招木

鈴木茉由

招木

 俺の家には古い言い伝えがある。


「絶対木の穴を覗くな」


 言い伝えはこうだ。昔、ご先祖様が呪われて帰ってきたらしい。手には木のミニチュアが入った木箱を持ち、四六時中「ここまできておくれ、ここまできておくれ」と叫び続け、しまいには、人を体内に取り入れようとしていたこともあったそうだ。周りの助けもあって無事呪いを解いてもらったご先祖様は皆に「私は木に呼ばれたのだ」と語ったという。そしてゆっくりと事の顛末を説明した。森で遊んでいた時、使っていた竹の棒がどっかに飛んでいってしまい、森の中をあちこち探し回った。そしてやっと見つけた!という時、遠くから「ここまできておくれ」という女性の声が聞こえたという。その声を辿って行くと大きな木があり、その木にあった穴の中から声がしたそうだ。その穴を覗くと瞬く間に穴の中に吸い込まれ、そこからの記憶はないと言い伝えられている。それからは皆がその木を「招木まねき」と呼んで恐れたそうだ。

 ちなみに、ご先祖様が持って帰ってきたという木箱と木のミニチュアも言い伝えとともに代々受け継がれてきた。「捨てて呪われたら大変だから」という理由らしい。そして先日おばあちゃんから「『招木』を見せてやるからここまできておくれ」というメールをもらった。言い伝えを信じていたわけではないのだが、妙に興味が湧き、俺は行くことにした。

 ここに来るのは何年ぶりだろうか。玄関を開けるとすでにおばあちゃんが玄関で待っていた。気色悪い笑みを浮かべて俺に「ここまできておくれ、ここまできておくれ」と叫んだ。言い伝え通りに。そして木箱から「招木」を取り出し俺に向けた。体が吸われて行く感覚が伝わる。俺は全速力で走った。それでも「招木」はみるみる大きくなっていき、俺を捕まえた。そして俺の耳元で「ここまできておくれ」と呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

招木 鈴木茉由 @harye_12222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ