第一章 / 27話 『暗闇で渦巻く陰謀』


 時は、とりあえずお疲れ様会で楽しんだ後のこと―――、


「―――で、何だかんだあった後、寝て起きたらこの姿になってたってわけ!」


「……つまるところ、お前はシルクってことでいいんだな?」


「そゆことぉ~」


 とんでもないのことをサラッと肯定するシルクに、ワタルは頭を抱える。


「つってもなんでお前も人間の姿に……」


「えぇ~、そんなことウチに言われてもなぁ……」


「……それは多分、わたくしと同じ様に、ワタル様の姿に引っ張られて人間の姿が元体になってるような形ですわね」


「なるほどな……」


 ワタルの疑問を、手を挙げながらのエレクシアの発言が解消した。

 要はシルクが人間の姿になったのはワタルとの『契約』が原因というわけだ。

 エレクシアが特別だと考えていたのだが…『契約』の力なのだろうか。


「それならそれでだ、なんでそれを開口一番に言わないんだよ! めっちゃ知り合い風に話してくるから困惑しちゃったよ!? 俺! 誰かなー…? 俺なんか忘れちゃってるのかなー…って不安いっぱいだったんだぞ!?」


 全く知らない人に名前を呼ばれ、なんかそれっぽいことを言ってくると、普通に自分を心配してしまうというものだ。


「いやぁ~、エーちゃんがいい感じに話合わせてくれたお陰で結構ツッこみ耐えれたよ~」


「えぇ、わたくしも中々楽しかったですわ」


「……お前ら、いつの間にそんな仲良く…って、俺が寝てる間にか……」


 いつの間にか和気あいあいとしたような雰囲気をだす二人に、ワタルは妙な疎外感を覚える。

 それにしても、遊ばれてたのか……


「……言っときますけど、わたくしが話してたことは嘘じゃありませんわ」


「そーそー、本当のことを言いながら、内心ちょっと困惑してるワタルくんを面白がってただけ~」


「それはそれでどうなんだって感じだが……そうか」


 あの言葉を思い出し、もう一度噛みしめ、ワタルは微笑んだ。


「―――うおおおお! アタシはぜッてェ負けねェよ!!」


「痛っ! ちょ、アンディス!? 痛い!」


 酔って潰れて眠ったアンディスが寝ぼけて腕を振り回し、それがワタルの頭に直撃した。

 そんな彼女をベッドの奥に押して、ワタルが攻撃範囲に入らないようにする。


「……起きてたら話ができたんだがなぁ…ん?」


 できれば積もりに積もった話をここで消化したかったのだが、アンディスがこの調子ではできる話もできないといったものだ。

 と、そこでワタルはエレクシアが何かを食べているのに気付いた。


「お前、それなに食ってんだ?」


「げ」


「これは『フィアンの実』と言って、今日初めて食べた食材なのですが、とても美味しいのですよ? ワタル様も一口いりますか? わたくしの分は沢山ありますので」


「おぉ、じゃあいただくか」


 シルクが顔を顰めた理由はわからないが、ともかくワタルはエレクシアから受け取った『フィアンの実』を少しだけ齧る――――その瞬間、口の中が痛みで覆われた。


「〰〰〰〰〰っ!?!?!?」


 否、違う。これは辛みだ。

 途轍もない辛さが、ワタルの口に燃えるような痛みを感じさせる。なるほど、シルクが顔を顰めた理由がよくわかった。……というか、これをエレクシアはしゃくしゃく食ってるのか…


「エレクシア…? それ食ってて辛くないのか……?」


「はい? まぁ確かに多少ピリッとはしますが……それが美味しいくありません?」


「………」


 なるほど、エレクシアは相当な…しかも無自覚の辛党らしい。

 ワタルの視線に、エレクシアはキョトン顔だ。

 ……待てよ?


「おーいアンディスー? 口開けろー?」


「んァー?」


 寝てるアンディスの頬を叩くと、アンディスは言われた通り口を開いた。――そこに、ワタルは『フィアンの実』を放り投げた。

 そしてそれをアンディスは租借し――――、


「―――――――ッッッたァ!?!?」


 目をかっぴらき、アンディスは勢いよく飛び起きた。


「んだこれ! 馬鹿痛ェ! やッべェ! あッちィ!」


 舌を出しながら、アンディスは痛みを訴える。


「はい、水」


 ワタルが水を差しだすと、アンディスは奪い取るようにそれを受け取って一度に飲み干した。


「いッてェ…マジで何なんだよ、これ」


「それ『フィアンの実』だよ」


「あァーだから辛かッたのか……ッて、何てモン口に入れてんだ!」


「悪い悪い…いい酔い覚めになるかなーって思ってよ」


 アンディスのツッこみに軽く謝り、意図をワタルは説明する。

 ……辛い果実か、こういうのって偶に役に立ったりしそうだな。後でエレクシアに貰っておこう。


「アンディスも起きたことだし、話があるんだ」


 ワタルは立ち上がり、みんなの方を見た。そして、ワタルは『異世界転生の事を話さない』というルールに反しない程度に、知っていることを全て話した。

 『無双の神判』のことや、ベルガルトのこと、そしてウェイルとの約束を話した。


「……じゃあ、ウチのこと操ってたのもそのベルガルトって奴なの?」


「多分な。だけど、俺は絶対そうだと思ってる」


「……ワタルがそこまで怖がッてるたァ…相当やべェ奴なんだな」


「あぁ。あいつらは、人殺しを何とも思ってないやばそうならとりあえず殺しとこうみたいな感じで殺そうとする」


「えぇ…目を見ただけで、異様だとわかる方々でしたわ」


 エレクシアはレイブウィアでの戦闘を思い出しているようだった。

 だが、この話で一番戦慄したのは、他でもない障子だった。


「―――魔物を、操る…」


 もし、もしもだ。

 それがあの時、燃える狼で街を襲った犯人だというのなら、ワタルがこの話をした理由も伺える。―――この世界に、ベルガルトが来ている可能性。


「今度は、絶対に逃げたりしない」


 その時が来たなら、障子は今度こそ逃げない。

 渡と共に戦う。それが、障子の覚悟だった。


「それでだ、これを聞いても……お前らはついて来てくれるか……?」


「―――――」


 そして、真面目な顔で皆の方を見て言い放ったワタルの言葉に、その場の全員がキョトンとした表情をした。

 それにワタルも疑問に思ったところで、みんなの顔に呆れの表情が浮かんだ。


「あのですね…わたくしは危険、危険じゃないで貴方についていくわけじゃないのですわよ?」


「そォだぜ! 愚問にもほどがあるッてんだよ……」


「はぁ~、どこに心配してるのぉ~? ウチらのことわかってなさすぎぃ~」


「渡って、本当に自分が信じられてることをとことん知らないな……鈍いってレベルじゃないぞ……」


「え? あ、え?」


 三人から呆れた反応をされ、ワタルは困惑する。

 だが、言っていることを聞くに、皆肯定的なことを言っているように思えるのだが……


「だーかーらぁー! そう言ってるんだってば!」


「本当に……いや、なんでもない」


 そうか、ワタルは、こんなにも大事に思われているのか……だから、ワタルはこれ以上ついて来てくれるか確認すると、本当に怒られそうだから口に出そうとした言葉を引っ込め、少しの合間を置いてから、もう一度口を開いた。

 そして―――、


「……ありがとう」


 真っ直ぐに、皆へと感謝を述べた。

 そこには、沢山、本当に沢山の意味での『ありがとう』が込められており、それは、追及するだけ野暮だった。

 でも、そう言われたなら、言い返したい。


「礼を言うなら、わたくし達もですわ」


「違いねェ…ワタルがいなきゃ、アタシは今頃生きてねェからな」


「だね……ウチも、迷惑かけた上に助けられちゃったからねぇ……」


 感謝を言い合い、ワタル達は笑いあった。

 笑いあって、その後で―――、


「――――あ、そういや群狼グルースウィルフィンの残党の後処理しないといけないらしいんだった、後で行こうぜ」


 思い出したように、そう言い終わった時にはもう遅かった。

 ――――その場の全員が、ワタルへと半眼を向けていた。



               △▼△▼△▼△▼△



 場所は再び、『草木雲の森』

 そこで、ワタル達は群狼グルースウィルフィンの残党を処理していた。



「シルク! そっち行った!」


「りょぉか~いっ!」


 シルクの方へ、一直線に二匹の群狼グルースウィルフィンが飛び掛かるも、ワタルの呼びかけに応じたシルクがそれを風で吹き飛ばし、木へ叩きつけた。

 鈍い音がなり、その二匹は完全に動かなくなった。


「ここら辺の奴らは大体片付いたっぽいな、そろそろエレクシア達と合流するか……つーか、シルクは後衛で援護射撃しとけばいいんだぞ?」


「ウチもみんなと一緒に最前線で戦いたいんだよぉー…って言い訳してもいいんだけどぉ……実はウチ、魔力は山ほどあるけど、魔力操作に関してはからっきしなんだよねぇー…」


 なるほどそうなのかと納得しかけたが、そこでワタルは違和感に引っかかった。


「でもお前、俺らと戦ってる時はめちゃくちゃに精密な風の刃みたいなの放ってきてたじゃねぇか。よくわからん方向から飛ばしてきたりもしてたし」


 あの時の戦闘で厄介だったのは、多数の狼の魔物による邪魔、強力かつ狙いも正確な風の攻撃、そしてそれを撃ちつつも長時間戦闘可能なほどの膨大な魔力量。

 そんな厄介三項目の内の一つである正確な風の攻撃。幾度となくワタルの命を奪いかけ、時には奪ったあの攻撃を撃っておきながら、魔力操作が全くできないなど、にわかには信じ難い。


「えぇーっとねぇー…多分あれって操られてたからできてただけだと思うんだぁー……操られてた時の方が強いって、ちょっと複雑なんだけどねぇ……」


「なるほどな……あと、言っとくけどお前が強い弱いに関しては、気にしなくていいんだからな? どうせ俺の方が弱いし」


 シルクの答えにより、ワタルは心の中で腑に落ちながら、シルクにそう言う。

 その言葉に彼女は「えぇー…」と疑り深い目で見てきている。彼女が疑っていても、ワタルはその言葉を嘘だと思っていない。

 ワタルが今まで勝てたのは、他のみんなのお陰というのが大きい。操られているシルクのあの風の極太ビームを防げたのも、自分の力よりも運の方が強い。


「それにしても、そうか……」


 彼女の言葉をよく考えてみると、ベルガルトの操作する能力は単に四肢を操るだけではなく、体の機能まで使うことができ、それは魔力操作まで及ぶというわけになる。

 となると、もし人なんかを操ったら、その『能力』まで使うことができる可能性まであるわけだ。


「まぁ、元よりクソ厄介な奴だったんだ。操作できるものが増えるくらい、どうってことない……わけじゃないけど、俺にとってクソ怖い奴ってことは変わらねぇ」


 独り言を呟き、握りしめた拳をワタルは見つめる。

 ―――というか、今はそれより優先することがある。

 それは、シルクの不器用問題だ。

 別にワタル達と共に前線で戦ってくれるというのは問題としてはないのだが、それよりも後ろから援護射撃してくれる人間が一人ほしい。


「そうじゃないと、クソ脳筋パーティーになっちまうしな……」


 シルクに真面目に練習させるというのはいいかもしれないが、指南役が…あ、センファに頼めば大丈夫か? いや、それでも時間がかかってしまうのはあまりよろしくない。この街にも、あと数日しかいない。一朝一夕で克服できる可能性に賭けるというのは、流石のワタルもしかねる。


「あ、でもまぁ教えてもらえるなら教えてもらっててほしいな……」


 確かセンファは『魔法皇』などと呼ばれてたらしいから、もし時間があればシルクに教えてもらってもいいかもしれないな……


「それはそうとだ」


 その件は後々センファに聞いてみるとして、すぐに不器用を解消できる方法………


「あ!」


 そういえばあった。一応できるかは不確定ではあるものの、確率も高く、比較的早く解消できる方法が。


「となれば色々考えられるな。普段は後衛として後ろから…あ、でもそれだと後衛が狙われたりした時に面倒だな…まぁそれは俺がどうにかすればいいか。いや、それともその状況を想定して――――」


 顎に手を当て、独り言を呟くワタルをシルクはジッと見ながら、


「……エーちゃんが言ってたワタルくんの悪い癖って、こういうことかぁ……」


 と、苦笑いしながらそう口にしたのだった。



               △▼△▼△▼△▼△



「やぁーと終わったぁ――!」


 シルクにとって初めて依頼を遂げ、ギルドでシルクは嬉しそうに背伸びをした。


「初めてにしては中々はーどな依頼内容ではありませんでした?」


「んー、でも結構楽にやれたかなぁー。リベルドくんがいてくれたお陰かもぉー」


「んなことはねぇよ……って、エレクシアはナチュラルに知ってるはずのない言葉を使うな」


 いかにも当然のようにワタルの世界の言葉を使うエレクシアにツッこみを入れると、「なちゅらる…初めて聞く言葉ですわね……!」と興味津々そうに目を輝かせた。


「それァともかく、センファサンはどこにいんだァ? さッきコソッとギルド長室行ッたんだが、いなくてよォ……」


「ん? センファに用があったのか?」


「まァな…頼んでたことがあッたんだがなァ……」


 ワタルが問うと、アンディスは赤い髪をわしゃわしゃと掻き難しい顔をした。

 そこへ、


「―――ギルドマスターなら、調べ物があると言っていましたよ」


「わわ!? ビックリしたぁ~…」


「ファリス…いきなり現れるなよ、驚くだろうが」


 突然現れた人物、それはおっとりとした笑みを浮かべる受付嬢のファリスだった。

 そしてファリスはシルクへと目線を向けた。


「それはすいません。……あれ? そういえばそちらの白髪の方、始めてみましたね、新しいお仲間ですか?」


「あー、うん。シルクっていうんだ」


「どうもシルクさん。私はファリス・エイズグです。よろしくお願いします」


「よろしくぅ~」


 礼儀正しくファリスが挨拶すると、シルクもニコニコとしながらそう返した。


「にしても、調べ物って?」


「それに関しては私はわかりかねますね……何か、隠しているようでしたし……」


「そうか……」


 まぁ、ギルドマスターっていうほどだから相当機密な物なのだろう。

 残念ながら、シルクの指南役を頼むのはまた今度になりそうだ。


「まぁそれじゃあ帰るか……」


「ですわね」

「よーし帰ろ帰ろぉー!」

「……アタシだけ別の宿なの、なんかアレだな」


「と、その前にだ」


 和気あいあい雰囲気の中、ワタルが一枚の紙を取り出し、それをファリスに差し出した。


「随分と重いですね…」


「主様、それは……?」


「手紙だ手紙。レイブウィアのある人に届けて欲しくてな。住所はそこの裏に書いてるところだ」


「なるほど…了解しました」


 ファリスは手紙を受け取った後、それを懐にしまった。


「そんじゃ、改めて戻るか」


 そして、ワタル達一行は宿へと戻ったのだった。



               △▼△▼△▼△▼△



 何だかんだ時間は経って夜になり、アンディスは自分の宿に帰っていった。


「お前らは二人部屋で、俺は一人部屋な」


「えぇー、どぉせなら三人部屋でよかったじゃーん」


「お前なぁ、せっかくその部屋は借りたんだから、新しく部屋借りるってのもよくないだろ?」


 なんだか不服そうなシルクに、ワタルはそう言う。

 まぁ、実際は一部屋に三人中二人も女性がいるというのが少しばかり…あれなだけなのだが。


「それじゃ、おやすみ」


「はぁーい、おやすみぃー」


「おやすみなさいですわ」


 そう言葉を交わし、ワタル達は各々の部屋に入っていった。


「……ふー、疲れた」


 溜息をつきながら、ワタルは二人部屋より少し小さい部屋の端にあるベッドにダイブした。

 そして、意識を失うように、深い眠りへと――――。



                △▼△▼△▼△▼△



 真夜中、裏路地にて。



「――――まさか貴方だったとは」


 月明りに当たる一人の男―――この街でのギルドマスターと呼ばれる男が、その暗闇の奥にいる人物に語り掛ける。


「アンディスさんが言っていました。「産みの親が、相手が自分の娘だと知らずに殺しに来た」と……一体何故そんなことをしたのか、それを調べてくれと頼まれていたのですが……」


 あの戦いの後、アンディスがそう頼んできたのだ。

 確か、彼女の両親はかなり昔に死んだとされていたのだが、彼女を育てたタイルスという者が父親が生きていることを突き止めて死んでしまったらしい。

 それを隠そうとしている者―――つまりはアンディスの父親がそのことを隠そうと殺したということらしい。

 そして、そこまでして身を潜めようとしている者が、突然誰かの殺しに取り掛かるというのは確かにおかしいとセンファも感じたため、頼み事を引き受けたわけだが……


「誰かに命令されていたとは思いませんでした」


 調査の末に行きついたのがこの結論だった。

 命令をされ、アンディスの父親はフェンリルと戦っている場へと参上した。つまり、今眼前にいる人物が、その主犯格ということだ。

 そして、フェンリル討伐の件を知っていたのは――――、


「―――ファリスさん、あなただけなんです」


「―――――」


 暗闇を睨み、センファはその人物―――受付嬢であるファリス・エイグズの名前を呼んだ。

 いや、実際はこれは正しくない。


「少々訂正をしましょう。――ファリスさんのフリをしている、偽物」


「―――まさか、そこまでばれてるなんてね」


 センファの言葉に、要約その人物は口を開いた。それはファリスの声だが、喋り方や雰囲気が全く違った。

 そして、コツコツという足音とともにその姿が徐々に突き当りに照らされて、現れる。そこにいるのは、間違いなくファリスだった。ファリスの姿だった。

 しかし、違和感はすぐに訪れる。


「それにしても、ギルドマスターサマが直々に出迎えてくれるなんて恐縮ね」


 肩をすくめる彼女の姿、『ファリス・エイグズ』の体の輪郭がゆらりとぼやけた。

 かと思えば、その体から『ファリス・エイグズ』の像が煙のように消えていき、声もガラリと変わった。

 そして、『ファリス・エイグズ』が消えた眼前の人物は、ファリスに比べて少し小柄な女性で、暗闇で見にくいが、青みがかった黒色の髪を肩まで伸ばし、その一部を後ろで纏めていた。


「あーあ、折角『あの方』に幻かけて貰ったのに、とけちゃったじゃん」


「知りませんよ」


 がっかりそうなその女性に、センファは冷たい言葉を返す。

 それと、今気づいたことだがセンファには彼女の顔を見たことがあった。


「貴女は確か……懸賞首の『壊し屋』マフィーネ・シェイリストでしたか」


「へー、意外と有名なんだ、わたし」


 そう、確か彼女は懸賞首で、かなりの額の懸賞金がかかっていたはずだ。

 そして、その彼女の言葉がそれを肯定していた。


「貴女には色々と質問があるのですが、いいですか?」


「まぁ、話せる範囲ならいいけど」


 センファがそう言うと、マフィーネは案外あっさりとそれを了承した。


「で? 質問って? 言うなら早くしてくれない?」


「………ダルヴィス・ティメンタという方に覚えはありますか?」


「そりゃあるよ。ていうか、その件でわたしに会いに来たんでしょ?」


「……それでは、何故彼をあの戦いの場へと送り込んだのですか?」


「それは…まぁこのくらいは言っていいか。『あの方』に頼まれたからだよ」


「……その『あの方』というのは一体どのような目的で?」


「そんなことは手下のわたしには教えてもらえないの。だから残念だけどその質問には答えられない」


「……なら、『あの方』とは一体誰ですか?」


「―――それは、答えられない」


「それなら――――」


「もういいでしょ? 多分、あなたが聞きたいことに、わたしはもう答えられないと思うよ」


 いくつか問答を続け、また一つ質問しようとすると、マフィーネは呆れたような顔でそう言った。

 

「まぁまぁ、これが最後の質問です。――――本物のファリスさんは、?」


 そんな彼女を説得しながら、センファはそう問いを投げかけた。

 だが――、


「―――――ほら、やっぱり答えられない」


 その質問にマフィーネは答えなかった。

 ――――だが、それだけで十分だった。

 ファリスは、


「―――そうですか」


「―――気は済んだっぽいね」


 それを確認した時、センファは既に大杖を手に持っていた。

 そして一方のマフィーネも、いつの間にか自身の体より大きな大剣を担いでいた。


「―――――――」

「―――――――」



 それから睨み合い、睨み合い、睨み合い―――――戦いが、巻き起こる。



               △▼△▼△▼△▼△



 ―――同刻、ワタルの部屋。



「ん……?」


 ワタルは目が覚めた。

 その理由は、部屋の扉だ。扉が開き、誰かが入ってくる。


「シルクか?」


「そうだよぉ~」


 入ってきた人物の名前を呼ぶと、シルクは元気よく返事をした。

 だが、態度には変わりないが、その服装には違和感があった。


「………」


 異様なほどに薄着で、目のやり場に困るような服装をしていたのだ。

 そのことについて問い詰めるのは…ちょっと失礼かもと思うのでやめておこう。


「それで、何の用だよ。こんな夜中に」


「それはねぇ……」


 ワタルが質問すると、彼女はこちらへ近づき、あろうことかベッドの中に入ってきた。


「おい!?」


「……助けて貰ったお礼…ウチにはこれくらいしかできないけどぉ……」


 ベッドに入ってきたシルクが、そんなことを囁く。

 その吐息交じりの声は妙に艶っぽく、ワタルは赤面する。


「いいから! はよ寝ろお前も!」


「まぁまぁ、そう言わないでよぉ…ウチも初めてだから、勇気だして来たんだし…」


「気持ちだけ、気持ちだけ受け取っとくから! 添い寝とかそういうのはいいって!」


 そんなもの破廉恥ハレンチすぎると、ワタルはシルクをベッドから追い出そうとする。

 だが、シルクは「添い寝……?」と疑問符をつけワタルの言葉を反芻する。


「添い寝とか、そんなんじゃないよぉー……ほら、なんて言うの? よ、夜伽よとぎ的なさぁ……」


「ヨトギ……? なんだそれ……」


 赤面しながらの彼女の言葉が、ワタルには聞き覚えがなかった。


「〰〰〰〰〰〰っ! あぁもぉー!」


 それに顔から火が出たように熱くなったシルクが、癇癪を起したように今度はワタルの腹の上にまたがってきた。


「夜伽、夜這い、交接、性行為、交尾!!」


 凄い剣幕で、シルクがそう単語を並べる。

 そして、その言葉を聞いてワタルは思った。



 ―――――交尾って、メダカがするやつだっけ? 人間もできるのか?




『暗闇で渦巻く陰謀』


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


何してんだよ……




 




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