第7話 部活とエルフ

 転校五日目、俺はテニス部に入部した。


 テニス部はソフトテニス部と硬式テニス部があって、僕が選んだのは硬式と呼ばれる方だ。同じテニス部だと思っていた籠原さんはソフトテニスの方だった。

 でも練習するコートが近いから同じ部活をやっているような感覚になる。


「よッス、おつかれさま」


 部室を出たタイミングで籠原さんと鉢合わせになった。制服に着替えた彼女もこれから帰宅のようだ。


「籠原さん、おつかれ」


「おそいじゃん、居残って練習してたの?」

「うん、体がなまっていたからね。籠原さんも今帰り?」


「ちょっと部室の片付けがあってね。初めての部活はどうだった?」

「楽しかったよ。先輩も変な人はいなそうだし」

「でも、物足りない顔してるね。確かにレベルはそんなに高くないもんね、うちのテニス部って」

「あはは……」俺は苦笑いを浮かべた。


「せっかくだから一緒に帰らない? 通学は電車? バス?」

「俺は自転車、籠原さんは?」

「私は電車だよ」

「じゃあ駅まで送るよ、日も暮れてきたしさ」

「二人乗りで?」


 首を振って自転車を押して歩き出すと、籠原さんも歩き出した。


「みんな仲いいよね、うちのクラス」


「まあ、他のクラスに比べればそうかもね。よく絡む同士のグループはあっても変な派閥みたいのはないし。アメリカの学校ってどうなの?」


「うーん、どうだろ? 俺の通ってたエレメンタリーとジュニアハイスクールは平和だったかな。場所によってはスクールカーストがひどいなんて話も聞いたけど……あれ?」


 俺は立ち止まった。


「どうしたの?」


「水瀬さんだ」


 並木道を抜けたところにあるバス停で、バスを待つ彼女を見つけた。セーラー服のエルフの少女、改めて見ると日本の風景とミスマッチだ。でも目を引き付けられる。


「あ、ホントだー。そういえばよく遅くまで残ってるんだよね、セレンちゃんって」


「部活で?」

「そうみたい」

「なに部なの?」


「え? えっと確か文芸部だったと思う」


「そうなんだ。……彼女の両親って外国の人なのかな」


 俺のその質問に籠原さんは首を傾げた。


「外国? さあ、どうなんだろね? ひょっとして名前がセレンだから? カワイイよね、外国人みたいで」


 外国人みたいで、か……。僕には外国人というかエルフにしか見えない。籠原さんもユートたちと同じように彼女を地味と評価するのだろうか。


「セトハルくん、さっきからセレンちゃんのことじっと見つめちゃって、ひょっとして気になるの?」


 籠原さんはにやにやしながれ肩をぶつけてきた。


「いや、気になるっていうかなんていうか……」

 

 どうする……、籠原さんに直接聞いてみるか? でもなんて?


 例えば「あの子、外国人つーかエルフじゃね?」とか。 

 でも「だからなに?」と返されたらどうすればいい……。


 それだけならいい。もしかしたらエルフだと指摘すること事態が差別的な発言になってしまうのではないだろうか? だからみんな何も言わないのではないか……。

 

 アメリカもそういうの敏感だったからなぁ、すぐに裁判になるし。さすがに転校して早々に訴えられたら目も当てられない。


 だから俺は「隣の席だからだよ」と答えるのに留めたのだった。

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