第一章 / 4話 『新天地で悪だくみ』


 ここはどこだろうか。暗い。真っ暗な空間だ。周りには何もなく、ただ真っ暗闇がずっと向こうまで続いてる。

 ふと、ワタルは後ろを振り向く。


『―――』


 そこには、誰かがいる。黒い何かがいる。


「・・・お前は―――」




 途端に、意識が浮上する。




               △▼△▼△▼△▼△




「っはぁ!」


 ワタルが目を覚ますと、そこには青空が広がっていた。


「あれ? 俺、死んで・・・? いや―――」


 意識が朦朧として、自分が死んだのかと錯覚するが、即座に否定する。

 景色が動いている。ワタルは起き上がり、下を見る。そこには黄金の芝生・・・いや、体毛があった。つまり、雷獅子の背中の上だ。

 どうやら、ワタルが倒れた後に雷獅子が運んでくれたらしい。


「ぅぐ、――っ」


「ガゥッ!?」


「だ、大丈夫だ」


 ワタルは起きようとしたが、体が痛み、ワタルは顔をしかめる。それに雷獅子は心配そうな声を出す。それにワタルは顔をしかめながらも答え、雷獅子から降りる。


「そんで、ここはどこだか分かるか?」


「ガゥ・・・・」


 どうやらここがどこかは分からないようだ。だが、それだと困る。


「どうにかして街かなんかを探さねぇとな・・・そうだ。なぁ、お前あそこに行けるか?」


「ガァッ!」


 ワタルが指さしたのは小高い丘だ。あそこからなら、大分周りを見渡すことができるはずだ。さらに雷獅子の答えからしてあそこに行けるようだ。それなら、


「よっこらしょっと。よし、行け」


 ワタルはまた雷獅子にまたがり、雷獅子に命令する。それに雷獅子は「ガゥアッ!」と答え、走り出す。


 もの凄いスピードで駆け上がり、あっという間についてしまった。


「・・・・こわ」


 そんじょそこらのジェットコースターとは比べ物にならないくらいのスピードで走り、ワタルの心臓は悲鳴を上げている。まぁ、ジェットコースターに乗ったことはないのだが・・・


「ま、まぁ、これで周りが見渡せるな・・・お、あった。おい、あそこまで行けるか?」


「ガォッ!」


「あ、ちょまっ」


 ワタルは雷獅子を静止させようとするが、時すでに遅し。雷獅子はいつの間にか走り出していた。そして――、


「し、死ぬ・・・」


 またもやあっという間に街の前についしまった。吐きそうだ…


「って、改めて見るとでっけぇな」


 ワタルはついた街をまじまじと見つめる。そこは高い壁に囲まれていて、なんか、凄く大きい場所だ。すると、門から誰かがもの凄い剣幕で駆け寄って来て、槍を向けて来た。それに雷獅子は唸り、威嚇する。


「おい! そこのお前、そんなところで何してる! それは・・・魔獣か!?」


「ガルルルル・・・!」


 って、そうだった。ワタルは雷獅子に乗っているんだった。普通の人から見て、雷獅子はとんでもないレベルの化け物だ。警戒されても仕方ない。さらにはそんな化け物レベルの魔物に乗ってるのは殺人鬼レベルの顔の男だ。

 うん。疑われる要素しかないな。


「いや、違くて・・・」


「ふん。そんな言葉、怪しい奴が言っても余計怪しくなるだけだ。一緒に来てもらおう。抵抗した場合は・・・分かるな?」


 当然。信じてもらえるわけでもなく、ワタル達は連れていかれそうになる。


「――まぁ待て、少しくらい話を聞いてやってもいいんじゃないか?」


 そこへ、一つの声が割り込んで来た。すると、その場にいた全員の目線がその声の主へ向けられる。そこには、


「た、隊長!」


 隊長と呼ばれた人物は、琥珀色の髪を後ろにまとめた凛とした女性だ。その女性はワタルの方を向き、


「私の部下が失礼したな。私はフェル・ヴィザール。この街、『レイブウィア』の騎士団の騎兵隊長をしている。君は?」


「俺は・・・・」


 待てよ。ここで本当の名前を言ってもいいのだろうか。もし王都での騒動がここまで伝わっていたとしたら即逮捕だ。どうにかして誤魔化さなくては・・・・


「俺は・・・リベルド・アンクです」


「・・・ふむ。それで、君はこんな所で何をしていたんだい? それにその魔獣は・・・?」


「あぁ、何というか、人に騙されて道に迷って、こいつとは偶々出会った。そんで助け助け合ってここまで来たんだ」


 まぁ、こんなこと言っても信じてくれるわけ―――


「なるほど、分かった。それは大変だったな」


「――え」


「? どうした?」


「あぁいや、こんなバカな話を信じるんだって思って」


 あまりにアッサリと信じるので、ワタルは呆気にとられる。


「私のジョブは『審判』といってな。その能力は《悪を見分ける能力ディステイト・ヴィラード》」


「な」


 ここに来てとんだ失敗をしてしまった。嘘が分かるなら、さっきのワタルの名乗りも嘘だとばれているのでは―――と思ったが、


「まぁなんだ。色々あったのだろう? ここでゆっくりしていくといい」


「え」


 ワタルの不安は、どうやら杞憂に終わったようだ。


「まったく。君は何回驚くんだい? まぁいい。そうだな・・・どれ、私が案内してあげようか?」


 確かにそれは嬉しい。だが、また厄を振りまくことになるし、なにより今はあいつ等への復讐の方法を・・・あ。


「そうだ」


 いいことを思いついた。と、ワタルは陰惨な笑みを浮かべる。


「きゅ、急にどうしたんだ? そんな顔をして・・・」


「いや? 何でもないぜ? それより、この街って冒険者ギルド的なヤツあるのか?」


「あ、あぁ。あるにはあるが・・・」


「んじゃ、そこまで案内頼む」


「ふむ。確かに、その魔物を君の従魔に登録するためにも、それが得策だろう。よし、分かった。それでは、向かうとするか」


「おお」


 そして、ワタル達は『レイブウィア』に足を運んだ。




               △▼△▼△▼△▼△




「ひっろいな」


「あぁ、ここは王都の次に大きな街だからな」


 となるとつまり、あの王都はここよりもずっと大きいということになるらしい。


「ほら、着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」


「あら、ここもでかい」


 目の前の冒険者ギルドの大きさに、ワタルは声を漏らす。そしてそのギルドの扉を、ワタルは開ける。

 すると、そのギルドの空気がピリついた。まぁ当然も当然だ。ワタルの横には雷獅子。猛者達には、この雷獅子の強さがよく分かるだろう。実際、雷獅子は強い。

 だが、そんなピリついた空気の中を雷獅子とフェルと共に、受付と思われると所へと向かう。そして、その受付の人にワタルは話しかける。


「冒険者ギルドに何の用でしょう。って、フェル様じゃないですか! お久しぶりです」


 おや? どうやらこの受付嬢はフェルと知り合いらしい。まぁ隊長って言うくらいだし、結構顔も広いんだろう。


「あぁ、久しいな。エルミス。今日は彼の冒険者登録をしに来たんだ」


「え、この人の・・・ですか? あ、い、いや、何でもないです」


 きっと、このエルミスからはワタルが騎士隊長がとっ捕まえた悪人にでも見えたのだろう。それは中々に心外だぞ。


「はぁ・・・」


「エルミス。彼は私の・・・客人?だ。失礼なことは言わないように」


「す、すいません・・・」


「それはともかく、こいつを俺の従魔として登録してほしいんだけど」


 そう言って、ワタルは隣の雷獅子を指さす。それを見てエルミスは、


「えっと、その魔物の名前とかって」


「分からん。フラフラ迷ってる時に偶々会って、何か縛られてるみたいだったからさ、助けたらなんかついて来て色々手伝ってくれたんだ」


「・・・・それって、なんか封印されてたヤバイ魔物とかなんじゃ・・・」


「いや、俺もそう思ったけど、多分、それはない」


「・・・そういうことらしい。にしても、君はもしかして女たらしだったりするのかい?」


「え?」


 フェルの冗談のようなものを孕んだ言葉に、ワタルは首を傾げる。残念ながら、ワタルは生まれてこの方、一度もたらしたことはないし、今何故そんなことを話すのか・・・・。

 するとフェルの口からとんでもない言葉が放たれた。


「だってその魔獣、雌なのだろう?」


「―――マジで?」


「ガウッ!」


「マジかぁ・・・」


 その衝撃すぎる事実をワタルは雷獅子に確認する。すると元気よく肯定され、ワタルはさらに驚いた。


「もしかして・・・知らなかったのか?」


「いや、だって・・・」


 ワタルの元世の知識だと、ライオンのたてがみは雄にしか生えてないのだ。普通分かるワケがない。


「はぁ・・・・まぁそれは置いといて、登録を頼む」


「あぁ、はい」


 ワタルがそう言うと、エルミスは書類を書き始めた。


「あ、そうだ。魔物素材ってここで買い取れるのか?」


「え? はい、できますけど・・・」


「あぁ、じゃあちょっと広いとことかあるか?」


「は、はぁ・・・こっちです」


 エルミスに案内され、ワタル達は中庭へと来た。


「えぇっと、ここで何を・・・?」


「よっと。ふぅ、だいぶ楽になったな」


「わぁっ!?」


 ワタルが手を伸ばすと、その虚空から大蛇の体が突然現れる。

 その出来事に、フェル含めエルミスは驚愕する。まぁ当然も当然だ。


「こいつの名前ってなんかわかりま・・・分かるか? 雷獅子と一緒に倒したんだけど・・・」


 その言葉を受け、エルミスとフェルは大蛇の体をまじまじと見る。


「これは・・・擬態蛇ミミックスネーク? でもこんな大きな個体、今まで見たことない・・・」


「こんな大きな擬態蛇ミミックスネーク、私でも勝てるかどうか分からないぞ」


「ミミックスネークってどんなヤツなんだ?」


 ワタルがそう問うと、フェルが答えてくれた。


擬態蛇ミミックスネークというのは、幼体の状態の時は蛇だが、住む場所や環境によってそこに生息している生物の姿に変わっていくという生物だ。これが私の知ってる擬態蛇ミミックスネークの情報だ」


「一見聞いてみると、ただ身を守るために他の生物に化けるだけの生物みたいに感じるけど・・・」


「あぁ、だが擬態蛇ミミックスネークの恐ろしいところはその化ける精度だ。擬態蛇ミミックスネークは、生物の遺伝子までも真似してしまうんだ」


「なるほど・・・」


 生物が何百年の進化を経て作り上げた現在の姿を、ミミックスネークはたった数十年で同じような生物になることができる・・・というわけか。


「ちなみに、その・・・アンクさんが戦ったミミックスネークはどんな姿でしたか?」


「ん? あぁ、強いて言うならキマイラみたいな感じだったな」


 っとと、何を言っているのやら、キマイラはワタルの元世の知識。いくらテンプレの敵といえど、異世界人のこいつらが知ってるわけ・・・


「キマイラ!? で、伝説の魔獣じゃないか!」


「え? キマイラを知ってるのか?」


「当然だ。何なら、そこら辺の子供達だって知ってるぞ。童話として有名だからな」


 童話・・・もしかしたら、ワタルやあの勇者達の他にも、転生者がいるのかもしれない。その転生者が元世のキマイラの知識をこの世界に持ち込んだのかも―――


「・・・・いや、案外逆だったりしてな」


 日本から他の世界に転生できるのだ。逆があってもおかしくない。


「?」


「何でもねぇ。それで? こいつはどれくらいで売れるんだ?」


「そうですね・・・・ざっと金貨一万枚くらいですかね」


「わぁお」


 予想以上の金貨の量に、ワタルは思わず声を出す。まさかコイツがこんなにお金になるなんて・・・まぁ、かと言ってまた戦いかと聞かれたら、答えは当然ノーだ。


「ですが、それほどの金貨を一気に渡すことは出来ないので、そうですね・・・分割払いって形でどうでしょうか」


「あぁ、まぁ、しゃあねぇしな。分かった」


 そして、ワタルは今日の分の金貨百枚を受け取り、冒険者ギルドを後にした。




               △▼△▼△▼△▼△




「さて、私はここでお別れだ。実は急用が入ってな」


「おう。じゃな」


 宿の前で、ワタル達は分かれた。そして、ワタルは宿の扉を開け、中に入り、支払いだのなんだのを済ませてから自室に入った。


「ふぅ、やっと一息付けた・・・」


「ガァゥ」


 ベッドに腰を下ろしたワタルに、雷獅子が顔を摺り寄せて来た。


「・・・そういえば、なんだかんだ言って俺たち結構長いこと一緒にいるよな・・・」


 ワタルのジョブは『契約者』。他人と契約し、ワタルと契約した相手はワタルの命令を必ず聞かないといけない。それがワタルのジョブ。


「なぁ、お前は、俺と契約してくれるか?」


「・・・・・・ガゥ!」


 突然、ワタルはそんなことを言った。

 一瞬、意味が分からないという顔をした後、雷獅子は元気に答えてくれた。そのお言葉に甘えて、ワタルは雷獅子へと手を伸ばす。するとワタルの伸ばした手と、雷獅子の右前足が光った。

 何かが繋がっていく感覚がある。心が、魂が、繋がっていく。そんな感覚がした。


「・・・・これで契約完了、ってことか?」


「ガゥ」


「みたいだな。んじゃ、もう寝るか。これからもよろしくな」


「ガァ!」


 『これから』 それは、一体いつまでなのだろうか。

 そんなことを考えながら、雷獅子を横に、ワタルは深い眠りへとついた。





               △▼△▼△▼△▼△




「ん、くぅあ~」


 朝日に照らされ、ワタルは目を覚ます。そしてゆっくりと上半身を起こした。


「ん?」


 ふと、手に何かが当たる。なんだろうか、柔らかい。

 そしてワタルは感触を感じる右手に目を向けるそこには―――


「ん・・・」


 美女だ。美女がいる。長い金髪をベッドに広げた美女が、ワタルのベッドに入り、うつろな青い目をこすっている。しかも、裸で。そしてその美女と目が合う。それからしばしの沈黙の後―――、


「きゃあぁぁ――――!!」



 早朝の宿に、悲鳴が響き渡った。・・・・ワタルの。





『新天地で悪だくみ』


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




リベルド→リベンジャーのもじり

アンク→アンラックの略

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る