第一章 / 24話 『選ぶ必要の無い二択』

「愉悦の…道化?」


 不気味な笑みを浮かべる仮面を被ったウェイルが名乗った二つ名を、ワタルは口の中で転がす。


「名前なんざどォだッていい。ともかくだ―――テメェは敵ッてことでいいんだな?」


 まだ混乱しているワタルを差し置いて、アンディスは敵意をむき出しにしながら大剣を握り直す。


「それは、あなた方が私にこのフェンリルを触れさせて頂けないのなら、の話ですが」


「なら、戦闘は避けられなさそうですわね」


 アンディスに続き、エレクシアもいつでも戦闘ができるような状態になる。

 二人の仕草に、ウェイルは目を細くする。


「まぁ、仕方のないことですか…」


「――――!?」


 軽く息を吐いたかと思うと、ウェイルの姿が消えた。

 いきなりの出来事に、その場の全員が固まったその時だ、


「―――狙うは中枢……鉄則です」


「〰〰〰〰っ」


 耳元で、息がかかるほどの耳元で、そんな声が聞こえた。ネットリとへばりつくような声が、殺気と共に放たれた。

 囁きに鳥肌が立ちながらも、命の危機を感じたワタルは、必死で前に飛ぶ。その直後に、背後から風を切る音が聞こえた。横目で見ると、そこにはワタルがいた場所へククリナイフを振り下ろしたウェイルがいた。

 一体、いつそこに移動したのか、その答えは簡単だ。


「今のは……」


「さっきのは多分、あいつの能力で、物に潜ったりするんだ」


 ウェイルに向き合ったワタルが、エレクシアの疑問に答える。


「……何故それを知ってるのかは、後でお話願いますわ」


「う…はい……」


 そのことに納得しつつも、情報源に納得がいっていないようなエレクシアに、ワタルは苦笑する。


「気を取り直して、だ。あいつをどうにかしないと」


「アイツの能力は、奇襲ッて面でも、回避ッて面でもメチャメチャに便利だ……奇襲は三人いる分なんとかなりゃァするが、回避されると面倒だ」


「まったく……戦闘中に長い分析は命取りですよ?」


 くぐもった声で、首をゆらゆらと振ったウェイルは呆れてるように言った。

 そして何故か、その手には一本しかククリナイフは握られておらず―――、


「ワタル様っ!」


「――――っ!?」


 直後、エレクシアが横からワタルに体当たりして飛ばす。その直後、ワタルの上を、風に乗って旋回するククリナイフが通過した。

 そして、それがウェイルの仕業だと理解したと同時、そのウェイルが回るククリナイフをキャッチし、猛接近してきている。

 恐らく、エレクシアがワタルを助けることを見越していたのだろう。ウェイルがククリナイフを振り上げるが、アンディスが割り込もうとする。

 しかし、


『ウィード・フィクセイド』


「ち、ィッ!」


 アンディスに、ウェイルの魔法の風が向けられる。そして、アンディスは木に叩きつけれた。

 だが、それだけなら立て直して攻撃すればいいだけの話だ。だというのに――、


「あ、が…っ。んだこれ……ェ…ァ……」


 壁から、アンディスの体が動かない。それは明らかに、ウェイルの魔法による妨害工作だ。そして、重圧を掛けられたアンディスは気を失った。

 そんなアンディスを尻目に、ウェイルは握る二本のククリナイフを同時にワタルへと振るう。それに対抗すべく、ワタルは地面に背中をぶつけながらもダガーを取り出してそれを受けた。


「ク…ソ……!」


 何とか受けたものの、こんな短い刃物で、体重を乗せた刃を受け続けるのはかなり無理がある。


「エレ…クシア……頼、む…!」


「――――」


 そこで、エレクシアに助けを求めるが、返事がない。顔を見てみると、疲れ果てたように気絶している。魔力切れだとか言っていたし、無理をしたツケが来たのだろう。助けを求めることができないのなら――、


《カゲ、ロウ……!》


「おやおや……」


 そう唱えると、ワタルの影からウェイルへと棘が伸びていく。

 それを避けるためにウェイルはバックステップで躱し、その隙にワタルはエレクシアをどかして飛び起きる。そして、今度はワタルがウェイルへと飛び掛かる。


「そい、やぁっ!」


 ダガーを振り下ろし、それが避けれると、ワタルは回転をしてウェイルの横腹を狙うも、それすらもひらりと躱されてしまう。


「動きが素人丸出しですねぇ……やっぱり、『ニホンジン』といったところでしょうか」


「――――っ」


 そう言いながら、ウェイルが不気味な仮面でワタルの顔を覗き込むと、地面から風が巻き起こってワタルを宙へと飛ばす。

 そうして避けることのできない場所へ追い込まれたワタルへ、ウェイルは飛び掛かる。だが、避けることができないからって、反撃できないわけではない。

 そう思い、ワタルは《器》から石を取り出し――、


「ゼ――」


「――投石ですよね? 読んでますよ」


 ワタルがしようとしていることを、ウェイルに言い当てられ、ワタルの心臓はドキリと跳ねる。だが、フェンリル戦の時に見せていたのだから、納得はできる。そう言い聞かせ、ワタルは石弾を放つ―――。


「言いましたよね? ―――私は、『道化』だと」


「が…ぁっ」


 その瞬間、視界は揺れた。

 原因として考えられるのは、顎に与えられた衝撃……だが、それが何による衝撃なのか、検討もつかない。


「何…が……」


「種と仕掛けのこの手品、当ててみてくださいよ。―――まぁ、生きれたらの話ですが」


 視界を揺らされ、焦点の合わないワタルへ、ウェイルは風の力で急接近し、ワタルの体をバッテンに切りつけた。


「そぉれっ、と」


 そして、既にズタボロなワタルへと、空中で身を捻ったウェイルは、その勢いでワタルを地面へと蹴りつけた。


「…ぉ……っ」


 背中を強打した息苦しさと体を切られた痛みに、ワタルは地面を爪を立てて引っ掻く。

 ―――熱い。

 切られたところが、熱せられるかの如く熱い。苦しさで声を上げようとしても、口から出てくるのは赤黒い血塊だけ。

 切られたところは熱く、視界も真っ赤に染まっているのに、どんどんワタルの体温は下がっていく。


「……あぁ、いいですね。いい感じに気分がたのしくなって来ました。そのついでに教えてあげましょう――私の『愉悦』の能力は、空気を凝固するんですよ。壁にしたり足場にしたり、拳の形にして顎に打ち付けたり…使い方様々で面白くないですか?」


 軽い口調で、ウェイルが自分の能力について話す。

 そんな中でも、ワタルの体はどんどん下がっていって―――。


「この能力のおかげで、風魔法の詠唱も……って、もう無理そうですかね」


 ワタルの様態を見て、能力の説明を中断してウェイルはフェンリルの方向へ向かおうとする。


「ク…ソが………」


「………ホント、何なんですか? 貴方」


 『愉悦の道化』と、そう名乗ったウェイルでさえも、血みどろで立ち上がったワタルへの畏怖の念を抱かずにはいられなかった。

 胸はパックリと割れ、そこから血が溢れてきている。口を血で汚し、ワタルの足元は赤く染められていた。常人ならば明らかに死んでいるであろう出血量、だというのに、ワタルの目は死んでいない。


「不思議というかなんというか……やっぱり、貴方は生かしておきたくないですね」


 そう言って、ウェイルは空気を凝固した拳をワタルの腹部へとぶつけた。それにワタルは背後へと飛ばされ、血が口から噴き出す。しかし、ワタルは倒れない。しっかりと着地し、ウェイルを見据える。


「ヒューッ…ヒューッ………」


「ちゃんと殺さないと、死なないんですねぇ……何が、貴方にそうさせるんです?」


 喉から息を漏らすワタルへ、ウェイルは問いを投げかける。


「あのですよ? 貴方のそれ、完全に致命傷なんですよねぇ……貴方の生き返る能力ならまだしも、まだ死んでないのでそれはないとします。――なら、貴方がそんなに立ち続けられる理由って、何なんですか?」


「………」


 つらつらと、質問の意図をウェイルは説明する。

 だが、その場には沈黙が流れるのみで、ワタルからの返答はない。


「まさか立ったまま死んでる……とかじゃないですよねぇ? そうだったら私大分恥ずかしいんですが」


 軽い口調でそう述べた後、ウェイルは空気の拳を二つにし、軽くワタルを殴る。ワタルはふらつくも、倒れない。もう一度殴る。倒れない。殴って、倒れない。殴って――。


「お前、なぁ…シンキングタイムくらい、くれたっていいだろうが……」


「おや、ようやく反応してくれましたか」


 『おきあがりこぼし』のように、倒れそうで倒れない姿がちょっと面白く感じてきたころ、掠れた不満交じりの声が、ワタルの口から放たれる。

 それにウェイルは仮面の裏で眉を上げた。


「それでそれで? 理由は何なんです? やっぱり、仲間を死なせなくないとか、生きてやることがあるとか、そういうありきたりな―――」


「―――やりてぇことを、やるためだ」


「……ほう?」


「食うのも、寝るのも、笑うのも―――生きてる奴の、特権だろうが」


 そう言ったワタルの目が、より力強くなったように感じた。

 そしてそれは、ウェイル的にとても好みな答えで――、


「……ハ、ハハハ! ハッハハハハハハ! いいですねぇ! 言ってることは同じようなものでも、その本質は全く違う! そういう言い回し、大好きです!」


「お気に召したようで、なに…よりだ……」


 ウェイルの笑いに、ワタルが威勢のいい返事をするが、声にはもうほとんど力は残っていない。


「それじゃあ、遺言も聞いたことですし……そろそろ死にましょうか」


「はぁぁ……お前、話聞いてたか?」


「……なんです?」


 ククリナイフの柄を持ち直し、トドメをさそうとした時に放たれたワタルの言葉に、ウェイルは少しだけ、警戒をする。

 不死身なのではと思えるほどしぶといワタル。そんな彼が、疑問を浮かばせるようなことを言ったのだ。嫌でも警戒したくなるのも当然だ。

 それにしても、ワタルにはつくづく乱される。ウェイルは愉悦であり、道化だ。だというのに、ワタルと戦ってる時、愉しみが沸いてこない。愉しもうとしても、それが乱される。警戒、畏怖、不安。そんな感情が沸く。

 そして、ワタルは口を開く。


「何かを成すのも、生きてるやつの特権だ。そして俺は、やりたいことがあるんだ。だから―――」


「………」


「―――死にたくねぇし、死ぬつもりもねぇっつってんだよ」


「――――っ!?」


 宣言と共にワタルが一歩踏み出したと同時だ。

 ワタル中心に闇が広がっていき、その場を包んだ。


「これは……っ」


 ワタルが使っていた《カゲロウ》だとかいうものか? いや、違う。これは――、


「闇魔法……!?」


 『争いのないニホンという国から来た人物』であるワタル。だから、魔法はないと思っていた。剣と魔法からは無縁の世界。そんな彼が、魔法を使うとは想像もつかないのも当然だ。

 だが、予想外なのはワタルも同じで――、


「なんだ、これ…」


 一歩、強く踏み出した時に現れたこの闇。その正体を、ワタルは知らない。だが、これがワタルから放たれたというのは、何かが抜けたような感覚を味わったことからわかる。

 とにもかくにも、この内に―――


「あいつを、迎撃する」

「返り討ちにするしか、なさそうですねぇ」


 逃げようにも、エレクシアとアンディスを置いて逃げるにはいかない。この場を乗り切るには迎撃しかない。そしてそれを、ウェイルも承知していた。

 だから、この場では戦うしかないと、両方が身構えたときだ。


「――――失礼」


「――――!?」


 空から誰かが、闇を割って入ってきた。

 その風圧に吹き飛ばさそうになるも踏みとどまり、その人物の顔を見る。

 そして、もう一度衝撃を受けた。何故なら――、


「――すいません、リベルドさん。遅れてしまいましたかね……このセンファ、ギルドマスターとして貴方の助けに参りました」


「なんで…お前が……」


 その人物が、大きな杖を手に持ったギルドマスターであるセンファ・パルスァートだったからだ。

 突然の参戦に驚きつつも、ワタルはここにいる理由を問う。それに、センファは答える。


「実は…なんだかとても、嫌な予感がしたものでしてね」


「随分、勘がいいんだな」


「勘…というより、なんだかとても不吉な感じでして……」


「?」


 ――センファは省略していたが、センファが思った嫌な予感というのは、センファのいた部屋の家具が、ばったんばったんと倒れたからだ。そして、そんなポルターガイストを起こしたのは――、


「よかった…間に合ったっぽいな……」


 フェンリルとの戦闘を始めたばかりのころ、遠くから見つめるウェイルを見た障子だった。


「それにしても、渡ぼろぼろすぎでしょ……! なんで立ってられるんだ……」


「リベルドさん、大丈夫ですか?」


「そう見えると困るんだが……」


「それもそうですね、少し待ってください」


 そう言い、センファは杖をワタルへと向ける。


『彼の者を癒し給え。ヒルサイド』


 詠唱が終わると、ワタルの体に入った裂傷が癒えていく。

 疲労は消えていないが、傷がない分少しは動けるようになった。


「助かった、センファ」


「いえいえ…それよりも、リベルドさんはそこで休んでいてください。傷は癒えても、疲労が取れたわけではありませんので」


「でも……」


「大丈夫ですよ。私はこれでも、ギルドマスターなので」


 ワタルの心配を断り、センファはウェイルの方向を見る。

 そんなセンファの背中は、とても力強く見えた。


「まさかまさか、ここでギルドマスターが登場されるとは……一応聞かせてもらいますけど、交渉の余地とかってありますかね? 私的にはフェンリルにすこーしばかり触れさせてもらえればいいのですが…。このまま戦っても、互いに不利しかこうむりませんでしょう?」


 ギルドマスターと戦うのは流石に不利益しか被らないと思ったウェイルが、センファへと交渉を仕掛ける。だが、センファがそんなものに応じる気はない。


「残念ですが、リベルドさんやエレクシアさん、そしてアンディスさんへ攻撃をした時点で、交渉の余地はありません。それに、私にとっては利益がありますよ―――貴方を拘束することができるのですから」


 そう利益を述べた時、センファが杖を構えた。

 その瞬間、センファの周りを、炎、水、土、風、雷、氷と、全属性の魔法が取り巻く。魔法というものをまだあまり知らないワタルからでも、全属性の魔法使いというのが異常なものであるということはわかった。


「これが、かの『魔法皇』の力ですか。すさまじく、面白いですねぇ」


「……まさか、その名まで知っているとは…いやはや、恐ろしいです」


 ウェイルが口にした『魔法皇』というのは、恐らくセンファの二つ名のようなものだろう。確かに、全ての属性を使うなんてことができるなら、そんな二つ名が付くのも当然だろう。そしてそんな『魔法皇』を前にしたウェイルはというと――、


「そうですねぇ……貴方とこれから死闘を繰り広げるというのも、中々愉しいものにはなりそうですが―――」


「―――っ! センファ! あいつは地面とかに潜る!」


「奇襲を警戒します! リベルドさんはエレクシアさんを――」


「―――生憎と、こちらの方が優先順位が上でしてね」


 不意に沈み、次にウェイルが姿を現したのは、横たわるフェンリルの横だった。

 不意打ちが来ると思っていた分、その行動はワタル達の意表を突いた。


「しまっ――」


「ではでは、『核』を頂きますか」


 静止は間に合わず、ウェイルはフェンリルの体に触れる。

 何をしているのかはわからない。何をするからわからないから、ウェイルの行動を防ぎたかった。

 しかし、ようやく目的を達したにしては、ウェイルの表情は芳しくなかった。


「これは…いや……」


『炎と風よ! フィード・グラーディック!』


 その隙に、センファは炎と風を混ぜた爆炎をウェイルへと放つ。だが、それはウェイルの手を払う少しの簡単な仕草で搔き消された。


「なっ……」


 あまりの出来事に、センファが目を見開く。

 ――あの一瞬、パッと見ではウェイルが手で払ったからそうなったように見えるが、恐らくウェイルが言っていた『愉悦』の空気凝固の能力で壁かなにかを作ったのだろうが、それでもあの明らかに大技の魔法を防ぐのは中々の衝撃だった。

 そんな衝撃を受けて固まるワタル達へ、ウェイルは振り返る。


「すいません…貴方がたと戦う理由が、ホントに無くなってしまいました」


 そして、肩をすくめてそんなことを言った。

 その言葉に、ワタル達は訝し気に眉を寄せる。


「それは、もう目的を達成したと、そういう意味ですか?」


「いえいえいえいえ、単純な話です――この魔物は、フェンリルではなかった」


 ウェイルの言葉、それは驚くべきものではあったが、納得できるものでもあった。


「……それは、本当ですか?」


「多分…そうだと思う。アンディスもそんなこと言ってたからな……」


「まぁ、というわけなので―――」


 そして、ウェイルが一言言葉を挟んだ後、地面に沈んだ。

 この場合、多分ウェイルがする行動は、逃亡だ。方面は恐らく――、


「街と、反対方向!」


「ちょっ、リベルドさん! 安静に!」


「悪い!」


 センファの静止に一言謝り、ワタルはウェイルが向かうと思われる方向へと走る。

 すると、


「……あぁ、そういえば。お客様、言い忘れてたことがありました」


「待てこら! ……って、動きキモッ!」


「心外!? じゃなくて……」


 ウェイルの反応はおいておいて、今のウェイルは、半身のみを地面からだし、その状態でワタルの方向を見ながら滑るように移動していたのだ。そんな感想が出るのも無理はない。

 ともかく、ワタルはウェイルの言い忘れてたことを聞く。


「あの魔物、操られていました。それも、体を無理やり動かされるような形で」


「……やっぱりか」


 前世で『暴食』が挙げていた『怠慢人形繰り』だとかいう人物が、もしベルガルトなら、体を無理やり動かす操り方というのにも共通する。

 しかし、重要なのはそこではなかった。


「貴方が誰を思い浮かべてるのかは知りませんが、戻ったほうがいいですよ」


「………」


 ウェイルのその言葉に、ワタルは疑問に眉を寄せる。

 その疑問は、ウェイルの言葉で解消された。


「―――四肢を無理やり操る手法なら、気絶どうこうって関係ないんじゃないですか?」


「――――っ!」


 確かに解消された。だが、解消された変わりに、更に大きな問題が降りかかってきた。ウェイルか、フェンリル(仮)か、究極の二択―――いや、違う。

 ワタルは元より、一つしか選べない。


「クッッソがぁ!」


「英断ですねぇ…それでは、また」


 ワタルは、悪態を大きな声で叫びながら、踵を返してフェンリル(仮)の方向へ走る。

 逃亡を選んだ『仮面怪奇』こと『愉悦の道化』か、怨敵ベルガルトが操る巨大な魔物、どちらを優先すべきかは、考えるまでもなかった。



               △▼△▼△▼△▼△



 ――同刻、とある城の、とある部屋、一人の男が異変に気付いた。


「……あ? 道塞がせてる…なんつー魔物だっけか…まぁいい。あいつにかけてた『自動操作オート・マリアント』、解けてんじゃねぇか。メンドクセェ」


 魔物を自動遠隔操作する能力の応用、それがあの魔物の気絶によって解けてしまったようだ。


「あ~、メンドクセェメンドクセェ。んでもまぁ、適当に」


 そう言って、男は目を閉じる。

 そして、手動での操作へと切り替える。


「邪魔してきた敵は……四人か。その内の二人は気絶してるらしい。んでもって、一人はこっちに走って来やがるな」


 能力で操る魔物の視界と男の視界は共有できないが、操り人形の周囲の気配を感じ取ることはできる。

 そして、敵戦力が半減していることを察した男は、次の行動に出る――いや、出させるために、右手の指を動かした。それから男は、あくびを一つ挟み―――、


「―――街適当にゴッソリ抉っといたら、操り人形こいつが死んでも、街の被害にはなるだろ」


 そう淡々と、実に無関心そうな目と声で、余りに利己的で残酷な結論を出した。



『選ぶ必要の無い二択』


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