本文第三話
さて、私は暗号を解き終わったので、贄暈さんが冷やし坦々麺を食べ終わるのを待つだけなのだが……。
「量…多くないですか?」
大盛り過ぎるのである。食い切れるのだろうか…。
「そんなに多く無いですよ。もうすぐ食べ終わりますし」
「そうですか…」
はぁ。十二時半の新幹線に彼女が乗れるよう、早く解説したいのだが…。因みに、深夜二十三時から一時頃を子の刻、昼の十二時前後を牛の刻という。知っておいて損はない。
「ご馳走様でした!それで開駿先輩、暗号は解けたんですか?」
「まぁ、間違っている可能性もありますが…」
「では是非!解説を!」
何故こんな元気なのだろう。まぁ、間違っている可能性があると言ったが、おそらく合っている。そもそもこれは暗号というより、知識ゲーのような気がする。
「分かりました。まずお聞きしたいのですが、贄暈さんは、アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer)の『メランコリア I(Melencolia I)』という作品をご存知ですか?」
「いいえ全然全くこれっぽっちも」
まぁしょうがないか。スマホの画面で見せれば良いか。
「こちらを見てください。これが『メランコリア I』です」
「へー」
「興味無しですか…。とりあえずここを見てください」
「この天使がどうしたんですか?」
「そもそも「メランコリア」という言葉は「憂鬱」を意味する言葉で、この作品は人間の性格の一つである憂鬱を擬人化したもので、天使が頭を抱えて、目の前の忙しい光景を見つめて憂鬱に沈んでいる様子を表しているんです」
「あ!それが暗号文の「頭を抱え憂鬱に沈む天使」なんですね!」
「おそらくはそうかと。それを確信に近づけるのは、次の文「新しき兵士が赤い頭を叩いた時を刻む」です」
「どういう意味なのでしょう?銃で血が上ったハゲでも叩いたんですか?」
「いや怖いよ、その表現。そうではありません。まず「新しき兵士」は「イェニチェリ」、「赤い頭」は「キジルバシュ」を意味するかと」
「家にチェリー、雉る場所????」
「なんか若干違う気がするのですが…。詳しい説明は省きますが、要するにこれは、1514年に起こった「チャルディランの戦い」を示す言葉なのです」
「そうなんですか」
「はい。ここで重要なのは、この戦いのことではなく、暗号文に書かれている通り、この戦いが起こった「時」なのです」
「1514年が大事なのですか?」
「はい。これはデューラーがメランコリアIを制作した年でもあり、天使の後ろにあるユピテル魔方陣にも「15 14」と書かれているのです」
「ユピテル魔方陣?」
「ここにある4×4の数字が書かれている四角です。これが「天使の背後にある魔方陣」です」
「では「そのΣ」とは?」
「これは単純に、その四角の数字の合計かと。数学Bで習ったと思うけど、Σは総和を表す記号だから」
「えーと、総和は…」
「136です。あなた、その計算力で、一体どうやってこの大学に入ったんですか…」
「あはは…、理数系は苦手で…」
「…とにかく、前半部分はこれで解読終了です。要は「136」という数字が重要なんです」
「では、後半の解説をお願いします!」
「分かりました。その前に、喋りっぱなしなので、水を飲ませてください」
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