第二話

 協会の扉を開くと大勢の人がいた。


(これ全員冒険者なのかな?)


「冒険者登録の方はこちらに並んでください」


そこは、長蛇の列で何度も折り返していた。並んでいる人を見ると皆体格が良くアンの体形はとても浮いている為注目の的となった。


「おいおいおいおい、ここにガイコツがいるぜ」

「いやいや、スカルの間違いだろ。ガハハハッ」

「じゃあ、討伐しなきゃな」


 男たちは酒に酔っているのかそれとも揶揄っているだけなのか分からないが、背中に背負っている刀に手を掛けそれをアンに振り下ろそうとした。


「おっと。ご婦人に刀を向けるなんてちょっと質が悪いんじゃないか?」


 大斧を構え刀を止めた屈強な大男は優しい声でアンを心配した


「怪我はないか?」

「はい。ありがとうございます」

「ちょーっと、待ったーー!!」


協会のカウンターから一人の小柄なかわいらしい女性が走ってきた。


「貴方達協会の掟忘れたわけじゃないわよね?!」

「あ~?俺たちはスカルを討伐しようとしただけだぜ?起きてなんて破ってないぜ?」

「スカルぅ?!!この人は少し痩せてしまっているけど人間よ。見て分からないの?!」

「少し痩せてるだぁ?骨に皮がついてるだけじゃねぇか!それにここは冒険者協会だぜ?こんなガイコツが仕事なんてできるかよ!」


 ”ガイコツに仕事が出来るのか”その一言にアンはショックを受けた。それは変えようのない事実でアン自身も仕事が出来るかどうか不安であったからだ。


「うちは討伐依頼だけじゃなくてペット探しから街の清楚なんて仕事があるんだからできないわけないでしょ!」

「どうだかな」

「それよりも協会内での抜刀は禁止。忘れたわけじゃないでしょうね?」


 女性がそう言うと男たちは顔を青くして「許してくれ」「酒が入っていたんだ」と言い訳を始めた。


「なんだこの騒ぎは」

「会長!!こいつらがこの女性に刀を向けたんです!」

「酒が入っていたんだ!!許してくれ!ただの悪戯だろ!!」


 騒ぎを聞きつけた協会の会長が奥からやって来て職員の女性から事情を聴き、アンに怪我の有無を確認し大斧で守った男にも話を聞き男たちの処分を決めた


「厳正な処分を言い渡す。お前たち二人は冒険者協会からの登録抹消。そして、永久的に協会への登録は不可能とする」

「はぁ?!ちょっと待てよ!!こんな奴の所為で除名になるのかよ!!ふざけるな!!」

「そうだ!!ちょっとふざけただけだろ!!それに怪我もしてないだろうが!!」

「仲裁が入らなければ死んでいたかも知れないのを分かっているか?」

「...そ...そんなの憶測だ!!結果的に怪我しなかったからいいだろ!!」


 ギャーギャーと不服を言う輩に会長は手刀で輩を眠らせ身ぐるみを剥ぎ登録証を燃やし警備兵に受け渡した。


「すまないね。怖かっただろう?」

「...はい...」

「規律で正してはいるのだけれど、ああいう輩は一定数いてね。それと君良く止めてくれたね。名前は何というんだい?」

「セバスと申します」

「そうか。セバス...覚えたよ。これからも活躍を期待しているよ」

「はい」


 セバスの肩をポンと叩き再びカウンターの奥へと去って行った。


「あの...ありがとうございます...」

「いや、当然の事をしたまでだ。それよりもご婦人の方が怖い思いをされただろう?大丈夫か?」

「はい...大丈夫です...」


 (夫に暴力をふるわえれていた事を考えれば助けてもらえただけマシ。刀で切られたら痛いけど一瞬で終わらせてくれるならどれだけいいか...)


騒動が起こったからかアンの周りに少し異様な空気間が流れ居心地の悪さを感じながら受付を済ませ、冒険者協会の掟を教えてもらった


一つ、ご登録いただいた日より依頼を受ける事は可能


二つ、依頼はランクに分かれている為協会が資格ありとみなすまで受けられない依頼がある


三つ、依頼を途中で放棄した場合は報酬は支払われない


四つ、依頼中の殉職については協会側は一切責任を持たない


五つ、依頼中や協会内でのいざこざは即刻除名


さっきアンに切りかかろうとした男たちはこの五つ目の項目に違反したのだと知らされた


「以上で登録は完了です。この後依頼を確認しますか?」


着の身着のまま家を飛び出して来たからホテルに泊まる金すらなかった。だから、私は二つ返事で「はい、受けます」と返した。


「では、隣のカウンターで依頼を探してください。最初なので...討伐系は避けた方が良いかもしれませんね。ご武運を」


指定されたカウンターは幸い空いておりすぐに受付すること出来た


「先ほどは大変でしたね。あのような輩はどこにでもいますのでお気をつけて」


 長い黒髪ロングのクール美人な受付嬢が冷たい言い方だが心配して忠告してくれた


「...はい」

「ところでご依頼を受けますか?」

「はい...。でも、私にできる依頼なんてあるのでしょうか...?」

「ここには、いろんな依頼があります。きっとあなたに見合う依頼がみつかるでしょう」


大きな本を開き簡単そうな依頼は...っと数枚の依頼書を並べた


「初めての方がされる依頼を抜粋してみました。迷子の犬探し、部屋の清掃、討伐、料理...ほかにもありますが、何か特技はありますか?」

「特技...ですか...」

「では、質問を変えます。何が出来ますか?」

「家事なら何でもできます」


 受付嬢は頭を抱えた。依頼はたくさんありその中に掃除などもあるのだが、どれも一人でできる規模のものではなかったからだ。


「...今現在その条件ですとどれも一人でこなすのは難しい依頼しかありません。パーティー募集をしてみてはどうでしょうか?」

「それって今日依頼に行けますか?」

「...概ね無理でしょう」


 一文無しで今日を生き抜くお金すらない私には死刑宣告の様に感じた。早く依頼を受けなければと必死になり受付嬢に


「今すぐに受けられる依頼はないのですか!?」

「そうは言われてもないものはないんです」

「そんな...じゃあ、どうやって今日を生きればいいんですか...?」


「そんな事を言われても」と受付嬢が困っていると


「ご婦人、家事が出来るという事は料理は出来るか?」


突然の申し出に困惑しながらも今この申し出は喉から手が出る程の申し出


「...はい。出来ます...」

「ならば、こちらに少し来てもらってもよいだろうか?」

「しかし、そちらのパーティーは!!「「口を挟まないでもらえるかな?」」...はい」


先程助けてくれた時とは打って変わり受付嬢を威圧するように言う


「仕事を探しているのであろう?」

「はい...」

「なら、私たちのパーティーに料理人として参加して頂けないだろうか?私達は料理人を探していてご婦人もお仕事を探している。利害は一致していると思うのだがどうだろうか?」

「...仕事を頂けるのであれば嬉しいです。報酬とかは...」

「それについてもあちらで話そう」


言われた席に法を見ると赤髪で後ろを三つ編みにしている青年が座っていた


「なんだよそのガイコツ」

「このご婦人は今回の料理人だ」

「...よろしくお願いします...」

「料理人なんかいらないだろ。いつも通り食材はあるんだし、それにこんなガイコツが料理なんて作れるのかよ」

「本人が家事全般が出来ると言っているんだ。料理くらいできるだろう。それにもう豆缶生活は飽きた」

「だからって!!そんな奴に頼まなくたっていいだろ!!」

「では!私達のパーティーに入りたいと言ってくれる料理人が何処にいる?!いないだろう!現実を見ろ!!」


 セバスの一言で赤髪の青年は黙った。


「あの...やはり私では駄目でしょうか...?」

「いや、すまない。こちらの事情に巻き込んですまないが...引き受けてくれるだろうか?」

「え~っと...はい。でも、どこで料理すればいいのでしょうか?」

「あぁ、すまない。説明がまだだった。私たちの依頼は討伐でこれからシールドの外に行き異形の大狼、ダイヤウルフを狩りに行くから基本は野外調理だ」

「ダイヤ...ウルフ...ってなんですか?」

「箱入りかよ」

「テオ...」


 シールドというのは借金取りのお兄さんが偉大な学者が作ってくれたのだと教えてくれたが、異形の動物に名前がついているものがいるのは初めて知った


「いいか?このシールドの外には異形の動物がごまんといる。...って流石にシールドの事は知ってるよな?」

「はい、すごい学者様がおつくりになったのだと...」

ねぇ...名前は知ってるか?」

「いえ...ここに来る前に聞借金取りのお兄さんに聞いて...すごい学者が作ったとしか...」

「まぁ、いい。それでだ。外には二つ名がつくほど巨大化した奴がいる。今回はそのうちの異形の狼の大きい版って認識で大丈夫だ」

「...はぁ」

「...分かってないだろ」

「見た事がないですし...それに、私が討伐するわけじゃないですし...」

「討伐は確かに私達が行うが何処にいるか分からない以上貴女にもシールドの外に行ってもらう事になる」

「そうなんですね。分かりました」


 私は甘く見ていた。自分が戦わないから怖いものなんて何もないのだと...



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出来損ない主婦一旗揚げる 乾禄佳 @inuirokuka

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