第5話 六人中五人が?

「実は俺、銀河N64星雲の『#▼$%■&@』からやって来た宇宙人なんだ!」


 しまった、ついうっかり『#▼$%■&@』って言ってしまったけど、これは地球人の発声器官ではうまく発音出来ないんだった!


「えっと、違くて! いや、違わないけど! いやとにかく、俺がネイバー! 変身して戦ってたの、アレ、俺!」


 動揺のあまり、少々カタコトにもなってしまったが、とにかく俺は必死で伝えた。証拠を見せろと言われたらこの場で変身するつもりでもいた。その場合、この基地が崩壊することになるけど。


 何も反応がないのが逆に怖い。ぎゅっと固くつぶっていた瞼を恐る恐る開ける。

 

 すると、斜め向かいに座っていた『希望野キボウノミライ』先輩が「そんな……嘘だろ」とわなわな震え出した。ミライ先輩、いままで黙っていてすみませんでした。そう思い、申し訳ない気持ちで彼を見る。


「つまり、いままで俺達を助けてくれたネイバーαアルファがマモルだったってことか?」

「……そ、そうです。その、いままで黙っていてすみませんでした」

「いや、良いんだ。というか、この流れだから僕も言わせてもらうけど、実は半年前からちょいちょい出てるネイバーβベータ、あれ、僕なんだ」


 ガタタッ、と何人かが椅子から立ち上がった。もともと俺と進行役の茅野隊員は立っていたから、立ち上がったのはミライ先輩を除く三人だ。


「何だって!?」

「それは本当なの、ミライ先輩!」

「ミライ、お前……!」


 ミライ先輩の同期『山波サンバイノチ』、隊の紅一点『相都アイトロマン』、そして隊長の『乙鳥オツトリカタナ』である。


「マモル、いや、α。いつかきちんと礼をしたかったんだ。ありがとう、いつも僕を助けてくれて」

「いや、βの派手な切断技には俺の方がいつも助けられています! こちらこそ、いつもありがとうございます!」

「α!」

「β!」


 がっちりと固い握手を交わす俺とミライ先輩である。と、そこへ、「おいおい、二人だけで盛り上がってんじゃねぇぞ」とイノチ先輩が割り込んでくる。


「この際だからオレも言っちゃうけど、実はオレもなんだ。ネイバーγガンマ、あれがオレだ」

「γ!? 軽快な身のこなしで敵を攪乱してくれるγがイノチ先輩?!」

「お前! 毎回妙なBGMと共に現れやがってぇ!」


 さすがにミライ先輩も立ち上がった。


「ははは、やっぱり三体目は何かしらのインパクトがないとなって思ってさ!」

「思ってさ、じゃないですよ!」

「僕らのサイズであんな爆音流したら駄目だろ! 騒音公害だぞ! ああもうやっと文句が言えた!」


 と、俺達がわちゃわちゃしていると、はぁっ、とロマン隊員がため息をついて「ちょっとよろしいですか」と挙手をした。茅野隊員が「もしかして相都隊員もですか」と半ば呆れ声で促す。


「こないだ三人がめちゃくちゃ負傷してズタボロになってた時にヒーリング光線で回復させた女性ネイバーのδデルタ、実は私です」


 もじもじと頬を赤らめてのカミングアウトに、ネイバー×3は色めきだった。これまで言葉の壁が立ちはだかって身振り手振りでしかやり取り出来なかった紅一点が目の前にいるのだ。正直に言おう、δは俺達の星でもかなりの美人である。こっちで例えるならハリウッド女優とかああいうレベルだ。マジかよ、ロマン隊員がδなら、これからの俺次第でどうにでも……。


 などと邪なことを考えていると、うぉっほん! と大きな咳払いが聞こえた。我が隊の頼れる隊長、乙鳥カタナである。


 彼の名前と似た言葉に、『押っ取り刀』というのがある。これは、ものすごく急いでいて時間を惜しむあまりに、本来なら腰に差すべき刀を、手に持ったままで慌てて出掛ける、といった様を示すものなのだが、彼はどちらかといえば、その逆。常に泰然と構えていて、どっしりゆったり落ち着いた人物だ。副詞の方の『おっとり』の方の人間である。


 そんな頼れる男、乙鳥隊長が、貫禄たっぷりにゆっくりと口を開いた。


「あ――……すまん、それをいうなら実は私もだな、君達がピンチの時にサッと現れて光線打ってた。私がネイバーεイプシロンだ。いつも戦いの終盤に顔を出すだけでほんとすまん」

「「「「た、隊長――!!!」」」」


 ここまで来ると何となくそんな気はしていたが、インド枠のεがまさか隊長だったなんて! そこはせめて押っ取り刀で来てくださいよ!


 驚きの展開である。

 この地球上にいる五体のネイバーがよりにもよって、全員、EAATの仲間達だったのだ。だがこうなれば話は早い。これからも俺達が力を合わせてこの地球を守れば良いのだ。変身後のコミュニケーション問題もこれで解決だ。ここでの言語を使用すれば良いのである。


 俺達は再度固い握手を――と思ったが、さすがに五人で交わすのにはいささか難易度が高い。いっそ円陣を組もう! とアメリカ枠のミライ先輩、いや、βが声を上げた。それにヒューッ! とブラジル枠のイノチ先輩、γがテンションぶち上げで口笛を吹く。フランス枠のロマン隊員、δは高貴な笑みを湛えてそれに加わった。インド枠の乙鳥隊長、εがやはり最後にゆったりずっしりと俺の肩を掴む。


「EAAT日本支部――いや、ネイバーの力を合わせて、侵略異星人から地球を守ろう!」


 乙鳥隊長のその言葉で、俺達は「おおーっ!」と声を上げた。もう何も恐れることはない。俺達は無敵だ。EAAT日本支部に幸あれ――!

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