第2話
そんなゲームをこなした翌日。
全身、特に頭と右肩、とにかく全身が痛い。もちろん怪我はしていない。感覚的なもの。それでも辛い。
今この世の中にVR世界に機械を通じて入り込むフルダイブという技術は存在する。だがまだ研究段階。あのゲームはそのテストも兼ねている。おそらく実用化されればこの痛みも無くなっているだろうが……ゲームに参加する奴らは色々と狂ってるからこれぐらいしないとというのもわかる。
とりあえず痛みを我慢して、電車に揺られる月曜日の朝だった。
でももう頭が痛くて仕方ない。何も考えたくない。だが俺の社会的身分は高校生で、学校には行かないと怪しまれる。
本当なら正直休んでもよかったのだが、今日に限って幼馴染から話があるとなぜか朝早く呼び出される。散々だ。
まだ最寄り駅が学校と反対で、学校での待ち合わせとなったのが不幸中の幸い。
そしていつの間にか学校に辿り着き、俺は誰もいない校舎を進んで自分の教室に入った。一応朝練をしている部活があるので、早く来ても学校自体には入れる。
「凪、おはよう」
教室の中には、すでに先客がいた。黒髪ロングで色白の美少女。俺を呼び出した幼馴染、
凪というのは俺のことで、俺の本名は
「早すぎるって。わざわざ朝呼び出す必要あったか?」
「いつもすぐ帰るでしょ?」
「呼び止めればいいだろ。クラスのアイドルになった今じゃ無理か」
「しょうがないでしょ。一応言っておくけど、あれだけ囲いがいても、本心で話せるのは凪だけなんだからね?」
「何? 告白?」
「違う!」
「あっそ」
昔は友達ができなくて、友達なんていなくていいとも言っていて、それを心配した陽葵の両親が知り合いだった俺の両親を介してどうにか俺という友達ができた。そんな陽葵も、今ではクラスのアイドル。ゲームばかりやって、学校での友達がまるでいない俺とはいつの間にか距離ができていた。
「それで、何の用だ? わざわざ呼び出して、ただ話したいだけなんて言わせないぞ」
全身打撲した痛みを抱えたまま来てやったんだから、しょうもないことだったら許さない。なんならそのまま帰るくらいの気持ちだ。
「じゃあ単刀直入に。……これって凪でしょ?」
そう言って陽葵はスマホの画面を見せてきた。
その画面に表示されていたのは、よく見てきた画面。あのゲームのプレイヤープロフィールの画面だった。そして表示されているのは俺――白星樹のページだった。
でもプロフィールページはもちろん、ゲーム中もフードを被っていたりして顔はほとんどわからない。声もそれほど特徴的ではないし、どうしてそれが俺だとわかったのか……
「何言ってんの? てか、誰それ。配信者?」
「とぼけないで。わかってるんだからね?」
「何を根拠に……」
噓をつくのは得意だ。まだ冷静を偽れる。
そう言っていると、教室に入って来ようとする女子生徒の姿があった。こっちに気づいた上に何かを察して後退りし、隠れてこちらを覗き見ている。外の部活の音で話している内容は聞こえないだろうが、こんなところでゲームの話はできない。あれは一種のギャンブルであり、狂ったプレイヤーたちによるグレーゾーンのゲーム。色々と社会的にマズい。
だがそれは陽葵も同じ。
俺は陽葵に視線で見ている人間がいることを伝えるが、陽葵は引き下がるどころかむしろ近づいてきて、別の意味でマズい距離で問い詰めてくる。
「ね?」
陽葵は背伸びをして今にも唇が触れ合いそうな距離まで詰めてきていた。誰かが見てるっていうのに、さすがにこれ以上は恥ずかしい。
「……誰にも言うなよ」
「わかってる。知られたら私も……ね」
お互いのために、認めるしかなかった。クラスのアイドルが俺みたいな空気となんだか親密な関係……なんてちょっとイメージが崩れそうだ。
「でも何でわかった? っていうか言う必要あったか? もしかして金目当てか? だったら残念だがほとんど経費で消えるから生活費しか残ってないぞ」
声を潜めて今度は俺が問い詰める。
「そうなの? 経費に消えるの?」
「ほんとに金目当てなのかよ」
「違うけど……賞金のためにやってるんじゃないんだ」
「まあ……」
「じゃあ何でやってるの?」
「知らない方がいいぞ」
そもそも、自分で望んでやってるわけでもない。
「わかった。でもあの賞金が消える経費って何よ」
「話が逸れてる。俺の質問に答えろ」
経費の話も聞かない方がいい。俺は稼いでいるからいいが、稼いでいない奴らも経費だけは出ていく。さらに借金してたりもする。夢は全くない。ただ実際、俺の手元にかなり賞金は残っているが。生活費しか残っていないというのも嘘だ。
「何でわかったか……お父さんが好きでよくゲーム見てて……でも、白星樹を見るときだけはなぜか少し視線が違くて。父親みたいな。それで、よくうちに来てた凪とかのことはそういう風に見てた記憶があったから、そうなのかなって思うようになって……そう思うと、だんだんそうとしか思えなくなって……」
「それでわざわざ朝呼び出して聞いたのか?」
「うん」
やってくれたな、陽葵の父親の
「あと、その……」
「ん?」
「かっこいいなって思ったから。推しプレイヤーっていうか……」
「何だよそれ……」
驚いたが、少し嬉しかった。
今までプレイヤーを評価する奴らは頭がおかしいと思っていたし、どうせお世辞か何かだろうし、そういう話では毎回コミュニティが荒れているのでむしろ鬱陶しかったくらいだった。でも面と向かって言われたのは初めてで、しかも純粋な目で言われたもんだから、嬉しいと思ってしまった。まだ俺にも人間の心があったか。
「……ありがとう」
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