第一章 / 6話 『いつかのその時まで』



「んだよ、これ・・・・」


 ワタルはあり得ない物を見るような目で、そう声を漏らした。それも無理はない、何故なら、その空間の天井に、先程の魔物が無数に張り付いていた。


「グオォォッ」「グオッ」「グォォォ!」


 幸い、まだワタルには気づいていないようだ。この場は一旦離れ―――


「グオォォォォォォォッ!」


「クソ、やっぱりこうなるのかよ・・・!」


 すると、その無数にいる魔物の中の一匹が、ワタルに気づき、大きな声で喚いた。

 それにワタルは苛立ちながらも、避けられない戦闘に構える。


「グォォォォォォッ!」


「おぉっとと、やっぱり一体一体は全然強くないな・・・これなら!」


 勝つのも余裕だ。そう思った時だった。


「ゴゥォォォォォ!」


「なっ!?」


 後ろの死角から、雄叫びと共に強い衝撃がワタルの背中を押した。


「がはっ、げほっ・・・・こいつ、俺の死角から・・・・!」


「グォッグオォ!」「グォォッ!」「グオォォォォォッ!」


「・・・・これは」


 一体一体は大した強さではない。だがさっきの動き、明らかに連携をしていた。


「群れになると強いタイプの魔物か・・・・」


 一体が大きな声でワタルの注意を惹き、もう一体が死角から攻撃。

 更にはその魔物が他にも数十匹。


「ひいふうみい・・・・んー、三十匹はいるな」


 一体までは弱かったハズなのに、二体になった途端見違えるほど強くなる。そんな魔物が30匹近く・・・・

 もし、こいつ等が街へと攻め込んだら一体どうなってしまうのだろうか。


「させるわけにはいかない・・・よな」


 今、ワタルがここでこいつ等を倒さなくては、街が滅んでしまうかもしれない。そうでなくても、大勢死人が出てしまうだろう。


「体力は・・・・まだ大丈夫か・・・・?」


 ワタルは手を握ったり開いたりして、自分の体力を確認する。

 多分、まだ行けるハズだ。


「グオォッ!」


「うらぁ!」


「グゥァッ!」


「がふっ。こいつ等・・・・!」


 この魔物達、攻撃する時に必ず同時に攻撃してくるからか、対応が難しい。せめてもう一人いれば・・・


「エレクシアと一緒に来りゃ良かったな・・・・」


 とはいえ、ないものねだりをしても仕方がない。ここはワタル一人の力で何とかするしかないのだ。


「つっても、どうするか・・・」


 《変幻自在の影カゲロウ》を使うのが一番手っ取り早くはあるだろうが、大技を撃って避けられてしまっては元も子もない。なら、どうすべきか・・・


「・・・・・あぁもう! 逃げるが勝ちだ!」


 ならば、とワタルは逃げようと入口へ全力疾走する。そんな獲物を魔物達が逃がすはずもなく、急いで追いかける。


「のわぁー! 来てる! めっちゃ来てる!」


「グオォァァァ」


 逃げに徹するワタルを、魔物達は壁や天井に張り付きながらもの凄い剣幕で追いかけ、追いかけ、追いかけ、とうとうその手がワタルに届くその寸前、


「グオォッ!?」


 ワタルに向かって手を伸ばした魔物が、いきなり地面に落ちた。しかも、その魔物は地面に突っ伏したまま、中々起きようとしない。―――否、起きようとしてはいるのだ。だが、動けない。まるで、何かに押さえつけられているような―――、


「――やっぱ引っかかってくれたな」


 そんな魔物を、ワタルは見下ろしながら陰惨な笑みを浮かべている。


「グォォッ!」


 そんなワタルに飛び掛かってくる魔物達を、ワタルは見て――


「―――『闇夜の手腕』」


 そう言葉を放った時、またもや魔物達は地面に落とされる。そしてその魔物達もまた、起き上がれない。


「グ、グォォ・・・」


 この『闇夜の手腕』というのは、《変幻自在の影カゲロウ》を応用した技で、影の手を操るというシンプルな技だ。

そして、その影の手が魔物を押さえつけているのだ。だが、魔物の背中にそんな手は見えない。それもそのハズ、これは昨日の夜気づいた《変幻自在の影カゲロウ》の裏ワザのようなもので、暗いところだと《変幻自在の影カゲロウ》の姿が見えなくなるのだ。ワタルは何となくその手の位置を感じることができるが、他の人から見たらまったく何もないように見えるだろう。


「さーてと、あと20匹程度か? おら、来いよ」


「グォォォォッ!」


 ワタルの挑発に、魔物達は一気にワタルに向かってなだれ込んでくる。


「グォァァァァッ!」


 そして当然その魔物達もワタルの『闇夜の手腕』によってことごとく落とされていく。そして、


「棘」


 ワタルがそう唱えると、『闇夜の手腕』に押さえつけられた魔物達は穴だらけになって絶命した。


「ふぅ・・・負荷は辛いけど《変幻自在の影カゲロウ》は汎用性が高くて使いやすいな」


 今でも謎の多い能力ではあるが、この《変幻自在の影カゲロウ》があれば大抵の敵は倒すことができるはずだ。


「んじゃま、さっさとさっきのとこ戻るか」


 そしてワタルは先程の空間へと戻った。だが、そこで―――


「・・・・ん? これって……」




               △▼△▼△▼△▼△




 木に括り付けておいた強盗団たちを引きずりながら、ワタルはレイブウィアへと戻った。そしてその門のところにいた兵隊らしき人達にワタルは話しかける。


「えーっと、兵隊さん・・・・?」


「? はい、なんでしょう・・・ってうわっ!?」


 ワタルの呼びかけに反応して、声のする方向を見た兵隊が驚いた声を出す。それも当然だ。何故なら目付きの悪い男が男性十数人を引きずっているのだ。なんら不思議はない。


「あ、あなたは確か、先程この門から出発された・・・」


「おぉ、覚えてるのか。っと、それはどうでもよかったな。それでだ、こいつ等を引き取って欲しいんだが・・・」


 門の兵隊の記憶力に驚きながらもワタルは用件を伝える。


「その人達は?」


「こいつ等は俺が森歩いてた時に襲ってきた強盗団。こいつ等に懸賞金かなんかかかってたら少しはお金になるかなーって思って引っ張って来た」


「な、なるほど・・・」


 ワタルの物言いに、納得した様子で兵隊は頷く。


「おいてめぇ! ふざけんじゃねぇぞ!」


「わっ。なんだ、お前起きたのか」


 いきなりの怒号が後ろから聞こえ、ワタルは驚く。その方向を見るとそこにはあの赤髪が青筋を浮かべながら怒鳴っている。


「お前、こんなことで俺が捕まると思うなよ!」


「いや、もう捕まってるじゃん」


「うるせぇ! お前は俺が喋ってる時に攻撃してきただろうが! もう一度勝負しろ!」


「嫌だっての。ていうか、先に俺に幻覚魔法かけて来たのはお前等の方だろ」


「関係ねぇ! 普通に戦ったら勝つのはこの俺、ウォルガンテムの頭のガルヴァイズ・ホルテム様だ!」


「なっ、ウォルガンテム!?」


 ガルヴァイズがそう大声で喚くように名乗ると、兵隊が目を見開いて驚愕の声を上げた。


「? こいつ等のこと知ってるのか?」


「ええ! 知ってるも何も、この辺りでは有名な盗賊ですよ!」


「マジか。こいつ等が勝手にそう名乗ってるだけかと思ってた」


 The・小物みたいなセリフを吐いていたからただただ調子に乗ってる方達かと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。


「うぉい! てめぇ、やっぱり舐めてやがるな! この縄ほどけ! ぶっ殺してやる!」


「じゃあなおさらほどかない。それより、さっさとこいつ等を牢にでもぶち込んどいてくれ」


「は、はい! それと、このことはギルドに報告しておくので、後で行っておいてください」


「分かった分かった」




               △▼△▼△▼△▼△




「―――アンクさん、あなたはいくらギルドからお金を搾り取れば気が済むんですか?」


「す、すまん」


 いいことをしたはずなのに、ワタルはエルミスに呆れられた顔を向けられている。その理由はワタルが倒したウォルガンテムに掛かっていた懸賞金が金貨500枚と中々の金額だったからだ。


「・・・・ん? リベルドではないか」


 エルミスに呆れ顔を向けられている所に、ワタルが名乗っている偽名を呼んでくる声が聞こえた。

 この世界でワタルの偽名を知っている人間と言えば・・・


「フェルか! どうだ? エレクシアの服は見つけられ・・・た・・・か・・・・」


 声が聞こえた方向に、ワタルは振り返りながら話しかけるが、その声は途中で途切れる。その理由は、エレクシアの恰好だ。


「あぁ、店主がいい物を作ってくれてな」


「はい、あの店主の方が作ってくださったこの服、わたくしも中々気に入っておりますわ」


 フェルとエレクシアが話しかけて来る中、ワタルは困惑した表情を浮かべている。

それもそのはず。なぜなら―――


「あー、うん、えーっとだな。その・・・二つ・・・いや、三つ・・・いや、一つだな」


「?」


「―――何があった・・・・?」


 エレクシアの服装がメイド服になっており、更には口調がお嬢様口調にもなっており、一人称が「わたくし」と、色々と変わりすぎていたからだ。




               △▼△▼△▼△▼△




「で、何がどうしてこうなったんだよ」


「うむ? 何かおかしかっただろうか。私的には中々いい出来栄えだと思うのだがな」


 ワタルの疑問を、フェルは首を傾げながら疑問を体現する。


「・・・・お前、マジで言ってる? いやさ、確かに似合ってはいるよ? でもさ、違うじゃん。どう見ても冒険者の服装じゃないじゃん」


「そこら辺は大丈夫ですわ。店主の方に戦闘が出来るように作ってもらいましたので」


「あー・・・」


 それは何も言い返せない。ワタルだって普段使ってる私服を戦闘用に作り替えてもらってるからだ。

 ならば一旦それは置いておくとしておこう。置いておいて、もう一つ、質問しないといけないことがある。


「その喋り方はなんだ?」


 服装はいいとして、その喋り方は違和感でしかない。これがいわゆるキャラ変というやつなのだろうか。

 その質問に、エレクシアは、


「これはフェル様に丁寧な喋り方を聞いた際に教えてくれた物ですわ」


「フェルさん・・・?」


 どうやら戦犯はフェルのようだ。丁寧な言葉=お嬢様言葉とはいかに・・・


「・・・もしかして、これ俺がおかしいのか? この世界では丁寧な言葉使い=お嬢様言葉なのか?」


 そう思ってしまうほどに、エレクシアは清々しい笑顔を浮かべている。


「・・・アンクさん、心配しなくても大丈夫だと思います。フェル様はそういうことに疎いので・・・・」


 こっそりとエルミスに耳打ちされ、ワタルは心配が晴れてホッとする。

 それはそうと、丁寧な言葉使い=お嬢様言葉というのは「そういうことに疎い」とかそういうのではないと思うのだが・・・・


「つーか、メイド服にお嬢様言葉って似合わなすぎだろ」


 メイドというのはお嬢様だのお坊ちゃまだのをお世話する立場なのだ。その立場の人がお嬢様言葉というのはいささかおかしいと思う。


「・・・もしかして、何かダメだったでしょうか」


 渋い顔をするワタルをエレクシアは不安げに覗き込んで来る。


 確かにおかしいし正直言えばやめてほしい。でも―――、


「ダ・・・メじゃない。あぁそれでいい」


 そんなことを言う勇気はワタルにはなかった。まぁ、戦えればいいんだ。戦えれば。


「・・・とんだヘタレですね」


 ボソリ、と後ろからのエルミスの言葉に、ワタルはぐうの音も出ない。


「良かったです! あ、良かったですわ」


「まぁとりあえず、今から鍛冶屋に行くんだが・・・ついて来るか?」


「はい! 是非わたくしも同行させていただきますわ」


「そうだな、私もリベルドが考えるエレクシアの武器が気になるから行かせてもらうとするぞ」




              △▼△▼△▼△▼△




「よお! あんちゃん! やっと来たか! 遅すぎて死んじまったかと思ったぜ!」


「はは・・・」


 鍛冶屋の男の笑えないブラックジョークに、ワタルは苦笑するしかない。


「って、オイオイ、あんちゃんも結構やるんだなぁ!」


「? 何がだ?」


 結構やるとはどういうことだろうか。あの洞窟から帰ってこれたことだろうか。


「何がって、後ろの金髪のお嬢ちゃん、中々美人さんじゃないか。あんちゃん、どうやってあんな美人さんを惚れこませたんだよ」


「金髪・・・・? あぁ! エレクシアのことか! って、何言ってんだよ」


「おいおい! 返しが冷静すぎだろ! もうちょい初心な反応してくれたっていいじゃねぇか!」


 ・・・色恋いじりをされても、そんなことのないこっちからしたら気まずいだけなのだが・・・


「まぁいいや。取り合えずほら、魔鉱石取って来たぞ」


「お、あぁ・・・それがだな、ちょっと言いにくいんだが・・・・」


「?」


「魔鉱石、倉庫にあったわ」


「・・・・・は?」


 つまり、ワタルの今までの戦闘は無意味だったと?


「わ、悪い悪い。お詫びと言ってはなんだが、あんちゃんが素材取りに行ってる間、作っといたから! お代もいらねぇ! それでなんとか許しといてくれ!」


「・・・・はぁ、分かった。んじゃ、さっさとそれ見せてくれ」


「おお、助かる! ちょっと待ってな」


 そう言って、男はがさがさと棚をあさった後、四角い物体をワタルに渡した。


「? ただの鉄の塊じゃねぇのか?」


「これに魔力を流すとその魔力に応じた種類の爪が出るって仕組みだ」


「なるほど・・・・じゃあエレクシア、お前ちょっと使ってみろ」


「分かりましたわ」


 そう言ってエレクシアはワタルから受け取った四角い鉄を腕に嵌め、魔力を流す。すると、その轍の先端から電気の刃が三本出てきて、爪のようになった。


「うん。しっかり作動するな」


「ほぉ、これは凄いな。流石はデリバンさんだ」


 ・・・この鍛冶屋の男、デリバンという名前だったのか。そういえば聞いていなかったな・・・


「と、それは置いておいて、どうだ? エレクシア、それの感じは」


「・・・凄いですね。魔力を放出し続ける訳ではなく一定の魔力で形を保させることができる技術・・・」


「おぉ! 嬢ちゃん! よく分かってんじゃねぇか! そうなんだよ! 魔鉱石をうまぁいこと加工してな、それから―――」


「おーおー、落ち着け落ち着け」


「ん? おぉ、すまんすまん! つい語ろうとしちまったぜ」


 今にも語りだしそうなデリバンを落ち着かせ、なんとかオタ語りを阻止する。


「主様、道具を試すために依頼でも受けませんか?」


「ん? あーそうだな…ちょっとエレクシア達先に行ってくれないか? 後で追いつく」


「? わかりました」




               △▼△▼△▼△▼△




「えーっと、こんなのはどうだ?」


 冒険者ギルドでワタルが手に取ったのは馬車の護衛の紙だ。それをワタルはエレクシア達に見せる。


「うむ、リベルド君の実力ならこの依頼もこなせるだろうし、エレクシア殿の新武器を試すのにもピッタリだろう。だが――」


「?」


「これは三人じゃないと受けれない依頼だぞ」


「あ」


 本当だ。依頼紙の端っこに「※三人用の依頼です」と書かれていた。


「なぁ、これって絶対三人じゃないとダメなのか?」


「あぁ、そういう規則だからな」


「じゃあフェルと一緒に行くってのは?」


「残念だが、私の本職は騎士だ。冒険者の依頼を受けることは出来ない」


 どうしようか。このままだと依頼を受けることが出来ない・・・

 そう困っていた時だった。


「なぁよ、お前等その依頼受けんのか?」


「ん?」


 依頼受注の条件人数が足りず、頭を抱えているワタルに何者かが声をかけて来る。その方向を見ると、そこには金髪を刈り上げにしたチャラチャラした男が一人。


「いや、受けたくはあるんだが人数が足りなくて・・・」


「じゃあ、俺もその依頼に参加させてくれよ! ちなみに、俺の名前はテガイズ・レキエル。お前、名前は?」


「・・・・俺はリベルド・アンクで、こっちの奴はエレクシア」


 何というか、すごい勢いの強い人だ。すっごいグイグイ来る。なんだ? この世界押しが強い奴ばっかりなのか?


「で、さっきの言葉の意味なんだが・・・」


「その言葉のまんまだ! 俺もその依頼に参加させてくれ!」


「分かった。分かったから」


 あまりの押しにワタルは了承する。


「よっしゃー! それじゃあ早く行こーぜー!」


 ワタルからの了承を受け、テガイズは出発しようとする。だが、


「この依頼明日の午後からなんだが・・・」


「あり?」


「・・・それじゃあ、装備の試運転は明日ってことでいいか?」


 こればっかりはしょうがないと、ワタルはエレクシアに提案する。


「はい、わたくしも大丈夫ですわ」


「じゃあ明日の朝、もう一度ここに集合ってことで」


「了解!」


 そして、ワタル達は冒険者ギルドを後にした。


「私もそろそろ仕事に戻るとしよう。二人共、帰路には気を付けるんだぞ」


「おう」




 フェルとも別れを告げ、それから宿の部屋に戻り、隅っこのベッドに腰を掛けてワタルは大きく溜息を吐く。


「はあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、今日はなんかどっと疲れたな・・・」


「今日は色々ありましたですものね」


「・・・・」


 そんなワタルに、エレクシアは微笑みかける。それはいいんだ。それはいいんだが・・・


「・・・なぁ、なんでお前までここにいるんだよ」


「?」


 ワタルの質問に、エレクシアは首を傾げる。


「いやホラ、今のお前って女性の状態だろ? だから俺的にちょっとアレなんだよ」


 流石に美人と寝るというのはワタル的にとても困る。困るのだ。


「・・・・主様」


「なんだよ」


 先程までのおちゃらけた雰囲気から一変、エレクシアが真面目顔でワタルを見つめる。


「主様の本当の名前を教えていただけないでしょうか」


「・・・・気づいてたのか」


「はい、何となくですが・・・それで、答えは・・・」


 どうやら、ずっと主様主様言ってるのは名前が偽名だということに気づいていたかららしい。でも―――


「無理だ」


「――――。そう、ですか・・・それは何故ですか?」


 少しの間の後、ワタルは名乗りを拒否し、その意をエレクシアは問う。


「・・・・俺の名前を知られたらいけないからだ」


 答えになっていない答え。だが、嘘は言っていない。『キトウ・ワタル』という名前は、今やこの国の犯罪者の名前だ。だから、この名前をエレクシアや他の人が知った時、ワタルに対しての態度は一気に変わってしまうだろう。

 それどころか、即逮捕までなってしまうであろう。


「だから、言えない」


「・・・・分かりました。でも、いつかは教えてくださいね」


「それは・・・あぁ、分かった」


 『いつか』・・・・か。


「それまで、俺が生きてたらの話だけど……」


「はい?」


「いんや、何でもない。ほら、早く寝ようぜ」


 ワタルの呟きにエレクシアは顔に疑問を浮かべるが、ワタルはそれをはぐらかして地面に布を敷いてそこに寝そべる。


「? 主様、何をされていらっしゃるのですか?」


「何って、寝るんだよ。お前はそれ高寝床使っていいから」


「え?」


「え?」


 ワタルの言葉にエレクシアは少し驚いたような顔をする。その顔にワタルは首を傾げる。


「主様は寝ないのですか?」


「いや、寝るけど」


「そうではなくて、この高寝床で寝ないのですか?」


「いやだから、そこはお前が使っていいて言ってるじゃねぇか」


「いや、主様は一緒に寝ないのですか?」


「ん? あぁ! そういう意味な」


 まったく、初めからそういえばいい物を。理解するのに時間がかかってしまったではないか。


「・・・・・って、寝ねぇよ!」


「え?」


「え? じゃねぇ、俺はもう寝るから。おやすみ」


「はい、おやすみなさいませ」


 恐らくからかっていたのだろう。ワタルがエレクシアに背中を向けると、エレクシアもベッドに寝そべった音が聞こえた。

 そこでワタルは一つ、思ったことがある。


「メイド服って寝にくくね?」


 そんな疑問を心に残しながらも、ワタルは深い眠りについた。






『いつかのその時まで』


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



ネーミング終わってる

あと最後のシーンいらんな

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