第6話 体育とエルフ

 俺の隣の席にはエルフの少女がいる。

 金髪翠眼の正真正銘のエルフだ。

 ジェニファーは耳が長くなる病気なんじゃないかって言っていたけど、やっぱり実物を見るとそうは思えない。

 だってこの圧倒的エルフ感。長い耳だけじゃなくて彼女の纏う神々しいオーラがエルフだと語っている。


「よーし、五分だけ休憩だ。水分とれよー」


 体育教師が声を上げた。

 俺たちは木陰に移動して水筒の蓋を開ける。


「このくそ暑いのに外で体育ってなんだよ、拷問かよ」ユートが吐き捨てた。


「まだ七月なのにこの暑さは異常だな。女子は体育館で羨ましいぜ」


「体育館の方が蒸して熱そうだけどね」俺は言った。


「いや、去年エアコンが完備されたんだ」


「そか、それは羨ましいね。日本の暑さは親戚から聞いていた以上だよ」


「セトハルの住んでいたところは暑くねーの?」


「湿度が低いからね、夏は快適だったよ。冬はやばいけど」


「ふーん」


「……ちょっと質問なんだけどさ」


「あん?」


「みんなはうちのクラスで誰が一番カワイイと思う?」


「このタイミングでその話題をぶちこんで来るとは……、さすがUSA育ちだな」


「いや、USA関係ねーだろ。が、敢えて先に言わせてもらうとダントツで遠野さんだな」と小田切くんが先陣を切る。


 遠野さんとは同じクラスの黒髪の乙女こと、遠野うららさんだ。みんなが一様にうなずくだけあって彼女はすごい美少女だ。物静かで孤高の人って感じで近寄りがたいけど、それも含めてミステリアスな魅力がある。


「意義ナーシ」

「ハゲに一票」

「はげてねーし!」

「ハゲに二票」

「はげてねーよ!?」


「僕は籠原さんかな」


 そう控えめに答えたのは古手川くんだった。


「あー、乳デカいもんな」

「違うよ! 僕は彼女の性格が好きなんだ!」

「じゃああのオッパイは揉みたくねーんだな?」

「……揉みたい」

「やっぱり乳かぁー」

「だから違うって!」


 その後も各々が推す女子の名前が数名あがったけど、水瀬さんの名前は出くる気配はない。あんなにもずば抜けた美人なのにどうしてなんだ? 美人つーかエルフだし、それだけで加点マックスなのだが……。


「セトハル、お前はどうなんだよ? 言いだしっぺなんだからちゃんと答えろよー。まだ女子ズの性格は知らんだろうから容姿だけの好みでいいぞ」


「そうだね、水瀬さんなんてどうかな?」


 はぁっ? みんなが一斉に顔を歪めてみせた。


「またマニアックなところ来たな……」

「あー、そういえばこいつ地味っ子が好きなんだとよ」ユートは言う。

「へぇ、日本を離れているとああいう子がタイプになるのかな? おしとやか的な」

「おしとやかというか陰キャじゃん? まあ、素材は悪くない。可愛くない訳じゃないけどさ、地味すぎる」


「ユートだけじゃなくて、みんなも彼女が地味だと思うの?」


「地味だな」

「地味だね」

「ジミヘンだ」

「ジミヘンってなに?」

「なにッ!? ロックの神さまジミー・ヘンドリクスを知らんのか!」

「知らん。ナイト・ガンより有名?」


「知名度で例えるとアメリカ大統領とうちのハゲ校長くらいの差がある」


「はげてねーし! ……いや、ハゲてるなうちの校長」


「休憩おわりー、集まれー」


 体育教師の声に休憩していた生徒たちが立ち上がる。

 

 うやむやになったけど、みんなの認識は一致しているようだ。


 やはり俺とみんなの美的感覚の違いなのだろうか。でも俺はそこまで自分が一般的な感覚とズレているとは思わない。

 だって遠野さんだって美人だと思うし籠原さんだってかわいいと思うんだ。



























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