第一章 / 3話 『姿偽りし主』


「シャァァァァ・・・・」


「どういう、ことだ・・・?」


 先程倒したはずのライオンと羊の頭がまだ動いているのを見て、ワタルは疑問を抱かずにはいられなかった。


「お、い・・・大、丈夫か?」


「ガゥ・・・・」


 ワタルは雷獅子に気をかけながら、よろめきながらも共に立ち上がる。

 それと同時に、ワタルは思考を巡らせる。


「なんで死なない? ライオンと羊は絶対に殺したはずだ、俺は首をおもっきし切ったし、あいつだって羊の首を嚙み千切ってたしな・・・・。もしや、不死とか?」


 こんな理不尽な世界だ。そんな鬼畜な可能性も無きにしろあらずだが、恐らくそれはないだろう。確かに、異世界は理不尽だ。だが、この部屋に入る前、扉に触れた時に脳内に流れて来た言葉を思い出す。その時には、確か「この奈落の迷宮の鍵となる」とか言ってたハズだ。つまり、こいつを倒すことが外に出るなんらかの鍵だと言うこと―――、


「―――ぁ」


 その時、ワタルは気付いた。


「そうか、そういうことか!」


 確かその時、「姿偽りし主」とも言っていた。もしそれがこのキマイラのことなら・・・いや、もはやキマイラというのも違うだろう。「姿偽りし主」その言葉が本当ならば、こいつはキマイラではなく・・・


「別の生き物・・・!」


 恐らく、コイツは「三体の生き物が合体した生物」ではなく、「三体の生き物が合体した生物のフリをしてる生物」なのだ。

 そしてあのライオンと羊はただの体の一部に過ぎないということで、尻尾の大蛇が本体なのだろう。


「・・・・・・ん?」


 待てよ。この大蛇が本体ということは、尻尾だと思ってた大蛇が頭で頭だと思ってたライオンは尻尾だったということになる。つまり、つまりそれは、奴のライオンが吐いた火球は・・・・


「・・・」


 いや、これ以上は考えないでおこう。うん。


「ガゥ?」


「いや、何でもない。ただ、嫌な考えがな・・・あぁ、いや、それは置いておいてだ。お前、もう大丈夫か?」


「ガウッ!」


「いいか? あいつは多分、あの尻尾の蛇が本体だ。だからあのライオンだの羊だのの部分を攻撃しても意味ないってことだな」


「ガァ・・・」


 ワタルがそんな風に説明すると、雷獅子が納得したような仕草をした。本当に人間味のある奴だ。

 そしてワタルは大蛇と向き直る。敵の正体はわかった、後は倒すだけだ・・・と言いたいところが、奴の本当の正体が分かったからと言ってワタルが強くなったわけではない。ワタルの力は恐らくこの世界でも最低レベル。この大蛇に殺されてしまうのも容易だ。

 ワタルは弱い。それを踏まえた上で―――、


「―――さぁ、ラストスパートだ」


 そう、宣言した。




               △▼△▼△▼△▼△




「―――さぁ、ラストスパートだ」


 ワタルはそう宣言して、足に《力を生み出す能力ゼロ》を付与する。そして思いっきり地面を踏みぬいた。

 それによって起きた衝撃波で、地面が割れ岩の破片が大蛇目掛けて飛んでいく。だがそんな攻撃を大蛇は右に左にのらりくらりと体をうねらせ、それを避ける。

 当然、予想通りだ。こんなのろい攻撃は、ワタルでも避けれる。なら何故、そんな攻撃をしたかというと―――、


「ガァァァァッ!」


「シャァッ!?」


 大蛇が岩の礫に気を取られている合間に、高速で回り込んでいた雷獅子が大蛇へと襲い掛かる。が、雷獅子の速さに慣れて来たのか、大蛇はライオンの体を動かし軽々と避けた。


「クソが」


 そんな大蛇の順応の早さに、ワタルはボソリと悪態を吐く。だが、悪態をついても状況は好転する訳ではない。


「どうする? どうやる? どう戦えばいい?」


 ワタルは自分にそう問いかける。きっと、ワタルがあそこに割って入ったとしても、ただ邪魔になるだけだ。どうする。どうする・・・・


「キシャァァァァァァッ!」


 策を練っているワタルに向かって、突然大蛇が吠えた。

 それに対し、ワタルは怪訝な顔をする。何故今、雷獅子とぼ闘いの真っ最中に、わざわざワタルに向かって吠えたのか。邪魔をしようとしているワタルへの牽制だろうか? それとも、雷獅子が強すぎて、一緒にいたワタルに対して怒っているのか? なんにせよ、何かしら理由はあるはずだ。なにか―――、


「ガゥッ!」


 ワタルがそう考えてると、雷獅子が大蛇のライオンの体を蹴って距離を開け、ワタルの傍に吠えながら駆け寄ってきた。


「おいおい、お前何してんだよ。悪いけど、今の主戦力はお前なんだよ。だから今、俺も何とか戦いに入れないか考えて―――」


「ガゥッ! ガウガァッ!」


 ワタルは雷獅子に戦うことを促すが、雷獅子はそんなワタルの言葉なんか耳にも入らない様子で吠え続ける。

 その様子は、ワタルを心配しているようにも思えて―――


「そんな吠えるなよ・・・ん?」


 そんな様子に、ワタルは少し疑問に思いながらも、ふと、自分の胸に目を向けた。


「―――は」


 そして向けた視線の先にあった光景に、ワタルは間抜けな声を出した。

――――ワタルの胸に、巨大な白く輝く鋭利な何かが、深く突き刺さっていたからだ。


「あ、くっ」


 それを知覚した途端、ワタルの視界が真っ赤に染まり、痛みで思考がまとまらない。

 まずこれはなんだ? 岩? いや違う。これは恐らく大蛇の牙だ。さっき吠えた時に飛ばしてきたのだ。じゃあ、何のためにわざわざワタルに飛ばしてきたのだろうか・・・


「ごふっ。あ、が。こぇ、息、が」


 胸の痛みが最早なくなって来た頃に、ワタルはもう一つの異変を感じ取る。

 呼吸が苦しく、息が出来ない。それに、体中に寒気も感じる。これは―――


「ぉ、く?」


 毒だ。この牙には毒を注入する機能まであるらしい。そのせいか、呂律も回らなくなってきた。

 そして、とうとう立ってられなくなり、ワタルはその場に倒れこむ。そんなワタルを心配するように、雷獅子が顔を覗き込んで来る。


「く、そ」


 しょうがない。ここは《起死回生》で――――


「ぁ」


 そこで、ワタルは気づいた。何故、雷獅子との闘いの最中に、わざわざワタルへこの攻撃をしたのか。それは、邪魔しようとしてるワタルに牽制してるわけでも、雷獅子が強すぎて、一緒にいたワタルに怒ってるわけでもなかった。

 それは――――


「ア"ァァァッ」


 重い体を無理矢理動かし、ワタルは雄叫びを上げながら雷獅子に向かって走る。いや、正確には雷獅子のその先だ。

 必死に走り、雷獅子を庇うように手を広げる。


「シャァァァァッ!!」


 すると大蛇が吠え、その瞬間ワタルの体に鋭い痛みがいくつも突き刺さる。大蛇の牙だ。

 この牙は本来、雷獅子の命を奪うものだった。恐らく、大蛇は雷獅子倒すためにワタルを囮に使ったのだ。だから、死ぬ前に雷獅子をワタルが庇うことによって、死ぬ前に死ぬ予定のワタルが死ぬかもしれなかった雷獅子を守ったのだ。


 ただ、一つだけ、予想外だったことがある。


「ぎがあぁぁぁぁっ」


 ―――その『予想外だったこと』とは、予想以上に、大蛇の毒が苦痛だったことだ。


 寒い。苦しい。痛い。なんでこんなことをしてしまったのだろう。そう思ってしまうくらい、これは苦痛だった。


 寒い。苦しい。痛い。なんでこんなとこに来てしまったのだろう。そう考えた時、頭に浮かんだのはワタルを騙した二人だった。こんな地下に来たのも、こんな所に来る羽目になったのも、あのクソ共のせいだ。奴等が今まで人にして来たことを考えると、腸が煮えくり返る。


 そんな怒りも、消えていく命の灯と共に薄れていって、凄まじい喪失感と共に、意識は真っ暗闇に落ちた。


――――《起死回生》発動


「―――っはぁ! クッソ」


「ガァッ!?」


「シャァッ!?」


 『起死回生』によって無理矢理意識をたたき起こされ、ワタルは意識を取り戻す。

 死んだと思われたワタルの起床に、雷獅子と大蛇は驚愕している。そこへ――、


「雷獅子ぃ! 突っ込めぇ――――!!」


「ガオォォォォォッ!」


 ワタルがそう叫ぶと、雷獅子がすぐさま大蛇へと突っ込んで行く。大蛇は少し遅れて、ライオンの体で迎え撃たんとする。


 その最中、大蛇は先程生き返ったと思われるニンゲンに目を向けた。

 先程までは、ただの小く無力な生き物だと思っていたが、毒牙を打ち込まれて死んだハズの者が、生きて叫んでいたのだ。

 それは、大蛇に得体の知れない生物だと認識させるには、十分すぎる出来事だった。


 ―――だが、そこにはその『得体のしれない生物』の姿はなかった。


「ここだ、バーカ」


 突然、大蛇の頭上から声が聞こえた。大蛇がその声のする方を見てみると、そこには足を振り上げたニンゲンが居た。そしてそのニンゲンの足に、なにか力が溜まっていくのを感じる。

 そしてその足が、大蛇へ向かって振り下ろされる


「はあぁぁぁ―――っ!」


「シュアアァァァァアァァァッ」


 反撃しようと突進してくる大蛇の鼻先を、ワタルの『ゼロ』を纏った踵が蹴り潰し、大蛇の鼻を砕いた。


「ギシュアァアァァアァ――――ッ!」


 大蛇は叫ぶ。痛みが理由で叫ぶ。そして自分の鼻骨を砕いたニンゲンに報復しようと目を大きく見開く。だが、そこにそのニンゲンは居なかったので、大蛇は辺りを見回す。そして自分の胴体の辺りに目を向けると、そこにはニンゲンがいた。

 何かをしてるようだが、そんなの関係ない。とにかく、このニンゲンを自分の毒牙で串刺しに―――、


「ジャアァァアァアアァッ!」


 そして大蛇がワタルを毒牙でもう一度殺そうとする。だが――、


「――――?」


 毒牙が出ない。大蛇は少しの思案の後、気づく。先程毒牙をあのニンゲン達に撃った時に使い切ってしまったのだ。だが、飛ばす牙がないのなら、直接飲み込んでしまえばいい。

 そう思い、大蛇は大きく口を開けて眼前のニンゲンへと迫る。だが――、


「遅ぇよ」


 そんなニンゲンの声が聞こえた時、ライオンの体を模した大蛇の体が消し飛び、臓物がばら撒かれた。


「とっとと、あっぶね。一応これ一張羅なんだから勘弁してくれ」


 服が血で汚れないように血飛沫を避け、大蛇の方を見る。


「————」


 どうやら、完全に絶命してるようだ。そして―――、




『姿偽りし大蛇を打倒した者よ。今、外界への道が開かれる』




 どうやら、ワタルの予想は正しかったようだ。頭の中に言葉が流れ込んでくると同時に、地面に魔法陣が浮かび上がる。恐らく、これが地上に戻る用の魔法陣なのだろう。


「と、その前に・・・・よし。う・・・クソ。やっぱきっつい」


 魔法陣に乗る前にワタルは大蛇の傍へと駆け寄り、大蛇の死体を『器』に入れる。だが、そのあまりの重さにワタルはよろめく。が、まだ耐えられない重さではない。そう心に呼びかけ、ワタルは立つ。そして――、


「うし、行くか・・・って、あれ?」


 罠の可能性もあるが、気にしてもしょうがないので、いざその魔法陣に乗って外へと出ようとする。だが、急に視界が歪み、何故か床が壁のように垂直、あれ? こういうの水平って言うんだっけ? あ、れ――――




 意識が、途切れた。





『姿偽りし主』


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




守るくだり意味わからんのと、やっぱイキりワタルめちゃくそにウザキモい


あとこのライオン絶対アレするだろ。何とは言わないけど、絶対ああなるだろ



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