第58話 4ー15 米本土爆撃 その二
最初に攻撃を受けたのは、ワシントン州リッチランドにある秘密都市だった。
コロンビア川河畔にある各種研究施設と、少し離れた場所にある職員の居留地に500キロ爆弾96発が三機編隊から落とされた。
精密爆撃であり、衛星写真から得られた目標を確実に潰していった。
他の9機はさらに東へ向かっている。
同時刻頃、オークランドにあるバークレー大学の原子力研究所と原子炉設備が爆撃された。
ご丁寧に二発の500キロ追尾弾が投下され、関連施設は完ぺきに破壊されていた。
時に米国西部時間で午前9時半のことであり、当時多数の研究者と学生が破壊された施設で働いていて被害に遭った。
その二時間後までには米国のマンハッタン計画に関わっていた18か所の研究施設・工場が次々と破壊され、同時に研究者たちがその家族とともに爆殺されていた。
中でも念入りに爆撃されたのは、リッチランド、ロス・アラモス、オーク・リッジの三か所である。
カナダ国内にある研究施設は、カナダが建前上中立国であったので敢えて見逃されていた。
米国東部時間午後二時までにすべての爆撃が終了したときには、マンハッタン計画の主だった施設はすべて破壊され、それに携わった研究者の98%までが死亡していたのである。
無論、研究者の家族あるいはたまたま爆撃地点を訪れていた者などある意味で計画に無関係な者もいたのだが、その犠牲も考慮の上での作戦決行である。
米国政府は、米国東海岸にまで及ぶ空襲に対して手も足も出なかった。
ワシントンDCのホワイトハウスには、わざわざ信管を抜いた通常の500キロ通常爆弾10発が投下され、ホワイトハウスの住人を恐怖に陥れた。
また、ワシントンDCにできたばかりのペンタゴン周辺にも同じく信管を抜いた500キロ通常爆弾32発が落とされていた。
同じく爆弾ではないが、大量のビラを入れた容器が米国の各主要都市に落下傘で投下され、高度500mで飛散することによって、多数のビラを地上に撒いた。
つまりはいつでも爆弾を落とせるぞとの意思表示を示したのである。
使用した追尾爆弾は約400発、残りは信管を抜いた爆弾が42発と、ビラを内包した容器が300個であった。
米国内は大騒ぎである。
国内に甚大な被害を生じたのであるから無理もない。
しかも、国民には秘密とされていた施設が攻撃を受けており、なおかつ、原子力施設の一部は爆破により放射能を周囲に拡散させていたのである。
このために知らずに入った救急隊員など多数が被ばくする被害を生じていた。
帝国の元帥府は、大本営を通じて報道関係者に広報をなし、同時に短波放送を通じて全世界へ周知をするとともに飛行船を使って米国内へも放送したのである。
「わが帝国は、いつにても米国本土を爆撃できる。
今回その一部を披露したわけだが、これは戦争終結と今後の世界平和にとって必要欠くべからざる破壊と判断して実行している。
米国は、国内外において秘密裏に原子力を利用した新型爆弾の開発に努めていた。
その計画はマンハッタン計画と呼称されているが、絶対機密とされているので全貌を知る者はごくわずかな人間だけである。
少なくとも米国政府首脳及び関係する科学者の一部は承知していたはずだ。
この新型爆弾は、完成すると一発の爆弾で大都市を一瞬のうちに破壊できる恐ろしい兵器となる。
米国はこの武器を作って、敵対国である我が国に投下することを企図していた。
その非道な計画を阻止するために、今回の作戦を発動したわけだが、関連施設の破壊と同時に、この計画に携わった研究者を一掃することが今回の作戦の主目的である。
作戦は95%成功したものと考えている。
わが帝国は、新型爆弾については人類を絶滅に追いやる最終兵器と考えており、今後ともいずれの国もしくは団体がこの新型爆弾を製造し、若しくは入手しようとするならば、直ちに仮借なき制裁に及ぶであろう。
今回、マンハッタン計画の一部に加担したであろう一部の政府に申し上げるが、全ての研究資料を廃棄せよ。
今後一年間の猶予をみて、なおも研究を続けている場合は、帝国が個別に誅することになる。
改めて米国政府に申し上げる。
わが帝国はこれ以上の殺戮は望まない。
米国が始めた戦争である。
貴国の意志で戦争を終結するように切に望むものであるが、なおも戦争継続を望むならば、帝国は西海岸の工業地帯、東海岸の工業地帯、更に五大湖周辺への工業地帯とともに各地に散らばる軍需産業の工場を根絶やしにする用意がある。
米国政府の速やかなる英断を期待する。
蛇足ではあるが付け加えておく。
原子力施設で放射性物質を扱っていたところでは、当該施設が破壊された結果、周辺に放射能物質が拡散されている恐れがある。
この放射能物質は人体に有害な影響を与え、本人のみならずその子孫にまで健康被害を及ぼす恐れが高いので早急に周辺の立ち入りを禁止することをお勧めする。
新型爆弾が実際に使用されると、そうした有害な放射性物質を大気中、海中に大量に放出し、人体若しくは周辺の生態系に甚大な被害を及ぼすことになる。
従って、作ってはならぬし、使ってはならない兵器であることを申し添えておく。」
この日から10日後、米国は英国を通じて和平を申し入れてきた。
B29は一応できているものの、それを運用するための足掛かりの基地(島)が無い上に、太平洋の海軍力を増強するには今少し時間がかかるのである。
然しながら日本軍の爆撃機は東海岸の東端ともいうべきメイン州のエルズワースにまでビラを大量に撒いて行ったのである。
つまりは、米国本土内のいずれの場所でも爆撃できるということを証明したのであり、東海岸に集中している海軍工廠や西海岸のシアトル、中西部のカンザス等々航空機工場が集中的に狙われては一気に米国の継戦能力が奪われてしまう。
今回の爆撃の被害結果から概ね2000ポンド爆弾相当の爆弾が400発程度使用されているものと米軍側では推測されていた。
ニューヨークのマンハッタンの摩天楼区画に一発でも落とされた場合の被害は考えだけでも恐ろしいことになる。
関係者によれば、ビルが林立している数ブロックが、2000ポンド爆弾一発で半壊すると予測しているのである。
造船所や航空機工場もドックごと、あるいは工場ごと破壊されれば修復は追いつかなくなるだろう。
しかも迎撃の手段が現状では全く無かった。
戦闘機は爆撃機を視界にとらえていながらもその高度まで到達できなかったし、高射砲群は全くと言っていいほど役に立たなかった。
VT信管付き砲弾も使用されたが、超空には届かず、成果は無く、むしろ落下した砲弾で家屋の破壊や住民が怪我をすることにもなった。
つまりは、戦争を継続すれば間違いなく米国の産業は壊滅する恐れがあるのである。
日本軍はわざわざ、ホワイトハウスとペンタゴン周辺に信管と火薬を抜いた千ポンド相当の通常爆弾をばらまいていった。
実弾であれば、当然に大きな被害を生じていたに違いない。
2000ポンド爆弾の投下地点では直径300m、深さ40mのクレーターが出現していたそうだから、仮にホワイトハウスに落とされたなら、ホワイトハウスが消し飛んでいただろう。
ペンタゴンですらも一発で半壊、二発か三発食らえば全壊となっていたはずだ。
米国政府首脳は負けを悟った。
これ以上和平を伸ばしても得るものは無い。
それよりも太平洋で講和を結んで、欧州に全力を傾けることにしたのである。
◇◇◇◇
1944年5月20日、豪州メルボルンで開催された講和会議で米国との講和が成立し、日米戦争は終結した。
米国は、東経180度線までの北太平洋海域を日本軍の領域として認めた。
アリューシャン列島では、セミソ・ポシュノイ島までが大日本帝国の領地として割譲されたほか、ウェーク島などの帝国が占領する地域も正式に割譲されたのだった。
それに加えて、最長二十年の返済期限付きで、20億ドルの賠償金が支払われることになった。
因みにマンハッタン計画の費用が概ね18億ドルを超えていたので、それに見合った額であり、米国は毎年1億ドルという大きなツケを日本に支払う羽目になったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます