第57話 4-14 米本土爆撃 その一

 超重爆については、マンハッタン計画の阻止に何としても必要であることから、種々検討していたのだが、やはりステルス爆撃機を志向することとした。

 私(吉崎)の闇属性魔法と仲嶋築兵老のお陰で、陸軍と海軍への橋渡しが上手く行き、戦略空軍構想も何とか関係先からの内諾が貰えている。


 戦略空軍と陸軍や海軍との所掌範囲は大まかに言って、戦略空軍が、主として偵察情報、通信中継、航空輸送業務、それに5千キロ以上の遠距離爆撃に限られていることだろう。

 戦略空軍は、別途の戦略軍令部の指示を受けて活動することになるが、そこには陸海軍からの人員を集めて組織する。


 このためにほとんど機能していない元帥府を活性化してもらった。

 元帥府は、陸軍と海軍の上部機関であるが、これまでほとんど活動実績がない。


 その代わりに大本営があったが、生憎と陸海軍のセクショナリズムの所為せいで、これまで一元的な指揮系統にはならなかった組織であり、私(吉崎)は、大本営を利用することは避けたのである。

 この大本営があったがために、前世の史実では作戦計画が一貫性に乏しいものとなり、陸海軍が協力して行う作戦は滅多になかったとも言えるだろう。


 上層部はともかく、現場では生死がかかっているので適宜の協力関係はあったが、基本は陸軍、海軍独自に動くことが求められた。

 それでは困るから、大本営を形骸化させてでも、戦略軍令部を実効あるものにしたかったのだ。


 元帥府は、そもそも事務局すらない状態なので、陸海軍の取りまとめすらできない状態だったのだが、形式的にしろ、法的には存在するので、実際にその機能を顕現させることにより、集権的な指示が下せることになる。

 尤も、細かい作戦はそれぞれの軍で行うことになるのだが、大局的な指令で戦略空軍が動けるようになることは好ましいことだった。


 戦略爆撃機で必要なジェットエンジンの開発は、吉崎航空機製作所で開始した。

 機体概形についてはほぼ20世紀末に出現したB2爆撃機のデザインをそのまま踏襲しているけれど、細部については流石に設計図が無いので異なっているかもしれない。


 依田隆弘の記憶情報から引っ張り出したものから疑似的に再現させたものだ。

 八咫烏やたがらす(若しくは天鴉あまがらす)計画と称して製造を進めている。


 推力24,000 lbf (109.1 KN)を想定したターボファンエンジンが製造できたのは1943年(昭和18年)10月のことだった。

 例によって、全翼型の機体に四基のエンジンを据え付け、二人乗りで試運転を行ったが、概ね計画通りの性能が得られたので、金谷工場地下四階に生産ラインを造り、24機を製造したのだった。


 その性能は概ね以下の通りである。


八咫烏一号機

 全長:23.04m

 全幅:55.41m

 全高:6.01m

 最高速度:約1,762km/h(マッハ1.44)

 巡航速度:約1,163 km/h(マッハ0.95)

 空虚重量:約43.03t

 最大離陸重量:約143t

 ペイロード:約17t

 エンジン:房J―1型 ターボファン×4基

 エンジン推力: 9,910kg×4

 航続距離:約17,800km

 乗員:2名


 依田の知っているB2が亜音速であったのに比べ、素材が違うことやエンジン性能の違いもあって、最高速度は音速を超える。

 また、エンジンの燃費が向上している上に燃料搭載量も増えていた。


 従って、概ね戦闘行動半径では7000キロの範囲を爆撃可能であり、空中給油機「蓬莱」が介在すれば片道1万4000キロ程度の爆撃任務もこなせることになる。

 最高到達高度は、高性能エンジンのお陰もあって、22,000mに達する。


 爆弾搭載量は16トン以上に及ぶので、500キログラム追尾爆弾32発、若しくは1トン特殊破砕爆弾16発を搭載できる。

 因みに後者の1トン特殊破砕爆弾は、大都市部の四ブロック程度に林立するコンクリート建造物を一撃で更地にするほどの破壊力がある。


 このほかにミサイル等も搭載できるが、当座は装備しない予定である。

 完熟訓練を兼ねて、三機編成で日没30分後に金谷工場を飛び立った八咫烏一号機から三号機は、フル装備でポートモレスビー上空にまで達し、離陸から9時間後に無事に金谷工場に戻って来たのである。


 飛行距離は10000キロに達するが、特段の問題は無かった。

 次いで行ったのは、空中給油機「蓬莱」との空中給油訓練と長時間飛行だった。


 金谷工場からマニラ、ポートモレスビー、ウェーク島、ミッドウェイ島、幌筵島、札幌、金谷工場と無着陸で一周したのである。

 途中で蓬莱から空中給油を受けたが、飛行距離は1万8000キロを超える。


 その間にポートモレスビーとミッドウェイを入れたのは、敵によって察知されないことの確認のためであった。

 味方の部隊にも悟られずに周回ができたことで無事に作戦が終了、米本土空爆の道筋はできた。


 問題はいつ爆撃を行うかであるが、昭和20年にまでずれ込むのは避けたいところである。

 何となればマンハッタン計画には、複数のソ連側スパイが潜り込んでいるために、米国で分散している各組織で成果が上がれば上がるほど、ソ連に情報が流れることとなっている。


 これは戦後体制を考えた時にソ連に利する行為であるからできるだけ阻止しなければならなかった。

 最終的に戦略空軍及び元帥府の設立を待って、1944年(昭和19年)4月に決行することに決めたのである。


 この決行時期については、B29の配備が絡んでくる。

 B29といえども、蒼電若しくは蒼電改で対処できないものではないのだが、物量で来られたり、油断があって万が一にでも本土爆撃を許したりすると、陸海軍ともに間違いなく焦燥感からバカなことをしでかす恐れが多分にある。


 前世のミッドウェイ作戦がその典型だろう。

 前世において、仮にミッドウェイを攻略できたとして、前世の日本軍にミッドウェイを維持できたかというと、当時の国力では絶対にできなかったと断言できる。


 ミッドウェイの攻略で米国政府が講和に乗ったかというと、多分それはあり得ない。

 仮にハワイが攻略されても米国は折れないだろう。


 但し、流石に米国本土に恒常的な攻撃が届くなら米国政府も折れただろうが、当時の帝国陸海軍にそれだけの力は無かった。

 現状でウェーク島の維持でさえ相応の手間暇がかかっており、蒼電、連梟、碧鯱などの新型兵器や吉崎グループの介在があって初めて実現できている。


 仮にそれらが無い状態ならば、補給の輸送船は潜水艦で沈められ、米国の機動部隊の襲来であっという間にウェーク島は奪い返されているだろう。

 そんな歴史のIFの話は置いといて、例によって闇魔法による洗脳で、元帥府詰めとなった参謀連中を動かし、厳重な秘密管理のまま米本土空爆を決行することになったのである。


 24機の八咫烏の搭乗員は、総勢で48名になり、給油機蓬莱24機を搭乗員を加えると倍の96名、予備の乗員を含めると総勢120名が予定された。

 陸海軍の各飛行隊から選りすぐりの爆撃機パイロットを選抜し、金谷工場で訓練をなした。


 飛行訓練は、シミュレーションと実機出動の両方で行われ、金谷工場からの実機出動は必ず日没後の夜間に行われており、夜明け前に帰投するのが慣例となっている。

 作戦本番における八咫烏の出撃地は、ウェーク島とアッツ島の二か所が予定された。


 距離的にはアッツ島の方が近いのだが、ベーリング海という北の海は気象が荒い。

 時に離発着が不可能なほど視界が悪くなることもある。


 その点、ウェーク島の方は熱帯低気圧が来ない限りは飛行日和の日が続くのだ。

 いずれからも飛び立てるように、アッツ島とウェーク島の滑走路と給油設備を決行日に向けて鋭意整備中である。


 1944年4月4日、ついに米本土爆撃計画が開始された。

 最初に空中給油機「蓬莱」がアッツ島とウェーク島から各12機ずつが舞い上がる。


 次いで時間を遅らせて八咫烏が同じくアッツ島とウェーク島から各12機ずつ離陸した。

 八咫烏一号機から十二号機と蓬莱の群れは、ウェーク島から6000キロ(サンディエゴの西南西1900キロ)の海上でランデブー。


 空中給油を完了して、八咫烏は米本土に向かい、蓬莱はウェーク島に戻って、そこで待機する。

 同様にアッツ島から出撃した八咫烏十三号機から二十四号機は、アッツ島から3500キロ(シアトルの西1200キロ)の海上で空中給油を受け、八咫烏は米本土上空に高度20000mで侵入した。


 最初の爆撃予定地点の到達予定時間から溯ること30分前に、大本営の名のもとに米国に対して爆撃予告をラジオ放送で実施した。

 放送電波の出所は、米国本土上空に浮かぶ飛行船である。


 曰く、


「我が国の和平の呼びかけに米国政府は応じようとしないのみならず、警告にもかかわらず米国政府及びその意向を受けた科学者集団は人類にとって災いしか呼び起こさない新型兵器を実用化しようとして実験を繰り返している。

 これを放置すれば人類の滅亡すらあり得ると判断されることから、我が国は米国政府に対して鉄槌を下すことにした。

 すなわち、これより米国のマンハッタン計画に関わる研究施設を破壊する。

 今後、米国政府で同様の計画があった場合には、予告なしに同様の制裁を加える。

 また、米国以外の国または団体が同様の企てを行った場合も同様とする。」


 米軍の防空レーダーは、西から飛来する八咫烏の編隊を捉えられなかった。

 但し、高々度を飛行する物体がわずかに見せる飛行機雲の目撃情報を得て、遅まきながら迎撃に舞い上がった米軍戦闘機だったが、高度二万mにまで上昇できるものは一つとして存在しなかった。


 そのままずるずると米国本土内への侵攻を許し、ホワイトハウスは大騒ぎになっていた。

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