第4話
翌日、痛みはすっかり引いて、俺はいつも通り学校に行った。
だが正直集中などしないまま、昼休みになる。
昼休みになると、俺は屋上へと続く階段の最上段で凛と話しながら昼ご飯を食べる。だが今日は、誰かから後をつけられているような気がしたので一人で食べることにした。
「凪、ここにいた」
そう言って、俺の目の前に陽葵が現れる。おそらく後をつけていたのは陽葵だろう。ここは探しても見つかるような場所じゃない。
「どうした? 陽葵。いつもの囲いはどうした」
「ちょっとね……昨日見られてたでしょ? その時、ちょっと攻めすぎちゃって」
「だから俺は警告したのに……」
「それで、色々聞かれて面倒くさくなって、逃げてきた」
「そうか」
あれでも守った方だったんだが……難しいな。いや、そもそも陽葵が引き下がっていれば……何のためにあれほど個人情報を隠しているのか、察してくれればお互いこんなことにはなっていなかった。
「インタビュー、上がってたね」
「見たのか?」
「うん。なんか、雰囲気違う」
「そりゃそうだ。オフィシャルとプライベートは陽葵だって違うだろ?」
「まあ……そうかも」
全部見られてると思うと、下手に変なこと言えないな……変なこと言っているわけではないが、一つ一つに緊張感が生まれる。面倒くさい。
その時、この状況をどうにかしたいという俺の思考を読んだかのように、スマホが鳴り始めた。電話をかけてきたのは凛で、専用ツールを通じてのものだった。
「ごめん陽葵、ゲームの関係者と話するから」
「わかった。じゃあね。次のゲーム、期待してるから」
「ああ」
過度な期待はやめてくれ。プレッシャーとかああいうのは嫌いだ。
そう思いながら陽葵を見送ると、すぐに凛からの電話に出る。
「どうした?」
『今、大丈夫?』
「うん。大丈夫だけど……」
『近くにアイツらがいる。というか、凪に向かって来てる』
「アイツらって?」
『一昨日戦った奴ら。そのうち、銃弾が当たらなかった三人が明らかに向かってきてる』
「えっ……」
その説明で、三人は屋上にいた奴とブザービーターの方の二人だとわかった。でも、何でそんなことに……
『エンジニアも絡んでそう。エンジニアは個体の位置情報がわかるから。自分の担当じゃなくても。だから今私もわかってるんだけど……』
なるそど。プレイヤーを管理するエンジニアが絡んでいるなら、特定するのは容易か。
「向かってきてるって、どういう……」
『襲撃、やり返し、敵討ち? とりあえず、凪を殺しに来てる』
「えぇ……」
『あ、今あっちのエンジニアから連絡来た。宣戦布告だって。銃持ってるらしい』
「は!? 俺今何も……」
話が一気に進んでいるが、もう起きていることは受け入れて対応するしかない。
学校にあるもので戦うしかない……と思う。
「……凛、指示頼めるか」
『わかった。視点共有してね』
「ああ」
『できる?』
「いつもやってるだろ?」
『でも、本当の命がかかってるんだよ?』
「心臓と頭さえ守れば、どうにでもなる」
俺はそう言いながら、かばんからカメラが付いたイヤホンを取り出してスマホの接続を切り替えた。
「見えてるか?」
『うん』
接続が確認できたところで、俺は階段を踊り場まで一気に飛び降りて、校舎の出口に向かう。だがそれも間に合わなかったようで、校内に銃声が響いた。
『マズいね……』
廊下を走りながら、開いている窓から外を見る。外には本当にあの時の三人がいた。銃も持っているのが見える。
今のところ、標的は俺だけで被害は出ていない。でもいつ生徒に手を出すかわからない。
『このまま行くと一階フロアに入る。そこまで一気に飛んでいける?』
「多分行ける」
そうじゃないと、間に合わない。
「見えたらすぐ銃のこと調べて」
『わかってる』
凛と打合せをして、俺は廊下の開いた窓についている安全柵のような手すりを外し、外に出る。それから縁に手をかけた状態で勢いをつけて、一階の窓へと飛び込んだ。ここはやむを得ず、窓を割った。
そしてちょうど飛び込んだ廊下の向こう側に、例の三人がいた。
「おい、何してるんだ? お前ら」
「いた……お前を探してたんだよ、白星」
「へぇ。で、何するつもり?」
「殺す。お前を殺す」
「何で?」
「お前のせいで……俺たちは……!」
「ん?」
喋っていた一人がそう言いながら銃口を俺に向けて、躊躇することなく引き金を引いた。だがやはり、見えている銃弾はかわせる。
今、あの三人は何らかの事情によって感情が高ぶっている。狂っている。全員がああならないようにと気を付ける姿があれだと思うほど。下手に刺激するのもよくないと思うが、俺に何の恨みがあるのかわからないと何もできない。ただもう、それを話す気もなさそうだ。
『銃の種類わかった。全部同じ。装弾数は七発だから、合わせて二十一発。ここまで撃ったのを引いて、残り十七発かな』
「了解」
残弾数を切らせるのは現実的ではない。つまり戦闘によって勝つしかない、か。
「そっちもエンジニアついてるんだな。実質ゲームだ」
「ここは現実世界だぞ。ゲームとは違う。自覚あるのか?」
「ああ」
その返答から、もうどうなってもいいという覚悟はあるように見えた。
『とりあえず、警察に連絡は入れた。すぐ来るけど、警察じゃ時間かかるから……どうにか抑えた方がいいかもね』
警察は対話で武器を手放させて捕まえるという方法を取るイメージがある。まあ威嚇射撃しただけでニュースになるくらいだからそうだろう。だが今のアイツらが武器を手放すとは思えない。
俺が抑え込むしかないか。
「じゃあ、お前らは俺と再戦したいってことか」
「次こそお前を殺す」
「ブザービーターでしか当てられなかったのに?」
「ゲームと現実世界は違うんだろ?」
そうは言ったが、俺たちの場合身体能力は変わらない。
「……じゃあ来いよ」
人数不利はあるが、一度勝った相手だ。勝てないわけはない。
「ゲーム」
「スタート」
それぞれがそう言うと、このゲームが始まる。現実世界でのゲーム。ルールはシンプルで、相手を全滅させれば勝ち。ハンデは人数と武器、あとは失うものの有無。実力差以上のハンデだが、ここで引けば人が死ぬ。それは防ぎたい。
ゲームが始まると、三人はすぐに銃弾を一気に放った。
でも、量があっても見えてるものは避けられる。俺は全てをかわした後、校舎の外に出ようと三人が入ってきた方と逆側にあるもう一つの出入り口に向かう。背を向ける間は危険だが、撃たれたら見ればいいと割り切って、かなりの速度で廊下を駆け抜ける。
そして外に出ると、勢いのまま広いグラウンドに出る。
一方、生徒たちは俺たちから離れるように校舎に引きこもっていく。これで十分戦える。
グラウンドに出る途中で、一階の窓を突き破る前に外に投げておいた手すりの鉄棒を拾い、武器も揃った。
長さ的に校舎の中では振り回せないが、グラウンドなら何の心配もいらない。
そこからは簡単だった。普段からやっている通り。走り回って銃弾をかわし、どこかで急激に近づいて棒で殴る。頭と胸に当てなければ大丈夫だが、痛みは相当なものだと思う。それを繰り返し、所々鉄棒で銃弾を防いだりしながらで全てかわしたわけではなかったし、凛と繋がっていたカメラも壊れてしまったりしたが、数分で決着はついていた。
「俺の勝ち。バッドゲーム」
決着がついてからすぐに、警察が到着した。
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