束のギルドと宿にいきましょう」
「だねぇー」
「お約束とか言うなよ……まぁ、行くんだが」
と、マーケストの反省を生かし、まず宿をとってからギルドへ向かった。
△▼△▼△▼△▼△
「それで、ここがお約束のギルドなわけだが……」
ようやくついたそこは、やはり寂れていた。
そしてそんなギルドの扉を開くと―――、
「………」
「………」
「………」
無数の鋭い視線が、ワタル達へと向けられた。
ギルドにいるのは、明らかにカタギではなさそうな冒険者とも呼べるか怪しい人物がたくさんいた。
そんな彼らの目は、獲物を見定める目。それを瞬時に理解し、ワタル達は悠然とした態度をとり、堂々と受付へと向かった。
「……依頼はあるか?」
そして、ワタルは態度の悪そうな受付嬢にそう問いかける。
元より依頼を受ける気はなかったが、この場では必要なことだ。
「……ここで依頼受けるには、まず貴方の名前を教えなさい。そしてこのギルドに登録するわ。話はそれからよ」
「リベルド・アンク」
「……何?」
「リベルド・アンクだ」
「………」
ワタルの名乗りに、流石に周りは動揺が浮き出る。
―――これは威嚇だ。
アンディスのお陰で散々膨らんだ噂。その主であるリベルドがこの都市に来たという、手っ取り早い周りへの威嚇だった。
「……証拠は?」
「あ?」
「貴方が『リベルド・アンク』だって証明できる証拠。それがないと、本人だと認識できないわ。この都市では、本人詐称なんてザラにあるもの」
受付嬢から出された唐突の要望に、ワタルは悩む。
ワタルが『リベルド・アンク』だと証明できるもの……まぁ、実力というのが一番いいだろう。仕方ない。
「んじゃ、腕に自信がある奴、かかってこいよ」
すると、ワタルは振り返ってこちらへ目線を向ける大勢へ語り掛けた。
できるだけその悪い目つきを生かした、悪い笑顔で。
「俺の踏み台になってくれる奴募集中だ。……もしかして、自信なさげ?」
煽り笑いを混じえながら、ワタルがそう言うと、彼らの一人が立ち上がった。
その人物はいかにもなゴロツキだ。
「どこぞの『英雄』サマは大層な自信があるようだなぁ! ここはキッチリ俺がぶちのめして―――」
―――省略。
「ぐえ……」
倒れたゴロツキの上で、ワタルが手をはたく。
そして、受付嬢の方向に視線を向ける。
「どうだ?」
「いいわ。リベルドね」
素っ気なくながらも、ワタルの登録が完了した。
すると、その受付嬢が口を開く。
「そうそう、貴方にギルドマスターからの呼び出しがかかってるわ」
「―――――え?」
△▼△▼△▼△▼△
「それにしても、さっきのワタルくん悪役感ハンパなかったねぇー」
「やめろ、恥ずかしい」
「あッはははッ、でもサマになッてたぜ? 初めて目つきに見合ッた行動が見れた感じだ!」
「悪かったな……」
先ほどの出来事をイジられ、ワタルは居心地が悪い。
「それにしても、ギルドマスターさんからのお話とは、何なのでしょうか……」
「さぁな……つっても、フェルとかの話じゃねぇか?」
フェルとセンファの師匠であるこの都市のギルドマスター。
いきなり呼ばれたことには驚きだが、それよりもあの二人の師匠という情報が、ギリギリワタルの好奇心を後押ししている。
「………ここか」
「うわ、なんかオバケとか出てきそぉー…」
「やめろよそんなこと言うの……」
ついたのは、どこか不気味な雰囲気の屋敷で、シルクの言うことにワタルも少し不安になる。
だが、こんなところで立ち止まっても意味はないので、ワタルは思い切って扉を押した。
「開いた……?」
鍵をかけてないとは不用心な……いや、ワタル達が来るから開けておいたのか?
ともあれ、ワタル達は屋敷の中に入る。
「……すげぇ広間だな」
一階の玄関兼広間の大きさにワタルは感嘆の声を漏らす。
そして、一歩踏み出すと―――、
「あら、来たのね」
「―――――っ!?」
全く知らない声が横の本棚から聞こえ、ワタルは心臓が止まりそうになった。
その声の主は、本を閉じて腰かけていた椅子から降り、ワタルに近づいてくる。
「……私が、この都市『フェンドラス』のギルドマスター…セナル・ミーシャ・フェンドラスよ。私の弟子たちがお世話になったようね」
「………」
「―――? 私の顔に何かついてる?」
彼女の名乗りに、ワタル達は反応せず、呆けてしまう。
それも無理はない。なぜなら――――、
「「「「子供?」」」」
フェルとセンファの師匠であるというフェンドラスのギルドマスターは、ワタルの腰ほどしかない子供だったからだ。
『本人の証明』
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます