第4話 図書館とエルフ
転校一日目が終了して放課後を迎えた。
「セトハル、今日から部活か?」
「いや、まだ入部届は出してなんだ。落ち着いたら見学してみようかと思ってる」
「よーし、じゃあ今日暇なヤツ集まってカラオケでセトハルの歓迎会やろーぜ!」
「ちょいちょい林田優斗くん」と籠原さんがユートの肩を叩いた。
「なんだよ委員長」
「そういうことはいきなり決めるんじゃなくてちゃんと調整しなさいよ。みんなの予定が合う日とかさぁ、みんなキミみたいに暇じゃないんだよ?」
「んだよ、わかったよ。じゃあ近いうちに調整すっからみんなよろしくー」
うーい、とクラスから声が上がった。
「じゃあユート、今日は学校を案内してくれよ」
「おお、いいぜ!」
ってな感じで俺は放課後をユートと過ごすことになった。
それにしても歓迎会か、俺のためにイベントをやってくれるなんて思っていなかったから素直に嬉しいな。
水瀬さんも来てくれるのかな、すこし人見知りっぽいけど、彼女と話してみたい。ついでにエルフの真相を知りたい。
「わたし、実はエルフなんだ……。びっくりしたでしょ?」みたいなセリフが聞けるかもしれない。
そしたら僕はなんて答えよう。
「そうなんだ! 気がつかなかったよ!」
んな訳ない。
「そうだと思った。いやぁ、みんな普通にしているからどうしようかと思ったんだ」
ちょっとわざとらしいけど、これが無難かな。そして仲良くなれたらあの耳を触らせてもらおう。エルフの友達ができたなんて言ったらジェニファーはなんて言うかな。
ユートに連れられて俺は校内を回る。彼は売店のルールや屋上にこっそり出る方法、そろそろプール清掃が始まることを話してくれた。
学校ツアーの締めくくりとして最後に訪れたのは、図書館だった。
この学校には図書室ではなく学校の敷地に図書館がある。生徒証のカードがないとゲートが開かないそうだ。
ゲートに生徒証をかざして中に入ると、本の匂いが鼻腔に広がる。思っていたより広くて天井が高い。想像以上にちゃんとした図書館だ。
「あ……」
貸出カウンターにいたのは彼女だった。椅子に座って本を読んでいる。
「どうした?」
「水瀬さん、図書委員なの?」
「あー、そういえばそうだったかもな」
「そうなんだ……」
静かな図書館で読書する姿がなんて絵になるんだろう。思わず見惚れてしまう。
なんというか、エルフに本という組み合わせが妙に映える。手にしている本が魔導書っぽいからかな。とても幻想的で、ファンタジー映画のワンシーンみたいだ。
「ひょっとしてセトハルってああいう地味な女子がタイプなのか?」
水瀬さんを見つめる俺にユートは言った。
「え?」
俺は耳を疑った。地味? ユートは地味っていったのか?
「地味? 水瀬さんが?」
「あん? そうだけど……、どうした?」
「それって性格のこと? それとも容姿のこと?」
「はは、なんだよその質問? どっちもだな、あいつ全然しゃべんねーし顔もパッとしねーし、地味の極みって感じ」
「地味……」
「それじゃあ次は図書館のシアタールームに行くか――
歩き出したユートの声は耳に入らず、俺は別の方向に歩きだしていた。受付カウンターの前に立ち、「こんにちは」と水瀬さんに声を掛ける。
「あ……」と顔を上げた彼女は、金色の睫毛を大きく立たせ、眼鏡の奥にある翡翠色の瞳で俺を見つめた。
「きれいだ……」
どうしたらこれが地味に見えるんだ。こんな吸い込まれそうなきれいな眼は見たことがない。
「え?」
「あ、いや、なんでもないよ。水瀬さん、図書委員なんだね」
こくりと頷いたまま俯いてしまう。
「えっと……、何読んでの?」と尋ねると彼女は顔を隠すように本を開いたまま表紙と背表紙を見せてきた。
「指輪物語……」俺はタイトルを口にする。
原作は呼んだことないけどエルフが出てくる物語だった。この組み合わせは偶然か、まさかわざとなのか??
「……よ、読んだことある?」
か細く、少し声を震わせて、顔を隠しながらそう言った彼女。
本で顔は隠せても長い耳が両サイドから飛び出している。
「いや、映画は観たけど本の方はまだなんだ。でも興味はあるから今度借りに来ようかな」
長い耳の動きで彼女がこくりと頷いたのが分かった。
「おーい、セトハル。そろそろ行くぞー」
「あー、ごめん。いま行く」
その後も色々案内してくれたけど、僕は水瀬さんの上目遣いの表情が、しばらく頭に焼き付いて離れなかった。
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