第5話 優希 グダグダになる

 


 今度は優希の衝撃しょうげきの発言だよ。


 なーんか、さぁ。ここ最近は、いつもこのパターンだよね。


 アタシもリアクションするのがメンドクサクなって来たよ。

 

 あ。いやいやいや、コイツはアタシを「お嫁さんにしたい」なんて抜かしやがったんだ。これはアタシ自身の「モンダイ」なんだよね。


「何だよ優希。お前、アタシにれてんのか ?」


 アタシは冗談じょうだんぽく言ってみた。アタシだって女の子なんだから。マジメに話すのは、なんて言うかくさい。


「うーん、惚れてるって言うか。ただお前を嫁さんにしたら俺の人生、退屈しないだろうなぁって思ったんだよ」


 はぁ ? コイツは何を言ってんだ ?


「テメェ、アタシはお前のヒマつぶしかよ!」


「あ、悪い。そう言うつもりで言ったんじゃ無いんだ。えーと、つまり・・・・」


 お ? 最近の優希にしては珍しくあわててるぞ。

 アタシの頭の中に進軍しんぐんラッパがひびく。


「じゃあさ。「お嫁さんにしたい」って思うほどのアタシの良いトコを教えてくれよ」


「えっ、勇気の良いトコ ? うーんと・・・・」


 おい!

 そこは考え込むトコじゃないだろ!

 雪ちゃんはアタシと優希を見ながらクスクスと笑ってる。


「えーと、まずは脳みそ筋肉だから裏表うらおもてが無い。マジで素直すなおって言うかバカ正直しょうじき。こう言うヤツが「オレオレ詐欺さぎ」に引っかかるんだろうな、って言う見本みたいなヤツ。でも、人には優しい。他人であっても。いや、お前の優しさはこの世に生きるすべての生命いのちに対して「そうなんだろうな」と思う。しかし、お前は単純だから優しさが空回りする事も多い。それで、しょっちゅう騒ぎを起こしてる」


「おい、アタシは「アタシの良いトコ」を話せって言ったんだぞ。それじゃ、良いトコなのか悪口なのかワカンナイじゃんか!」


 あ、優希がちょっとオロオロしてる。

 コイツ、アタシを「お嫁さんにしたい」なんて言いながら「アタシの良いトコ」を全く考えて無かったんだな。アタシの「進軍ラッパ」も「ヤレヤレ」だよ。


 「あーあ、優希がこんな「ヘタレ」じゃ雪ちゃんとの「ドウセイコン」をマジメに考えるべきかなぁ」


 アタシがそう言うと雪ちゃんからは、ちょっとコワイ口調くちょうで返されてしまった。


「勇気ちゃん、そういう言葉は軽々かるがるしく使っちゃダメ! 同性婚どうせいこん同性愛どうせいあい現状げんじょうもよく判っていないのに」


「あ、ゴメン。・・・・雪ちゃん」


 アタシはすぐにあやまる。

 そうなんだ。アタシは雪ちゃんのマジメな告白を「アタシにはまだワカラナイ」と言う理由で断ってるんだ。

 そんなアタシが簡単に使っちゃいけない言葉なんだ。


「おっし! これなら良いだろ。勇気の良いトコ」


 おいおい。

 コイツは「お嫁さんにしたい」人の良いトコを探すのに、そんなに時間がかかるのか。

 ま、仕方ない。聞いてやるよ。


「んで、優希。アタシの良いトコって何処どこなんだ」


「それはな。お前はメチャクチャ可愛いんだよ! 勇気」


 優希の剣幕けんまくに、ちょっとたじろいでしまった。

 こんなにもめんかって「カワイイ」なんて言われたのは初めてだし。

 不覚ふかくにもアタシは少し赤面せきめんしてしまうのだった。


「・・・カ、カワイイなんてわれれてるし。雪ちゃんのキレイにはかなわないし」


「あぁ、雪は確かにキレイだよ。でも、俺はピュアでカワイイ勇気が好きなんだ!」


 あれ ?

 優希がなんかイケメンに見えて来たぞ。

 それに、さっきの雪ちゃんの時のように心臓がドキドキしてるかも。アタシ、変だ。



パンパンパン



 いきなりの手拍子てびょうしでアタシはわれかえる。

 手拍子をしたのは雪ちゃんだった。


「はい、そこまで。勇気ちゃんが困ってるでしょ。それに」


 雪ちゃんはジト目で優希を見る。


「ピュアの意味を知ってて使ってるのかな ? 優希くんは」


「・・・・知らない。ネットの「口説くど文句もんく」とやらで見ただけさ」


 なにぃ、意味も知らない言葉を使ってたのかコイツは!

 まぁ、アタシも初めて聞く言葉だったけどさ。

 優希はしきりに「アニキは関係ない。アニキがトイレに行ってる時に俺がパソコンをさわってたら出てきたんだ」って言ってるなぁ。


「ま、あたし達にはこいだのあいだのはまだ早いって事だと思うな。もっと大人になって、もっと勉強しないと」


 雪ちゃんは誰に言うでも無く、自分に言い聞かせているように見えた。


 そんな雪ちゃんに優希はマジメな顔つきになる。



「でも、校長たちからの呼び出しは続いてるんだろ ?」



「・・・・うん。それで2人に相談があるの」




 西日は地平線に近づいていて、公園の樹々きぎに染まりつつあった。



 


 







つづく





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