第2話 異国人との共闘

 良いか地球人諸君、自分達に置き換えて考えてみてほしい。確かに新たに現れたそいつは、俺と同じ星から来た宇宙人だ。宇宙人というのも何だか他人行儀だな。まぁ、同じ星の仲間ではある、間違いない。


 ただ、そいつは俺とは全く異なる国で生まれ、まったく異なる文化で育ってきたやつなのだ。


 つまり、だ。

 周囲に言葉の通じない異星人しかいない環境で暮らしているところへいきなり同じ地球人だからと、他国の人間を連れて来られて「同じ星の人間だし、仲間だよね? そんじゃ仲良くね!」って言われても困惑するだけだろう。おいおい俺、そっちの言葉も何も知らねぇんだけど?! って。


 そういうことなのだ。

 確かに俺は地球の言語は理解している。それはあくまでも『銀河マモル地球人』の身体を借りているから出来ることであって、別に銀河中の言語をマスターしているわけではないのだ。他の国の言葉なんか知らねぇっつーの。お前らだってそうだろう? 同じ地球人だからって、英語もフランス語も中国語もスワヒリ語もOKです! ってやつはそうそういないだろう。俺だってそうだ。銀河空手の有段者で光線技の資格を持っていても、他国の言語は知らねぇよ。


 そりゃあ地球人から見れば、俺らなんてみんな似たり寄ったりに見えるんだろう。違うから。ボディの色とか違うじゃん? あんなところにあんな模様なんて入れねぇんだよ、ウチの国ではよぉ! 言わせてもらえば俺だって地球人なんてどれも一緒だよ! 髪の色が違う? 何言ってんだ、勝手にコロコロ染める癖に! 目や肌の色が違う? そんなもん誤差だろ!


 どうやら向こうも同じ気持ちのようで、しばらくの間俺達は、「とりあえずお互いに敵意はありませんよ」というアイコンタクトを飛ばしつつ、なんとなーく共闘するような感じで怪獣を倒したりしてきた。互いに言葉がわからないなりにも、「あっ、なんかすみません。お先に光線どうぞ」、「いえいえ、今回の敵はどちらかといえばそちらの切断技の方が良いのでは?」などと身振り手振りでどうにか伝えたりして。


 まずいことになったと思ったのは、二体目が現れたことで、その呼び方をどうするか、と人間達が騒ぎ出した時だった。同じ『ネイバー』ではいろいろと不都合があるのだろう。


 真っ先に出て来たのは『1号』『2号』の『〇号表記』だったが、一応彼らの中でさすがにそれは失礼なのではないか、というのがあったらしい。というのも、俺達の戦いぶりを見て、「どうやら同じ宇宙人でも人種的なものが違うようだ」と判断したっぽいのである。

 例えば俺達が同じ組織に所属している仲間だったりすれば『〇号』で統一しても良かったのだろうが、どうやら違うっぽいし、一括りにするのはまずいのでは、みたいな意見が出たのだ。


 それで、俺は便宜上『ネイバーαアルファ』と呼ばれることになった。


 同僚の勧めで男性同士のアレな漫画を少々嗜んでしまったせいで、この『αアルファ』という単語に過剰反応してしまう俺は、ほんの少し嫌な予感がした。いや、気のせいだ。まだ慌てる時間じゃない。


 が、案の定というかなんというか、二体目は『ネイバーβベータ』と呼ばれるようになったのである。


 おいちょっと待て。

 お前達、1号2号はなんかちょっとアレだよね、って判断になったくせにαとβは良いのかよ。ギリシャ文字の1番目と2番目のやつじゃねぇか! 英語だったら『ネイバーA』と『ネイバーB』だぞ!? 何か読みがカッコいいからOK! とかそんな認識じゃないだろうな!?


 しかし、α、βときてしまったのである。順当にいけば次はγガンマなのだが、そっち界隈に一歩でも足を踏み入れてしまった者なら、次に来るのが何かはもうわかるはず。


 そう、Ωオメガである。

 ここまでのアレがなんのこっちゃわからないという人は一度『BL オメガバース』で検索してみてほしい。ただし自己責任だ。後悔するなよ。


 とにもかくにも、三体目はまずい。

 せめて俺と同郷のやつが来てくれれば良いが、また異国のやつだといい加減コミュニケーションがキツい。そんで、そいつが『ネイバーΩオメガ』なんて名づけられた日にゃあもう目も当てられない。


 そんな俺の願いむなしく三体目は現れた。

 

 ただ朗報だったのは、誰かが待ったをかけてくれたのだろう、そいつの名前はちゃんと『ネイバーγガンマ』になった。良かった。これで余計な物語が始まる可能性は潰えた。


 ……まぁ、そいつも思いっきり異国のやつだったけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る