第一章 / 1話 『深い深い奈落の底で』


「・・・・」


 沈黙のまま、ワタルは周りを見渡す。

 周囲は薄暗く、光る鉱石のような物があり、それのおかげである程度の光はある。

 さらに洞窟の奥からは様々な生物の唸り声、そして周りには無数の骨、骨、骨、骨・・・・

 恐らく、今までも大罪を犯した者たちがここに転移させられ、魔物たちに食われたのだろう。

 たとえ魔物を退けても、ここは未開の地。外に出る方法は不可能。まさに絶好の処刑場というわけだ。

 そしてそんな魔物たちの標的は送られたてホヤホヤのワタルだ。だから、これからワタルは強い魔物たちを退けつつ、この奈落から出られる方法を探す必要がある。


「難易度が鬼だな・・・でも」


 奴等には、ワタルの生死を確認する術はない。いや、する必要がないのだろう。なんせ今までで一度もこの死刑を逃れた者はいないのだから、結果を見るまでもない・・・つまり、奴等は全員、この処刑方法を信用している。―――だから、それを逆手に取る。


「ここから出て、王都を目指す」


 きっとあのカス王女は、今までもこんなことをし続けてきたハズだ。だから、文字どおりワタルが死んでも―――自分の命を犠牲にしてでも、仇を取ってあげたい。そんなことをしても、別に今までの被害者が報われるわけでもない。

 それでも、あの王女には今までやってきたことを後悔させてやりたい。一言でも、今まで冤罪をかけてきた人たちに謝罪させてやりたい。


「さて、なげぇ回想も終わりだ」


 そしてワタルは洞窟の奥の暗闇を睨む。

 すると暗闇から魔物が現れる。それは、ワタルの胴ほどある太さの百足だ。そんな百足はキチキチと巨大な毒牙をならしている。


「虫は苦手なんだよ・・・・」


 そんな巨大百足に苦手意識で顔を歪めつつ、ワタルは『器』からダガーを取り出し、構える。


「キシュアァァァァァッ!」


「うっせぇなぁ。今、色々とムカついてるんだよ。―――ちょっと八つ当たりさせてくれや」


 そう言って、突っ込んでくる百足をワタルは避け、その太い胴体にダガーを突き刺した。


「ギャシャァ―――ッ!?」


「かっ」


 その攻撃に百足は苦痛の声を上げ、体をうねらせる。するとその硬い胴体がワタルの腹を打ち付け、吹き飛んだ。


「――っ」


「キャシャァァ―――ァ!」


 そんなワタルを、おこった様子の百足がまたもや突っ込んでくる。


「しつ、けぇ!」


 その百足を今度は《力を生み出す能力ゼロ》を纏った足で蹴り上げた。すると今度は百足は体を巻き付け、ワタルを締め上げる。


「あ、ぐ・・・」


 そして締め上げられたワタルの眼前に、その毒牙が迫ってくる。


「一か八かだ・・・!」


 ワタルがそう言うと、突如として百足が爆ぜた、破裂した。これは、《力を生み出す能力ゼロ》をの力量Maxでワタルの体全体から衝撃波を放ったのだ。なぜ最初からそれをしなかったのかというと・・・


「っ、痛ぇ・・・・」


 そう、この力――《力を生み出す能力ゼロ》をを使うとワタルの体がその力の負荷に耐えられないのだ。この力量Maxというのも、ワタルが出せる力の出力ではなく、ワタルが耐えられる力の最大出力のことだ。


「クソ、幸先・・・悪すぎだろ・・・」


 ビキビキと痛む体を持ち上げながらワタルは愚痴をこぼす。

 そしてまた、洞窟の奥へと歩を進めた。




               △▼△▼△▼△▼△




 あれから一週間ほどたったころだろうか、進んだ先にワタルは何かを見つけた。


「・・・なんだありゃ・・・」


 そう言ってワタルが見つめるのは、開けた場所の奥にある大きな扉だ。

 その扉は高さが二十五メートルほどあり、かなり前に作られたのか、大分ボロボロだ。

 この特徴からして・・・


「もしや・・・・ボス部屋的なヤツか?」


 いきなりのボス部屋発見に、ワタルは怪訝な顔をする。

 ここは人類未開の地であり鬼畜ダンジョン。もしかしたら罠という可能性も無きにしろあらずだ。

 本来ならばボス部屋なんて行く必要はない。だが、もしかしたら外に出るためのヒントがあるかもしれない。

 入るべきか、入らないべきか・・・・


「まぁ、悩んでても仕方ねぇ」


 そしてワタルは決意し、ゆっくりと扉に触れようと歩を進め、そして扉に触れようと手を伸ばし、扉に触れる。


――――その寸前のことだった。


「うぉっととと」


 地面が激しく揺れた。

 そして凄まじい地鳴りと共に、その開けた空間に変化が起きた。


「な、何だ・・・!?」


 ゴゴゴゴ、とワタルの左右の洞窟の壁にヒビが入り、壁の向こうからとても大きな、扉と同じ大きさほどの巨大な何かが現れる。


「――――――」


 片方はメイスを持ち、もう片方は石造の剣を持っている鎧の石像だ。

 そして次の瞬間、その石像二つの目と思われし辺りが赤く光る。すると――――


「――――!」


「うゎぁ!?」


 突然その石像が動き出し、メイスを振り下ろしてきて、そのメイスが地面を砕く。それを何とか横に避けるが、衝撃波でワタルは吹っ飛んでしまった。

 そして汚い受け身で着地し、その巨大な存在へと視線を向ける。


「門番がいんのかよ・・・!」


 この石像・・・いや、ゴーレムと言うべきか。恐らく、こいつが門番としてこのボス部屋を守っているのだろう。

 つまり、このゴーレムたちを倒さなければ、ボスを倒すこともできなければ、外に出ることもできないというわけだ。


「クソが」


 ワタルはそう愚痴をこぼし、構える。

 ダガーはきっと通用しない。体は疲労で重い。難易度は高いが、やるしかない。


「――――!!」


「うぉっ」


 今度は大剣を持ったゴーレムの攻撃を避ける。

 そしてワタルは右手と足に《力を生み出す能力ゼロ》をを付与し、地面を深く踏み込んで飛び上がる。そしてゴーレムの顔を思いっきり殴りつけた。


「―――――!?」


「硬っ・・・!」


 その衝撃にゴーレムの顔にヒビが入りよろめくが、倒れる気配はない。

 そのあまりに高いゴーレムの耐久力に、ワタルは驚く。しかもそんなゴーレムのことを殴ったからか、ワタルの腕はズキズキと痛む。

 このままではきっとゴーレムを倒すことはできない。


「しょうがねぇ・・・」


 どうやら、『アレ』を使うしかないようだ。

 そして、ワタルは体の内に従う。


「――来やがれ、《変幻自在の影カゲロウ》」


 ワタルがそう言うと、ワタルの体から黒い影が溢れる。

 この影は前世、ベルガルトの魔物たちを殲滅したスキルで、《変幻自在の影カゲロウ》と名付けた。ありきたりすぎるというのは言わないお約束だ。

 まぁそれは置いておいて、なぜ今までこれを使わなかったというと、前世でこの《変幻自在の影カゲロウ》が発言した時、自分が自分でなくなってしまったような感覚があったからだ。まるで、この能力事態に意識が飲み込まれるような、そんな感覚があったのだ。

 そのため、使うのは出来るだけ控えたかったのだが・・・


「こんなところで負けるわけにはいかねぇ」


 《変幻自在の影カゲロウ》の能力範囲は恐らく影。ワタルが認識できる範囲の影なら、そこから《変幻自在の影カゲロウ》を出すことができる。幸いにも、ここは暗い。


「粉々にしてやんよ」


 そう言ってワタルは腕に影を纏い、巨大な影の腕を形作る。そしてその巨腕でゴーレムを殴った。その衝撃に、大剣を持ったゴーレムは今度こそ倒れ、壁に激突すると同時に、ゴーレムは砕けて、中から光る玉が露出した。


「よしっ! ・・・ん?」


 するとその瞬間、そのゴーレムに変化が起きた。


 砕けたゴーレムの破片がカタカタと動き、先程の光る玉に集束して行き、立体パズルのように積み重なり、最終的には元通りになった。


「――――」


「っそだろ・・・」


 その出来事に、ワタルは驚きの声をあげる。

 だが、今の出来事のおかげでコイツらを倒す方法が分かった。


「さっき見えた光る玉。あれがゴーレムのコア的なやつか・・・?」


 ゴーレムキャラでのお決まりというヤツだ。恐らく、そのコアを破壊すればゴーレムの動きを止めることができるだろう。


「殴るんじゃダメだ。次の攻撃まで振りかぶるのに時間がかかる・・・なら―――」


 そしてワタルはもう一度影の腕を作り、今度は殴るではなく大剣ゴーレムの胸部分――先程の光る玉がある部分を、巨大な腕で握り砕いた。


 すると、しっかりと破壊できたのか、大剣ゴーレムはさっきワタルが砕いたときと同じ形の破片へと化し、バラバラと崩れていく。


「そして後一体は――――」


 ワタルは崩れていくゴーレムの大剣を影の腕で握り、振り返ると同時にメイスゴーレムに投げつけた。

 その大剣はメイスゴーレムの胸部を貫き、そのまま壁に貼り付けにした。当然、このままでは倒せない。


「よっ!」


 着地すると同時にワタルは飛び上がり、メイスゴーレムを貼り付けにしている大剣に触れる。そして、


「―――『ゼロ』」


 ワタルはそう唱え、大剣に《力を生み出す能力ゼロ》を付与する。

 《力を生み出す能力ゼロ》は、力を放出した物体に負荷がかかる。腕に付与して攻撃すると骨が軋み、武器に付与するとヒビが入る。だが今回は、自分の体でもなければ、壊れても別に良い武器。さらに、その大きさから相当な耐久力であることも予想できる。

 つまり、いくら《力を生み出す能力ゼロ》を付与しても問題ないということだ。


「砕け散れ」


 ワタルが《力を生み出す能力ゼロ》を大剣に付与した直後、メイスゴーレムの胸部が破裂した。

 そしてそんなゴーレムを横目に、ワタルは《変幻自在の影カゲロウ》を使って綺麗に着地した。


「ふぅ・・・さてと」


 一息着き、ワタルは忘れかけていた件の扉を向き、今度こそ扉に触れる。

 本当ならば少し休んでからボスに挑むのが妥当だが、今のワタルにそんな暇はないし、ボス部屋近くでおちおち休めるとも思わなかった。


 ゆっくりと扉が開き、ワタルは部屋の中へと歩を進めた。


「・・・・・」


「グルル・・・・」


 その部屋の奥にいたのは、金色の体で、白銀のたてがみを持っ体長3mはある大きなライオンだった。

 そのライオンは、突然部屋へと入って来たワタルに対して、唸り声を上げながら鋭い眼光で睨みつけて来た。


「こいつがこの洞窟のボス・・・・」


 ワタルはその金色のライオンの威圧感に息を呑むが、その直後、不可解な点に気づいた。

 ライオンが、鎖に繋がれていたのだ。



――――――手足を鎖に繋がれた金色の獅子が、その青い双眸でワタルを睨みつけていた。





『深い深い奈落の底で』


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ゴーレムさん役に立たなすぎだろ

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