第4話 もう1人
欠けた大の字になったまま、控室の天井を仰いでいる。
段々ふらつきが激しくなってきている。肩のあたりからまだ血が溢れている。
血が足りていないようだ。脳に酸素が届ききってないのが分かる。そんな自分の脳で、今、考えている。僕はここから出る方法を編み出そうとしている。
あと大体10分。時間が少ない。考えろ、考えろ!
…1つだけ、僕は思いついた。よし。こうすれば出られる。きっと出られるはずだ。
僕は、控室の壁に自分の血で図を描き始めた。ここの会場の図だ。記憶を頼りに、ステージから客席の扉まで、覚えている部分をひたすら描いていく。
ショーが始まったら、すぐに扉めがけて走る。それだけ。それが1番シンプルだけど同時に無難でもある。僕が走るルートは階段状になっているから、怪物には不向きだろう。それに、逆に他の方法では時間がかかる上に何が起きるかも誰がいるのかも全く分からない。
描いた図はもう覚えた。これでやっと出れると思うと、時々気分の高揚があの怪物と再会する恐怖よりも勝っていた。
控室の扉が開いた。ピエロのお出迎えだった。もうこれで会うのも最後。腕はもう時間が経って痛みは感じないし、義手をつければどうにでもなる。
さようなら。
僕はそう思いながら、ピエロの誘導に従って1回目と同じステージへと上がった。
「皆様、お待たせいたしました。これより2回目のショーを開始いたします。」
始まった。でもまだ降りない。客席の人の視線があの怪物に向くまで我慢する。そうしないと客席の人からの干渉が来る可能性がある。
案の定、後ろでは横にはけていくカーテンから鉄格子が見える。カーテンが完全にはけると、鉄格子が開いた。そこからゆっくりと怪物が現れる。やはりこちらと目を合わせて逸らさない。
今だ。
僕はすぐにステージを飛び降り、客席の扉へとただただ無心で走る。止まっても、振り向いてもいけない。そうしてしまえば、きっと死ぬだろう。僕は生きるためにここを出るんだ。
突然、足を引っ張られるような感覚がした。客席の人だ。僕はその場で倒れこむ。
「おい、ショーをやるんだろ?こっちは金払って来てんだよ!」
「やめてくれ!死にたくないんだ僕は!」
僕の足を掴んでいる手は義手だった。その義手を蹴り飛ばし、またすぐ走り出した。横目で蹴り飛ばした義手が離れて吹き飛んでいるのが見えたが、今はもうどうでもいい。早くここを出ないと死ぬかもしれない、そんな恐怖に狩られていた。
そして、ついに扉の前まで辿り着いた。途中、何度も足を掴まれながらだったが、その手は全て蹴った。時々、何度も義手が吹き飛んでいるのが分かっていた。
走りながら、勢いでその扉を開けようとしたその時。
がちゃっ。
僕が扉のノブへと手をかけようとしたその時、あっち側から扉が開いた。
「君、客席に出てもらっちゃ、困るじゃないか。うちの大事なお客さんだ。それに、会場に傷がついたらどうするんだい?」
そう言って現れたのはピエロだった。
ピエロは、すぐにエンジンチェーンソーを作動させた。
サーカスと化す。 噂のはちみつ @honey0108
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