第4話

「これを魔法として体系化できないかしら。」

爆風と砂塵で映像がブラックアウトしている司令部でルリィは呟いた。

「隕石爆弾(自爆)は流石に冗談ですよね、ルリィ様?」

上司の真剣な眼差しに冗談であってほしいと願いつつ、クラムは上司であるルリィに問いかけた。

「隕石爆弾。見た目や威力共に名を呈していていいわね。」

どうやらお気に召してしまったらしい。

(これは明日には新魔法として公表されちゃうな。)

「性能テストで地形を変えないでくださいよ? 以前も後処理が大変だったんですから。」

クラムは魔法実験の事後処理とその実験台にされる方を考え、ため息とともに苦笑した。

(ルリィ様が体系化したいのも、これを見ると納得できちゃうよね)

クラムの視線の先、ブラックアウトから復帰した映像には数十メートルのクレーターとその中心部分に無傷で立つオンレの姿があった。

「加速のみであの威力なら体積や威力を増幅する魔法で併用したら一体・・」

そこまで呟いてクラムはハッとルリィの方を見た。

「私と同類よ」と言わんばかりに手で口元を隠しながら微笑む上司ルリィがこちらを見つめており、私自身も画面の先に魅せられていると認めざるを得なかった。

 同盟国の危機、ひいてはASFに戦争の軍靴が近づいている中、ルリィ・クラムの二名は戦況や勝敗を全く気にしていなかった。二人はオンレが今後披露するであろう戦力を戦後抑止力としてどのように運用していくかに思考を飛ばしていた。かつて実戦で見せた実力を鑑みればまず遅れを取ることはなく、誰よりもストイックなオンレであればこちらの予想を何重にも上回ってくるのは明白だった。

(あなたのその見させていただきますよ)

ルリィは何度目かとなる本音の漏れる笑みを零した。


(女狐め☆彡)

そんな本音が聞こえてきたのかオンレは薄眼で空を見上げた。

クレーター内部は燃焼物質が着地の衝撃で発火しており、所々でチラチラと燃えていた。クレーター内に人影は無かったが爆風によって着地狩りを狙っていた敵は悉く戦闘不能となっていた。

「着地と攻撃を同時にしてみたけど、結構使えるかも☆彡」

オンレはルリィたちと全く同じ思考をしていた。


クレーターの縁に向けてまだ熱によって赤黒い大地を登っていくとオンレを包囲するかのように敵が展開していた。

「あの程度で全滅してもらっちゃ面白くないもんね☆彡」

オンレが地面を蹴るのと敵が魔法が展開するのはほぼ同時だった。不幸なことにオンレの正面に立っていた敵は一瞬で距離を詰めたオンレの右手に握られた輝剣に貫かれていた。剣を引き抜いた勢いを利用し、身体を別の敵に向けると空いている左手で銃の形を作り「バーン☆彡」と言い放った。子供がする絵空事の物まねとは違い、オンレの指先上にいた敵は輝線によって貫かれていた。

味方が二人倒されたタイミングで魔法展開が完了し、オンレに向けて掃射された。

射手以上の魔弾が不規則な軌道を描きながらオンレに殺到した。

「☆彡」

オンレは僅かに瞼を開け、含みを持たせた笑みを零す。魔弾は着弾と同時に射手が仕込んだ効果によって色鮮やかに爆発した。連鎖的に起爆するものや着弾後に複数に分裂して追撃を行うといった、明らかに魔法による防御突破を意識した攻撃魔法だった。そんな攻勢さえもオンレは円球状の魔法障壁一枚で凌いでいた。

「っっ!!!」

数で優っていながらも追い込まれていたのは敵側だった。

「急いでるから終わらすね☆彡」

そういうとオンレは展開していた魔法障壁に極わずかな穴を複数開けるとそこら輝線を敵めがけて射出した。

要塞に設けられた銃塔のように不意打ちの攻撃に、距離が近かったものや反応が遅れた者は輝線の餌食となった。またオンレと同じように魔法障壁を展開するも、いとも容易く貫通され同じ結末を辿る者も多かった。一番オンレから離れていた部隊を率いていた指揮官は即座に多重の障壁と逃走用の魔法を同時展開した。

(いい判断だね☆彡)

オンレは今にもこの場からいなくなりそうな指揮官に対して評価した。

実際この判断はこの場において最適と言わざるを得なかった。オンレの正体を看過しているか否かでなくても、こちらの攻撃が効かずに一方的に蹂躙するほどの実力者が突如空から降ってきたという状況において最悪の事態は詳細不明となってしまうことだ。もし全滅してしまえば情報はその場で霧散となってまた別の被害が生じてしまう。そのため例え仲間を見捨てたとして情報を持ち帰ることが何よりも仲間を死なせない最善手となる。

その苦渋の判断を攻守一回で判断できるということは優秀な指揮官と言わざるを得なかった。

(・・・ただ実力を見誤り過ぎたね☆彡)

オンレの輝線は多重の障壁をかのように通過した。

一枚だろうが複数枚だろうが関係なくオンレの輝線は敵と定めた者達を悉く貫通し、地へと落としていた。

「パーミッドスマッダの中でも攪乱や陽動、奇襲特化の部隊かな☆彡」

先ほど攻撃でその大半が殺すよりも無力化することに比重を置いた魔法が使用されていたことからオンレは、相手が現在ASF・レニアで防衛している第一都市レニーズの突破を目指す部隊を側面から支援するための部隊だったと読み切っていた。

(上から見た感じだとこれっぽかったんだけど違うか☆彡)

オンレは司令部で戦況を聞いた際に一つ引っかかることがあった。

(一度目の襲撃を耐えて増援部隊が防衛していたポータルをどうやって奪取したのかね☆彡 20万の軍勢が押し寄せた2つ目のポータルは閉じることに成功して1つ目は奪取されたということは、それ以上の軍勢か相当な実力者が1つ目のポータルに来たのかな☆彡)

オンレの推察はポータルという魔法の性質に沿ったものだった。

ポータルは2か所を繋ぐ位置座標透過魔法であり、両方を閉じることでポータルは消滅する。しかし片方のみが開いた状態だとポータル自体はまだ生きており、再開通や書き換えが可能な状態が一定期間継続してしまう。そのような性質から1つ目のポータルが書き換えられている現状、レニア側のポータルを閉じる暇がない程のひっ迫した状況が発生していたと結論付けるのは容易かった。

(原因究明は守備範囲の外なんだよなぁ~☆彡)

事前説明にない仕事が増えたことを憂鬱に思いつつもオンレは笑みを零さずにいられなかった。

 先ほどから頻繁に魔法同士が衝突するのを感知していたオンレは溢れんばかりの戦意を胸に第一都市レニーズと飛翔した。

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