第18話 決意とエルフ

 ざわりと背中を撫でられる不快な感触――、焦りが生まれたんだ。


 俺にとって水瀬さんはそこにいるだけで幸せな気持ちにしてくれる存在だ。

 隣の席にいてくれるだけで日常生活が華やぐ。学校に来るのがわくわくして日曜日の夜はそわそわして仕方がない。


 そんな彼女が誰かのモノになるなんて想像できない。できなかった。しなかった。除外していた。


 なんでその考えに至ったかは分からない。


 普通に考えてそんなことは有り得ない。

 彼女が誰かを好きになったり、誰かに告白されたり、誰かと付き合ったりするのは自然なことだ。

 エルフに視えるだけで彼女はどこにでもいる女子高生だ。


 きっと僕は、なんとなく……彼女の人並みを遥かに超越したその容姿故に、僕らとは遠い存在だと認識していたのかもしれない。


 もやもやした気持ちが次第に濃くなっていく。とくにかく今は避けられている明確な理由だけでも知りたい。


 だから俺は放課後に図書館に行き、書架から彼女が読んでいたシリーズを手に取ってカウンターに置いた。


「これ貸してください」


 俺がそう言うまで彼女は俺の存在には気が付かずに、活字の海に視線を落としていた。声を掛けてやっと顔を上げた彼女は、俺の存在を認めて長い耳をピンと張り、翡翠色の目を見開かせた。


「せ、瀬戸くん……」


 穢れなく美しい彼女の瞳に、無様な嫉妬が投影されてしまう気がした俺は視線を逸らす。


「……その、まだ怒ってる?」


「怒ってないよ! 違うの! そういうことじゃないの!」


 かぶりを振って彼女は立ち上がった。

 怒っていない、その一言が聞けただけで救われた気がした。


「そか、それなら良かった」


 彼女はこくりと頷き、唇を噛んだ。


「ちゃんと考えていたから……」

「うん?」


「その色々と、瀬戸くんとは少しずつ仲良くなれたらいいなって……」


「本当に? すごく嬉しいよ!」

「あのね、瀬戸くんに聞きたいことがあるの……」


「俺に? なに?」


「今はちょっと、まだ……、だから、また今度、ね」


「うん、わかった。待ってるよ」


「……あの、こんなわたしで良かったら、これからよろしくお願いします」


 水瀬さんは顔を真っ赤にして頭を下げた。


「うん、こちらこそよろしくお願いします」


 そう返事をすると水瀬さんの顔から強張りが溶けていき、彼女は微笑んだ。


 よかった。俺はやっと彼女と友達になれたんだ。香椎先輩のことは気になるけど、今はこれでいい。


「水瀬さんは俺の歓迎会来てくれるの?」


「う、うん……行こうかな。ちょっと不安だけど気になることもあるし……」


「気になること?」

「ううん、なんでもない」


「あ、そうだ。水瀬さんのスマホの番号教えてよ」


「え? あっ! うん!」


「そうだ。歓迎会の日さ、一緒に行かない?」

「えッ!?」


 だって人見知りの彼女はカラオケ屋乃前まで来たのはいいものの中に入れず引き返す、そんな光景が想像できてしまうのだ。


 せっかくの機会だから水瀬さんともっと話したい。


「俺とじゃ嫌かな?」


「そ、そんなわけないよ! お願いします!」

「うん、じゃあ連絡するから」


「……うん」

「またね」

「またね……」


 彼女は俺が図書館から出て行くまで小さく手を振っていた。


 その姿が愛おしいと思った。

 やっぱりめっちゃ可愛かった。

 まだ心臓がドキドキしてる。


 文系ハンターだかなんだか知らないけど、彼女をそんなヤツに渡したくない。


 僕のアドバンテージ、隣の席を最大限に活用して彼女をケダモノから守るんだ。


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仮に隣の席の女子がエルフだったら ~二人きりになると引っ込み思案な水瀬さんが甘えてくる~ 堂道廻 @doudoumeguru

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