第一章 / 15話 『三人の冒険者』


「なんだよ…これ…」


 目の前で起こった出来事に、ワタルは呆然とする。

 さっきまで人間だったハズのスコックが、その言葉が信じられないほどまでに変わり果てた怪物になってしまったのだ。能力によって異形になったとはいえ、人間としての型は保っていた。だが、今のスコックは違う。体は大きくなり、殻の間から肉がはみ出ていて、見る影もない。呆然とするのも無理は無い。


 恐らく、スコックの着けていたあの首輪。あれに何か原因があるのだろう。スコックが変化する少し前、首輪は制限開放だとか言っていた。それにより能力の制限リミッターを壊し、暴走させたのだろうか…


「最適解だな、クソが」


 負けた人員の口封じと同時に、暴走させることでワタルのように情報を聞き出そうとした者を排除させる。何ともまぁ合理的な策だ。―――それでいて、利己的だ。

 スコックが言った「死にたくない」と「殺してくれ」という言葉、それはこんな化け物になりたくないという意思の表れだろう。


 『無双の神判』、そのトップ層は、ワタルが思ってたよりも人の心を持っていないらしい。



△▼△▼△▼△▼△



「お、おい。あれ、サシスト隊長…だよな?」


「あ、あぁ。そのはずだ」


 そのころ、森の中から五十七番隊の隊員たちは、スコックの変化を見てどよめいていた。

 いきなりの上司二人の死亡。それにより、隊員たちはどうすればいいかわからずににいた。


「これ…退いた方がいいんじゃないか…?」


 その中の一人が、声を上げる。その提案に、周りの隊員たちも賛同した。だが――、


『アー、アー、聞こえるー?』


「「―――!」」


 その時、突然隊員たちの首輪から声が聞こえる。その声に、全員が肩をビクリと弾ませる。


「ご、『強欲』様…」


『よかったよかった、聞こえるみたいだね、うん。――それで、本題なんだけど、君たちの隊長の…えっと、何だったかな…まぁいいか、うん。で、君たちの隊長君が化け物みたいになったと思うんだけど……どう? ちゃんとなってる?』


「は、はい。隊長は…蠍の魔物となって隊長を襲った者を攻撃しています」


 隊員の一人が、見たままのことを正直に『強欲』と呼ばれる男に話す。それに男は――


『はは! やっぱり! いやー、今までみんな見えない束縛ブラインド・チェーンをつけ始めたら大人しい良い子ちゃんになってたけど、ハプニングが起きてよかった、うん。しっかり作動し、薬の効きのばっちりみたいだな、うん』


 それを聞いた『強欲』が、まるで子供のようにはしゃぐ。


「………」


 隊員たちは、スコックたちを尊敬していた。偶にぶっ飛んだことをいうときはあるが、意外と部下思いな良い人たちだった。

 そんな尊敬するスコックの『死』を、喜ばれた。

 そのことに怒りを感じぬわけではない。だが、今話している『強欲』はスコックよりも圧倒的に立場が上の存在。反論など、できないのだ。


「……それで、これから我々はどうすれば良いのでしょうか」


 隊員の一人が口を開く。それに対する『強欲』の答えはというと――、


『ん? あー…まぁ、適当に隊長君に加勢してあげなよ』


「え…」


 あまりにも投げやりな指示。それに一人が声を漏らす。


「あ、あの…今、隊長は暴走しています。我々が入り込む隙はありません。なので、退却したほうがいいと考えま―――」


『――――なに? それってさ、僕に意見してるってこと?』


「――――っ。い、いえ、申し訳ございませぶっ」


 隊員が提案した次の瞬間、見えない束縛ブラインド・チェーンから聞こえる声だけからでもはっきりと伝わるほどの怒りを孕んだ声が、一人の隊員に浴びせられる。それを察知した隊員はすぐさま謝ろうとしたが時すでに遅し、その隊員の顔は既に無くなっていた。


「―――――」


『はぁ……この能力使うと部屋が血で汚れるから使いたくなかったんだけどなぁ、うん。ま、とにかく君たちもさっさと行ってきてよ。―――煩わせないでね』


「――――」


 最後にそんな言葉を残し、通話が切れた。

 どうやら、第五十七番隊に退却の選択はないらしい。逆らえば、死ぬ。


「第五十七番隊! 総員、隊長に続け―――ッ!」


「「「オォ――――っ!」」」


 恐怖を孕んだ掛け声。だが、死が迫っているという恐怖が、士気を強制的に上げている。

 そしてその草むらから飛び出―――


「―――させはしないさ」


 突然そんな声が聞こえたかと思えば、目の前に先ほどまではいなかったハズの一人の女性がいた。恰好からして、恐らく騎士であろう。

 そしてその女騎士は、腰に掛けた剣に手を添え――


『偉大なる風の精霊よ。我が剣に力を与え、眼前の敵を滅ぼさん。剣技・流れゆく爽風ウィード・サセファイド


 そう唱えたと同時に抜かれた剣と騎士が、隊員たちの横を風が吹き抜けるかのように通過する。


「ぐぁっ」


 気づいた時には、飛び出した隊員は全て切り伏せられていた。

 まぁ、隊長の一対一サシを邪魔するよりか、幾分かましだ。


「―――! フェル!?」


 その時、ワタルがフェルの存在に気付いた。


「少し大きな音が聞こえたからな。それも、街の外と来たものだ。―――不躾ながら、加勢をしようと思ったまでだ」


 その判断のおかげで、『無双の神判』の加勢を防ぐことができた。つくづく、フェルの判断には救われる。


「それに、来てるのは私だけではないぞ」


『―――柔化し、足をとらえよ。ラード・スワンプル!』


 聞き覚えのある声による詠唱が聞こえたと思った瞬間、怪物スコックの足場が泥のようになり、足を沈ませる。

 この魔法は…


「テガイズ!」


「よぉ! リベルド!」


 ワタルの呼びかけに、右手首のないテガイズが応じる。


「お前まで…右手は大丈夫なのか?」


「おうよ、止血はされてるからな。それに、右手ないくらいなら魔法の使用になんの問題もねぇ」


 近づいてきたテガイズが、包帯でぐるぐる巻きの手首のない右手をさする。

 

「お前が戦ってるんだ。俺がのうのうと休んでるわけにはいけねぇからな」


 そう言って、ふっとテガイズが笑いかける。……なんだかんだ、人情に篤い。


「そうだ。あの怪物、お前の手吹っ飛ばした奴だぞ」


「え!? マジで!? 何でこんなこんな風になってんだ…?」


「…あいつは、入る組織間違えちまったんだよ」


 それを聞いたテガイズが、「…なるほどな」と納得した表情を見せる。


「ギュルルォ――――ッ!」


 その次の瞬間、蠍が叫ぶとその尾の先端が輝き、光弾を射出する。


「なっ」


 テガイズを突き飛ばし、ワタルも逆に跳ぶ。それにより何とかよけれはしたものの、光弾を射出できるとなれば足を沈めた意味がない。

 離れていてはあの光弾にやられてしまう。だが、接近戦で殴るとしても、今のワタルの疲れ切った拳では、蠍の硬い殻を破れるかはわからない。


「―――エレクシア! デリバンを呼んで来い!」


「はい!」


 ワタルが呼びかけた瞬間、エレクシアはすぐさま行動に移す。

 何故デリバンを連れてきてもらうかというと、彼のジョブの力が必要だからだ。


「ならば、私たちで時間稼ぎが必要だな」


「…まさか一端の冒険者の俺がこんなすごそうなのに駆り出されるとはな……」


「何だかんだ、この面子での戦いって初めてだな。まぁ取り合えず――」


 ―――ラストスパートだ。



               △▼△▼△▼△▼△



「ギュルォァア――――!」


「来た! テガイズ!」


「任せろ! 『大地よ! 堅固なる岩盤で我らを護り給え! ラード・プロテイク!』」


 尾を光らせた瞬間、ワタルの呼びかけに応じて、テガイズが岩の壁を作る。それにより、光弾を防ぐことに成功した。


『形成せし岩盤を砕き給え。ラード・リトラン』


 そして次に、その壁をテガイズは砕く。それは、ワタルの飛ばす弾用だ。


力を生み出す能力ゼロ


 触れると同時にゼロを付与しながら岩石を射出する。


「ギュアァア――――!」


「うっそだろ!?」


 飛び行く岩石を、蠍が光弾を放ちながら尾を振り回して破壊する。


『偉大なる風の精霊よ。我が剣に鋭風を纏い、彼の者を貫かん。剣技・戎壊の突風ウィード・ペネトリック


 光弾を放った次の瞬間を狙い、風の刺突を蠍へと放つ。

 だが、それは奇しくも蠍の装甲を貫通することはできずに魔力は解ける。


「やはり、私程度の攻撃では装甲をはがすことすらもままならないか…」


「―――あいつなら、あと少しか」


 避難所はこの街の正門の反対側の辺り…エレクシアならもうそろそろ戻ってこれるだろう。


「ギョルルルォ――――!」


「ちぃっ!」


 乱打される光弾。その全てをワタル達は避ける。

 ギリギリだが、見極めることができるようになっている。だが、それでもこれが続くとなると、疲労したワタルが耐えられるかは怪しい。

 そこへ―――、


「―――ぬおぉぉぉ!? なんで俺がぁぁぁあ!?」


 場違いな陽気な叫び声が聞こえる。それはどこかで聞いた声……


「―――! エレクシア! デリバン! ナイスタイミング!」


「ないすたい……。―――! ありがとうございます!」


 ……? 丁度なところで現れたエレクシア達にワタルは称賛するが、なんだこの違和感…。異世界後が通じた…?


「……まぁ、後で後で…」


 …なんだか、後回しにしていることが増えていっている気がする。まぁ、今問題はないからいいと考えよう。


「おぉい! リベルド! 俺に何させようって―――」


「フェル! デリバンに風の力付与してあいつに飛ばせないか?」


「え!? いや、できないことはないが…」


「じゃあ頼む!」


 デリバンの話は一旦無視し、フェルにお願いする。

 そのお願いにフェルは少し困惑した様子を表したが、すぐに実行に移した。


『偉大なる風の精霊よ。彼の者に風の力を与えたまえ。追風の祝福ウィード・エンチェスト


 フェルそう唱えると、風の魔力がデリバンに集まっていくのを感じた。

 恐らく、風系だから移動系バフだろう。


「デリバン! あの殻が邪魔なんだ!」


「――――。なるほどな! わかったぜ! 鍛冶屋の意地、見せてやらぁ!」


 ワタルの一言でデリバンは察したのだろう。デリバンは蠍に向かって跳ぶ。そして、腰の工具ポケットから金槌を取り出し、蠍を叩く。


合砕クラッシス―――ッ!》


「ギュルァアァァアァァァ―――――ッッ!?」


 デリバンの叫びながら振り下ろされた金槌が直撃し、その装甲のみを綺麗に砕く。


「よぉし!! どわぁ!?」


 装甲を砕き、空中に放り出されたデリバンを、ジャンプしたワタルが突き飛ばす。そして、ワタルは素っ裸のぐずぐずの肉のみの醜い姿となった蠍の頭上に来た。


「―――――」


 その蠍と、目が合う。蠍に瞳孔があるわけではないが、視線が交差したように感じたのだ。だが、その目の奥にもうスコックの姿はない。


「――――もう、眠れ」


 ワタルは体の上部から《力を生み出す能力ゼロ》を放出し、超速落下して蠍を踏み貫く。


「ギュ…ル…ぁ…」


 蠍を貫通し地面を砕いたワタルの攻撃。それは確実で完全に、蠍を絶命させた。


「――――――」



 長く、物語の一端でしかないワタルを苦しめた戦いが、ようやく終わった。



               △▼△▼△▼△▼△



「―――ふ…ぁ…」


 朝日が顔に差し、ワタルは目が覚める。


「おはようございます。ワタル様」


「……なんでこんなところにお前はいるんだ?」


 顔を横に向けると、そこには正座したエレクシアがいた。


「ワタル様の横にお付きさせてもらっておりました」


 そういうことを聞きたいわけではないんだが……


「まぁいいや…よっと」


 ベッドから起き上がり、少し背伸びをした後、


「エレクシアー、行こうぜ」


「畏まりました」


 外へと繰り出した。



               △▼△▼△▼△▼△



「……」


「…意外と、活気立ってますね」


 外に出て回りを見渡すと、家は所々壊れており、その復興が行われている。


「さて、と」


 しばらく歩いたあと、ワタル達は冒険者のギルドについた。

 そして、その扉を押し開く。


「―――、リベルドさん」


「よっ、エルミス」


 受付嬢、エルミスがワタルの偽名を呼んだ瞬間、周りの冒険者がどよめきの声を上げる。だが、それに気にせずワタル達は会話を続ける。


「テガイズさんは元気ですか?」


「はい、右手が無いってのに、「俺も復興手伝ってくるぜ!」と言って聞かなくてて…」


「はは…相変わらずだな…」


 テガイズの言葉に、ワタルは苦笑する。


「それで、今日は何の用で来られたんですか?」


「そういえば、わたくしも聞いてませんでしたわ」


「まぁ、言ってないからな。それでなんだが…」


 エルミスに聞かれ、ワタルは本題を切り出す。


「―――俺の『リベルド・アンク』って名前を、世界に轟かせてくれ。「レイブウィアを護った冒険者」って感じで。できれば王都辺りまで届いてくれると嬉しいんだが。多分できるだろ?」


「えぇ、できますが…」


「主様……」


 ワタルが言った本題に、驚きと心配の声をだしたのはエレクシアだ。

 それもそのはず、ワタルの知れ渡る名前が偽名だとはいえ、それはあまりにもリスクのありすぎる行動だからだ。


「大丈夫だ」


 そんなエレクシアの心配を、ワタルは悪辣な笑みで返す。


「……成程、そういうことですわね」


 どうやら、ワタルの顔で、ワタルが何か企みがあることを察したようだ。


「ま、後で説明するよ」


 説明するには、ここは余りにも人が多い。


「次は…鍛冶屋だ」



               △▼△▼△▼△▼△



「ん? おぉ! リベルド! 来たか!」


 狭い鍛冶屋に、男――デリバンの声が響き渡る。


「頼んでるの、できてるか?」


「おうよ! ばっちりだ! ほら!」


 ワタルがそういうと、デリバンが奥の鍛冶場から複数のダガーと、エレクシアの魔形の鉤爪、それとレーンのような金具のついたベルトを取り出した。


「……主様? なぜこんなに武器を…」


「あぁ、これはなんつーか…予備だな」


「五本もですか…?」


「ん? あぁ」


「………」


 何故だろう、エレクシアが呆れたような目を向けてくる。


「それはそうと……ほら、これはエレクシアの」


 そういってワタルが見せたのは金具のついたベルト。


「えっと、これは……」


「これはエレクシアの武器をしまっておくためのもんでな。ほら、ずっと手に付けてるわけにもいかないだろ?」


 このベルトは、腰につけるもので、背中当たりに金具が来るようになっており、そこに武器を取り付けられるようになっている。


「一応目立たないように色はお前の服の色に合うようにしてもらったから、違和感はないと思うぞ」


「ありがとうございます……!」


「おーい、店の中でいちゃいちゃしないでくれー」


「はぁ…してねぇって。ほら、お金」


 デリバンの絡みを軽く流し、ワタルは持っているお金を机の上に置く。


「えーっと…よし! 足りるな! 確か、今日が出発の日だったか…気をつけろよ!」


「あぁ、お前も繁盛するといいな」


「色々とありがとうございましたわ」


 まぁ、商売上手なデリバンのことだ。心配はいらないだろう。


 ともかく、ワタルは鍛冶屋をあとにした。



               △▼△▼△▼△▼△



「よし…準備はもうできたか?」


「えぇ、便利な鞄がありますもの」


「……お前、言うようになったな」


 レイブウィアの門の目の前、エレクシアの中々の言葉にワタルはジト目を向けるが、エレクシアは舌を出して笑った。


「…そういえば、フェルさんやテガイズさんにはお別れを言わないでよろしいんですか?」


「あー…まぁ、あいつらは忙しいだろうしな…」


 それに、もう門の前まで来ちゃったし、今更戻るというのも……


「……まぁ、そんなところだと思ったよ」


「ったく、水臭ぇやつだな。お前は」


「……! フェル、テガイズ」


 声が聞こえた方を見ると、そこには二人がいた。


「なんだかんだ、君の考えそうなことはわかってる。だから、テガイズ殿に声をかけて、ここまで来たというわけさ」


「いやー、俺も行こうと思ってた丁度に来てくれたからな、間がよかったぜ」


 ワタルのしようとしていたことは、二人にはお見通しだったようだ。……そんなにわかりやすいだろうか…


「…悪かったな」


「はぁ…どうせ、主様は照れ臭かっただけなのでしょう? まったく…」


「おいこら、やっぱお前、結構生意気になりやがったな」


 話しやすいが、こういうことを言われるとまいる。


「はは。私たちにお別れを言うのがそんなに恥ずかしかったのか? ん?」


「お前まで便乗するなよ……」


「あっはは! まぁまぁ、いいじゃないかよ。――――、頑張れよ!」


「――――あぁ。テガイズ、お前もな」


、機会があれば、いつでも顔を出してくれ。―――私は、いつでも君を歓迎するさ」


「そうさせてもらうよ、フェル」


 テガイズとフェルが、ワタルの名前を呼ぶ。それは、ここにいるしか、知らない名前。


「……ワタル様は、随分と慕われますね」


「む、勿論君もだぞ、エレクシア」


「え?」


「そうだそうだ、エレクシアちゃんも、俺らの友人だ」


「そう…ですか…ありがとうございます…」


 驚いたのか、少したどたどしくながらも、エレクシアはお礼を述べる。


「はは、エレクシアのほうは随分素直だというのに、ワタルのほうは…」


「なんだよ、ちゃんと言ったろ」


「なんて?」


「…わかった、わかったよ。―――ありがとう」


 少し気恥ずかしながらも、ワタルは礼を述べる。

 だが、これは本心だからこその恥じらいだ。


「じゃあ、元気でな」


「あぁ、君もな」


「またあおーぜぇー!」


「さようならー!」


 互いに別れの言葉を交わし、門を出たところで、エレクシアが思い出したかのように口を開く。


「そういえば、ワタル様の策略とはどんなものなんですの?」


「ん? あぁ、それはだな…」


 悪辣な笑みを浮かべ、ワタルは作戦についてを話す。


「俺が今や世界での極悪人になってるのは知ってるだろ?」


「えぇ…ぎるどで聞きました。でも、あれが何か捻じ曲げられたものであることはわかっております」


「…あぁ、ありがとうな。俺は、あいつらに嵌められて、極悪人に仕立てられた。だから、俺はあいつらに一度会いたい。でも、それだと一つ問題があるんだ」


「それは…?」


「ズバリ、一般人ではあいつらに会えない」


 あんなのでもこの国で一番偉い人間どもだ。会うことは容易くない。だから、ワタルは考えた。


「勇者が召喚された理由、それは魔族と戦うためだ。でも、召喚され、この世界をあまり知らない勇者に魔族との闘いのすべてを任せるというのは少し心許ない。だから、あの王は戦闘の手練れを欲するだろうと俺は考えた。それも、圧倒的な」


「ぁ」


 ワタルの言いように、エレクシアも気づいたようだ。


「その『戦闘の手練れ』に、ワタル様はなろうと…?」


「そういうことだ」


「だから、ワタル様の『リベルド・アンク』としての偉業を、広めてもらおうとしたのですね」


「偉業ってほどではないけどな…」


 実際、ワタルは完全には街を守ることはできなかったのだから。


「まぁともかく、俺はそのためにいろんなことをしようってわけだ。―――もちろん、お前と一緒にな」


「――――、はい」




 ――――――そうして、ワタル達は、新たな地へと歩き続ける。




『三人の冒険者』


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