とあるゲームのプレイヤーだと幼馴染にバレた。

月影澪央

第1話

『そこを左に』


 イヤホンから聞こえてくる声に従い、俺は人気のない街の大通りを左に曲がる。


『その先に最後の星があります』

「わかった。他の位置は?」

『十メートル後ろに三人。次の角の先に二人。後ろの三人はそのままだと追いつけない。角の二人も凪の方が早く着く』

「そっか」

『あと一人の場所がわからない。気を付けて』

「了解」


 これは高額の賞金をかけたとあるゲームだ。


 これまで勝ちを重ねてきたおかげか、俺のゲーム内での格は相当高くなっている。なので今日のゲームは一対六の超ハンデ戦。しかも相手が指定してきた内容は人数有利の状況だと絶望的なもの。


 その遊戯の名は、『十三星座収集祭』。


 場所は毎回違うが、今回のフィールドはビルが立ち並ぶ街。そのあちこちに十三個の星が配置されて、その星をどちらが多く集められるかというもの。この遊戯に限らず人数有利はかなりの有利を築けるが、この遊戯は特にそれが酷い。


 現在のスコアは六対六。


 全てのゲームに共通して一人四つまで使用できる『スキル』。その種類や強さは総賞金額に応じて異なり、ハンデを背負う方はスキルの強さで対抗できる。


 俺はそのスキルによって勝利まであと一歩のところまで来れた。


 このまま行けば、勝てる。


 まあ、そう簡単には行かせてくれないと思うが。


「待て白星しらほし!!」


 後ろからそんな声が聞こえる。


 白星というのは俺のこと。このゲーム内で俺は白星しらほしいつきという名前を使っている。本名ではない。


 その直後、銃声が鳴り響いた。



 ゲームには一人一つ武器を持ち込める。現代に存在する携帯武器の中で最も使い勝手が良いのが拳銃で、武器を持ち込めるということは戦闘行為が認められているということだ。


 俺が唯一負けるとすれば、相手がゲームではなく戦闘行為にて勝利を収めるという作戦をした時だと思っていたが、さすがにそれはしなかった。


 このゲームには視聴者がいる。彼らはこのゲームで賭け事をしている。ただ見ている人も、賭けずに寄付する人もいるが、そのほとんどがルールに則った勝利を望む。それを考えると、ゲームをせずに勝つというのはイメージがよくない。イメージが悪いとゲームの相手も見つからないし、年に一回の祭典にも出られない。


 普通に考えればしない。



「危ないな……本当に殺しに来てんのかよ」


 俺は全ての弾を交わしながらそう呟く。


 もう決着は目の前で、止めるにはもうこれしかない。でも俺だって、そこで負けないために色々対策している。どこから飛んできているのかわかっている銃弾を避けるのは簡単なことだ。


 それから俺は一瞬後ろを向いて拳銃の引き金を引いた。当たったかどうか見る前に星に向かって走り出し、痛みから上げる声で当たったことを知る。追ってくるのは残り二人。


『星は地上十メートル。届くよね?』

「ああ」


 星は高いビルに沿うように浮いていた。高さは言われた通り十メートルほど。走ってきたままの勢いで踏み込んで飛び上がろうとしたその時、斜め上を黒い何かが通り抜けていったのが見えた。


「あれは……」


 爆弾か。


 そう判断したその瞬間、それがビルの壁にぶつかって爆発した。俺の真上だった。爆発によってビルの壁は崩壊し、瓦礫が大量に落下してくる。


「あっぶな……」


 俺は瞬時に踏み切ろうとしたのを留まり、地面を滑って瓦礫が降ってくるより前に降るエリアを抜けた。


 勢いを利用して体ごと振り返ると、そこにはかなりの量の瓦礫が積みあがっていた。でももうさすがに妨害する手はないだろう。


「殺ったか?」


 追って来ていたうちの一人がそう呟く。


「……そんなわけないだろ?」


 俺は仲間に代わってそう返答しながら跳び上がって、銃口を向ける。


 そしてすぐに残りの二人に一発ずつ銃弾を放ち、ついでに爆弾が投げ込まれた道を挟んだ向こう側のビルの屋上に見える人影にも一発撃っておく。これで安全を確保して、星に手を伸ばす。


 届かない……!


 さすがに助走なしで十メートルは届かない。下は瓦礫の山で下りれない。


 俺は一回ビルの方向に体を寄せ、壁を蹴ってどうにか上に跳び、宙返りをするようにして飛距離を稼いで右足の先でどうにか星を確保した。


 右足が星に触れたその瞬間、鈴が鳴るような効果音が鳴って、俺の勝利で試合が終わった表示が現れた。


 それと同時に、ブザービーターで放たれていたらしい銃弾が俺の右肩を直撃した。おそらく挟み込もうと反対から来ていた奴らから放たれたものだろう。


「うっ……」


 右肩から全身に激しい痛みが走る。


 一気に力が抜け、受け身を取れずに瓦礫の上に叩きつけられ、頭を打った。


 それでも、痛みから逃避する方法はない。これがこのゲームが行われる仮想世界――フルダイブだ。感覚として痛みは発生するのに失神はしないしアドレナリンも出ない。でも、こうでもしないと勘違いする奴もいるので、これはせめてもの安全装置だ。


『凪、大丈夫?』


 聞こえてくる声は冷静だった。


 そうだ。これはただ痛いだけ。怪我はしていない。


「……大丈夫」


 俺はそう呟いて立ち上がる。


「……俺の勝ち。グッドゲーム」


 物理的にも気持ち的にも見下して、俺はうずくまる敵にそう言っておいた。

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