第6話

 弱肉強食が当たり前の世界では、かつて国家や生存圏の指標であった経済から軍事力へとシフトしていた。そんな争いが近所付き合いのようになった現在。以前は部隊や組織の1人としか認識されていなかった歩兵は魔法の台頭によって国家の切り札になり得るまでとなった。その結果最強ランキングとまとめサイト等で評価されていた武器や兵装から魔法を扱える個人へと対象が変わることとなった。その際に強さの指標は様々あるが、それらとASFの求める強さには乖離が生じている。敵を一掃できる魔法や強敵を一撃で屠れる魔法が行使できたとしても国家や生存圏といった物量を投入し続けられる相手と交えれば、個人には限界が先に訪れる。

            

            傷は毒 魔法は劇薬


 そんな常識を、不条理を覆すことを理想としてASFは邁進し続けた。

数の暴力。理不尽の累積。そんな悲劇に抗い、悲嘆しないように。

そして長い時を経てそれを体現する者達が表れるようになっていった。彼の者達は共通した特徴を持ち、それは常識を打ち破る力であり、ASFが辿り着いた一つの終着点でもあった。

         

 理想を体現した者達はASFの勢力図を着実に拡大していった。そんな折にASFの軍全権を持つ現天翼が、ASFの更なる能力向上を目的に天翼並みの指揮権限等が与えられるを組織し、例外なく彼らは任じられることとなった。

 聖天が組織されてから、各聖天に選ばれた者達は個別に部隊の創設、スカウト、教育と独自に実力を伸ばしつつ後継育成にも力を入れていった。その結果目覚ましく実力を伸ばした者が表れ始め、今や聖天の一席に連なる者までいた。また聖天の私設部隊では軍本体とは違う学びが出来ると教えを請い願う者たちが多く、聖天の目に留まるようにと個々の実力向上が軍全体で蔓延り、天翼の思惑通りとなった。

 そして現在。軍本隊や施設部隊で頭角を現した者たちが表舞台へと出るようになり、聖天は次第に鳴りを潜めるようになっていった。聖天という存在は抑止力から過去の伝説と認識が変化していき、人々の記憶から現実ではなくおとぎ話のものとされていた。





「実戦さながらの訓練と実戦はこんなに違うものだったっけ?☆彡 実戦から離れすぎるのも問題だね☆彡」

 つい先ほどまで自分たちの正面先にいた人物の声が後ろから聞こえたことで、PS側は一斉に声の元へと振り返った。普段は気だるげな瞼が少し持ち上がり半目となったオンレがどこか高揚した様子で輝剣をクルクルと回していた。

「訓練で味方を斬るのと実戦で敵を斬るのがこんなに違うもんなんだね☆彡 いやはや教える側が教えられることになるとはね☆彡」

 飄々としながらも次の獲物を定める。それを想わせるような雰囲気をありありとオンレは醸し出していた。

「次はどこを?☆彡」

 輝剣を前へと突き出し、口角を上げる姿は善悪が行方不明な状態と言えた。PSは防衛陣地を取り囲むように扇の弧の字状で展開していたがその中心部分、ちょうどオンレが通過した場所に空白が生まれていた。それもオンレが持つ輝剣の長さでは不可能なほどの範囲がごっそり持っていかれていた。

「折角の機会なんだから死ぬ気で来なよ☆彡 ・・・・・・・   死ぬ前にさ。」


その言葉を合図にPS側の総力とオンレ単騎による衝突が切って落とされた。





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