第一章 / 2話 『命綱は見知らぬ獅子』
「グルル・・・・」
金色の獅子はワタルを睨み、唸り声を上げる。だが、ワタルの目に入ったのは、その金色の獅子の手足に繋がれた手錠と鎖だ。
それがワタルの気にかかり、金色の獅子に近づこうとする。
「ガルァァァ!!」
「!?」
すると獅子が――いや、雷獅子と言ったほうが良いのだろうか。その雷獅子が吠え、ワタルの足元の地面を雷撃が焼き焦がした。
それにワタルは驚くが、同時に疑問が湧いた。
「今・・・ワザと外した?」
あれほど速く、強力な電撃だ。一瞬にしてワタルを焼き焦がすことなど容易いハズだ。だが、この雷獅子はそれをしない。それどころか、ワタルに近づくなと言わんばかりの威嚇だけをしている。
―――まるで、何かに怯えるように。
「・・・・・」
「ガァウァ!」
「大丈夫だ」
そんな雷獅子にワタルはゆっくりと近づく。すると獅子はまた吠え、電気を体に纏う。
だが、ワタルはそれに臆せずに、雷獅子を真っ直ぐ見つめ返す。
「グゥ・・・」
その思いが伝わったのか、雷獅子はおとなしくなった。その雷獅子に近づき、ワタルは雷獅子をつなげている鎖に触れる。
「あんま多用はしたくないんだが・・・・《
すると、ワタルの影から伸びた刃が鎖を切り刻み、雷獅子を開放した。
「ガウゥ?」
そのことに雷獅子は驚き、ワタルを見つめる。先程とは違った、疑問の目で。
「ホレ、これで自由に動けるだろ。一応聞くが、お前はボスじゃないんだよな?」
「ガァ!」
「おぉ・・・」
言葉が分かるのか、雷獅子は元気よく返事をした。先程の威圧感から放たれる圧倒的強者感とは打って変わって、今の姿はなんだか少し、愛らしいペット感がある。
様子から見て、ここに閉じ込められているだけのようだ。
「って、それならそれでヤバイな」
こいつがボスだったら、何とかして倒して外に出る予定だったのだが・・・・これでは予定が狂ってしまった。
「まぁ、それならまた探すだけだ。お前は・・・・まぁ、見たところ、お前メチャクチャ強そうだからここでも生きてけるだろ。じゃな」
ワタルはそう言い残し、その部屋を後にした。
△▼△▼△▼△▼△
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「なんでついてくるんだよ!」
「ガァ?」
「「ガァ?」じゃねぇ! それともなんだ? 俺を殺る気か!?」
「ガゥアゥ!」
部屋の外へ出てもいつまでもついてくる雷獅子に、ワタルがツッコミ気味にそんなことを言うと、雷獅子は首を振って否定する。
だが、こんなことを言っておいて、隙を見て奇襲してくる可能性もある。油断をすることはできない・・・と言いたいところだが、恐らくそれはないだろう。先程も言った通り、この雷獅子の実力ならば、ワタルを一瞬にして焼き焦がすことなど容易だ。人の言葉を理解できるほど知能のある獅子だ、もしかしたら鎖を外したワタルに恩でも感じているのかもしれない。
「まぁ、どの道いつかはバイバイすることになるんだ。どうだっていい」
人はいつか必ず死ぬ。それは今日かもしれないし、明日かもしれない。それに無双の神判殲滅を目標にするワタルにとって、ワタルの命は道具の一つだ。まずあのゴミカスコンビを懲らしめた後は、支部長がこの世界にいないかを捜索するつもりだ。
そして支部長たちを追うにあたって、戦闘は必然。故に死の確立も上がるという訳だ。
「はぁ・・・あ、そうだ。なぁ、お前、もしかしてここの構造なんか知ってたりしないか?」
「ガゥ? ガァ!」
「その反応・・・知ってるってことでいいのか?」
どうやら、ココのことをこの雷獅子は知ってるらしい。なら、話は早い。
「じゃあボス部屋・・・じゃ伝わらないよな。えーっと、この洞窟の主? みたいなのがいる所に案内してくれるか?」
「ガウッ!」
「お、おぉ・・・じゃあ、案内を頼む」
雷獅子の勢いのある返事に、ワタルは少し気圧されながらも案内を促す。
そしてついてこいと言わんばかりに歩き出した雷獅子の後ろをワタルはついていった。
△▼△▼△▼△▼△
「ギュアァァァッァ・・・・ッ!」
「ふぅ・・・」
道中、襲ってきた巨大な蟻たちを雷獅子と共に倒し、ワタルは一息つく。
「分かってたことだけど、お前やっぱ強いんだな」
「ガウッ!」
ワタルが雷獅子に向かってそんなことを言うと、雷獅子は嬉しそうに吠えた。
そんな可愛いペット味のある雷獅子だが、先程の戦いぶりはまさに獅子奮迅の勢いだ。いきなり壁の穴から蟻が出てきたかと思えば、雷獅子が凄まじい声量で吠え、雷光が轟き、大量の蟻を切り裂いたのだった。
あまりの速さにワタルは出遅れたが、何体かワタルの近くから湧き出て来た蟻たちを倒した。
先程、共に倒したと言ったが、本当はほとんどは雷獅子が倒したも同然だ。
「なぁ、あとどれくらいかかるんだ?」
「ガゥガガァ!」
「んー・・・分からん」
まぁ、なんだか嬉しそうだしきっとそろそろなんだろう。多分。
ワタルがそんなことを考えていると、突然雷獅子が歩みを止めた。
「うわっぷ。おま、急に止ま・・・・まさか」
「ガルルル・・・・」
そんな獅子にぶつかり、ワタルは怒ろうとしたが、すぐに雷獅子が止まった理由に気づく。
唸り声を上げながら洞窟の奥を睨む雷獅子の視線の先、途轍もない鬼気を感じ、ワタルは悪寒を覚える。
そしてワタルは息を呑みながらその雷獅子の視線の先に目を向ける。
「あれが・・・・」
その視線の先には、とても不気味な扉がある。獅子がいた部屋に比べれば扉の大きさは小さいものの、その扉からは覇気が溢れ、ワタルの体を強張らせる。
恐らく、あれが本当のボス部屋なのだろう。
とてつもない悪寒が、ワタルにそう確信させた。
「なぁ、お前は俺について来てくれんのか?」
「ガァ!」
「そか」
不安気に雷獅子に問いかける。雷獅子はそんなワタルの問いに元気に答える。恐らく、OKと捉えていいだろう。
この雷獅子がついて来てくれるなら大分心強い。
「ふぅー・・・・行くか」
ワタルは深呼吸をし、ボス部屋と思われる扉に触れる。
『奈落へと訪れし者よ。汝、この奈落の迷宮の鍵となる、姿偽りし主へと挑まん』
扉に触れた途端、ワタルの脳内に声が響いた。
そしてその声と共に扉が開かれ、ワタルと雷獅子は部屋に入る。そこには―――、
「ガゥア"ァァ・・・」
「メ"ェァアァ・・・」
「シャァァァ・・・」
体長6mほどで、雷獅子よりも大きく、ライオンの頭。羊の胴体。蛇の尻尾。一つの体に三体の動物が共存してるという異形。この特徴からして、恐らくキマイラだろう。
「―――アレが、この奈落のボス・・・」
「グルル・・・・」
しばらくの間、沈黙と緊張が漂う。
そして、戦闘は突如として始まった。
「ガオォォォッ!」
「ガァァァア"ァ!」
雷獅子が雷の速度でキマイラに接近する。それにキマイラはすぐ反応し、後ろに飛び退く。そして、空中で雷獅子に向かってキマイラのライオンの頭が火球を吐いた。
それを雷獅子は避け、電撃を放つ。
「メ"ェァアァッ!」
すると今度は羊の方が鳴くと、地面が青白く光り、地面から巨大な氷壁が生えてきて電撃を防いだ。
どうやら、羊の方は魔法が使えるようだ。
「メェェエ"ェッ!」
「おわぁっぶ!?」
そしてさらに羊が鳴くと、今度は羊の周りに氷杭が現れ、今度はワタルの方向にその氷杭を射出した。戦いについていけずに呆けていたワタルはそれに気付き、すぐさま飛び退いた。
「ガウッ!」
「あぁ、大丈夫だ。あんがとな。よし」
「ガァッ!?」
心配してくれたのか、近づいてきた雷獅子にワタルは答える。
そしてワタルは思いっきり頬を叩き、活を入れる。そんなワタルの行動に雷獅子は驚くが、今は気にしてる暇はない。
ワタルは頬を赤くしながらキマイラに向き合う。
「さぁ、行くぞ!」
「ガゥッ!」
ワタルの合図と共に、雷獅子とワタルは走り出す。
「ガアァァア"ァッ!」
「メ"ェェエェェッ!」
間髪入れずに突っ込んでくるワタルと雷獅子に、キマイラは吠える。
そしてそんなキマイラの目の前で、ワタル達は左右に別れた。右へワタル、左へ雷獅子が走り、それを見たキマイラのライオンがワタルに向かって火球を吐き、羊は雷獅子へ氷杭を打ち込む。
「当たるかぁぁぁっ!」
「ガァァァァァッ!」
「ガウァア"ァッ!」
「メェェエ"ェァッ!」
ワタルと雷獅子は放たれた火球と氷杭を避け、急接近。そしてワタルはライオンにダガーを突き立てて首を斬りつけ、雷獅子は羊に牙を突き立てて首を嚙み切った。頸動脈の辺りを斬りつけたので、きっとこのライオンと羊の部分は絶命したはずだ。これで残りは尻尾の蛇のみ。
―――そう思った時だった。
「ガァガァガガァッ!」
「メ"ギャァメアッ!」
「なっ!? ぐあぁぁぁっ!」
「ガアッ!?」
絶命したと思われたライオンと羊が、壊れた機械のような鳴き声を出しながら再び動き出し、まだ空中にいたワタルにライオンが口からまた火球を吐きワタルの左手を焼き焦がした。そして既に着地していた雷獅子には羊が地面から氷を生やし、雷獅子の腹を強く打ち付けた。
あまりに突然の出来事だったため、ワタル達は攻撃をモロに喰らいその場に突っ伏す。
「どういう、ことだ?」
あの二体は確実に死んだはずだ。これは間違いない。なのに、現に今も奴等は動いている。一体何故・・・・
「シャァァァァ・・・・」
疑問でいっぱいのワタルと、痛みで顔を歪めている雷獅子を、
―――――ただ一匹、大蛇だけが見下ろしていた。
『命綱は見知らぬ獅子』
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雷獅子さん弱くね?
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