第40話 3ー22 英米の諜報組織
英国と米国は、仮想敵国である日本軍の装備についての情報を集めていた。
諜報こそ一番と信ずる者たちの集まりであり、同時に自国の利益のためには謀略すらも辞さない連中である。
欧米人であることが露見してしまう白人種は、間違いなく官憲から監視されているので、日本国内では非常に動きにくい。
従って、専らアジア人、特に顔立ちの似ている中国系か朝鮮系の者をスパイに仕立てているのだが、生憎と優秀なスパイになれる者が少ないのだ。
それでもそれなりの陣容を整えて、日本国内若しくはその周辺地域でスパイ網を形成している。
ハニートラップも数多く仕掛けているのだが、生憎と詳細な情報がなかなか集まらないでいる。
1940年初めの時点では、日本海軍が大型の軍艦をKUREとNAGASAKIで建造中なのは承知していた。
おそらく排水量で5万トンを超える大きさで、主砲は16インチ程度になるだろう。
だが艦形が拝めないのだ。
造船所の周囲には塀が設置され、周囲の山に登ることさえ禁じられているから、造船所の様子がほとんどわからない。
勿論、海側も厳重な警戒が為されているので、小舟ですら迂闊に接近できないでいる。
使用されている乾ドック自体も、多数の
1940年(昭和15年)夏場になってようやく新造艦が出渠し、偽装を始めたようだがやはり依然として詳細が不明なままである。
日本海軍は、余程この新型艦を秘密にしておきたいと見える。
一方で航空母艦については、正規空母が「AKAGI」、「KAGA」、「SHOUKAKU」、「ZUIKZKU」の四隻、1万トン級の小型空母が「SOURYU」、「HIRYU」、「HUUSHOU」、「RYUJOU」の4隻に加えて、潜水母艦から改装した「ZUIHUU」、「SHOUHUU」、「RYUUHOU」の三隻があるようだ。
この時点で、英米は「蒼龍」と「飛龍」については、軍縮条約時に申請された公称トン数を信じていた。
そのほかにも1942年(昭和17年)に、海防艦4隻と試験潜水艦1隻の建造計画で8千万円程度の予算要求があったようだが、8千万円で建造できるのは精々巡洋艦か軽空母ぐらいと思われるのであまり心配する必要は無いと見ていた。
特に建造が中道造船所というこれまで聞いたことも無い中小の造船所のようだから問題なしと最初から深くは詮索しなかったのだ。
英米の諜報組織は、日本の諜報活動に関して時折お互いの情報交換をしていた。
総じて日本陸軍の機甲部隊はドイツに比べると弱小であり、少なくとも米国のM3軽戦車程度の戦車しか持っていないと判断していた。
従って、M5軽戦車であれば日本軍の戦車に十分対抗し得るし、新機軸のM3中戦車ならば間違いなく粉砕できるものとの判断を下していた。
尤も、中戦車については欧州戦線での使用頻度が高いことから、米英ともに太平洋方面に投入されるのは軽戦車群で差し支えないだろうと判断されている。
次いで航空機については、1938年に海軍が新型航空機を二機種採用したようだ。
普通の場合、採用は一機種なのだが、何故に二機種なのかその理由は不明である。
1939年も後半になって遠目に撮影された写真から見るに、それまでの96式艦上戦闘機と異なり、どちらも着陸脚を引き込み式にしていることから、おそらくは速度が上がっているのだろう。
但し、それでも後進国日本の技術ならば270ノットを超えてはいないのではないかと推測されていた。
端的に言えば、自動車のガソリンエンジンの完成度からおよその航空機のエンジンがわかるというものだ。
米国でも自動車産業と航空産業はそれぞれ別物ではあるのだが、互いに切磋琢磨しているので自動車の完成度を見ればおよその技量は図れるというものだ。
採用された二機種はYOTSUBISHIの航空部門が作った機種と、YOSHIZAKIという聞きなれない会社が作った航空機の二機種であり、いずれも艦上戦闘機として航空母艦に搭載されるようだ。
いずれにしろ、チビザル共の作った航空機なんぞ余り気にする必要は無いと本国のお偉方は考えて居るようだ。
欧州戦線は、航空機の高速化が進んでおり325ノットを超える速力でないとドイツとの戦いに勝てそうにない。
従って英国でも航空機の高速化を狙っており、米国もその傾向を受けて重装備、高速化を狙った機体開発が進んでいるのだ。
日本がどうあがいても、英米に追い付くのは十年早いだろうと思われる。
少々、気になるのはYOSHIZAKIという名前である。
航空機の製造もYOSHIZAKIという会社であり、先頃油田を掘り当てたのもYOSHIZAKI i Oilという会社である。
ついでに結核の特効薬である抗生物質のメーカーも確かYOSHIZAKI Drugだったような気がする。
日本人は同姓の者が多く、同姓同名でも全く異なる人物であったりするから、会社名であれば余計にそんなことが多いので、あまり気にする必要は無いとは思うのだが・・・。
日本人では、「Suzuki」に「Saito」などと云う名前はそこら中にごろごろしているのだ。
まぁ、英米におけるJohnとMarryに似た様なもんだな。
日本海軍で気をつけるべきは、新造艦の建造の動きだろうな。
米国でも空母の利便性に目をつけており、軽空母とは別に量産型の空母を13隻発注しているところだから、量的に日本軍に負けることは無いだろうが、戦艦数が心配ではある。
仮に新造艦がNAGATO型戦艦と同程度としても16インチ砲搭載艦が4隻になるのは見過ごせない。
それに旧式ではあるもののKONGO型戦艦4隻、YAMASHIRO型戦艦4隻で8隻の14インチ砲を搭載する戦艦群は決して馬鹿にできない戦力なのだ。
太平洋側に配備してある米国戦艦は14インチ砲搭載のネバダ等の旧式戦艦を含む8隻だけなのだ。
巡洋艦8隻、駆逐艦30隻では、軍縮条約のタガが外れた日本海軍に対抗するのに兵力不足となるのは間違いない。
しかも空母では、当座その保有数で負けている。
正規空母が4隻なのは同じであっても、明らかに現有軽空母の数が不足している。
恐らく搭載機数が異なるから、米空母三隻で日本軍空母四隻に匹敵するものと見て居るが、米国としては大西洋方面に結構な数の空母を取られているのが痛い。
有事に備えて、これまで以上の軽空母の増強を図っておく必要があるだろう。
ところで日本陸軍については、海軍とは別に重戦闘機の新型機開発を志向している様だ。
どうも、ソ連とのノモンハン紛争で、陸軍の航空機がソ連側高速戦闘機の物量作戦に敗れたことが主要原因らしい。
尤も、こいつは、ソ連側から仕入れた極秘情報と照らし合わせた分析結果だ。
日本陸軍は、ノモンハンで惨敗した結果を秘匿している。
その状況はソ連も同じで自軍の損害を隠しているんだが、ウチの諜報員の報告では、ソ連側も日本軍の損害を上回るほどの損害を被っている様だ。
欧州方面がキナ臭いからソ連側としては自分の兵力の減少を極力隠しておきたいのだろう。
日本の方が情報を隠すのは、陸軍という組織の面子の問題なのだろうな。
日本人はとかくメンツにこだわる。
恥をかかされたら、それだけでかなり長い時間恨んでくるのが日本人だ。
だから、日本人と付き合うにはメンツをつぶさないよう上手くおだて挙げてやることが肝要だ。
ウチのハニートラップ要員もそのへんは心得ている筈なのだが、残念ながら今もって陸海軍の重要機密は探れていないのが実情だ。
それよりは、米軍のレイトン中佐が率いる暗号解読班が良い仕事をしている様だ。
少なくとも日本外務省の暗号は100%、日本海軍の暗号は70%~80%程度が解けているそうだ。
従って海軍の重要な作戦が開始される場合には、事前に解析されることが大いに期待されている。
この辺も、英国との情報共有は図っているところではある。
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