第50話 佐河沙菜は説教される
「恋愛対象として見ている、か……」
真之さんはそう呟いて、遠くを見るような目をしていた。
それから少し間を置いた後、
「……君が正直で誠実な青年ということはよくわかった。話を聞く限り、直接会うまでは沙菜が不登校の女子高生だとは知らなかったようだし、交流を続けていたのも沙菜の意思を尊重してのことだろう。君が無理やり連れ出していたわけではないことはわかる」
意外にも真之さんは、俺に対して一定の理解を示しているようだった。
さっきの俺の発言を聞いても、ここまで冷静でいられるとは。
「だから私は、君を警察に突き出したりするつもりはない」
「……っ!?」
不問にしてくれる、ということなのか……?
もっと感情的になって俺を批難してもおかしくないのに。
真之さんはあまりにも冷静で、理解のある大人すぎた。
「……俺の話を信じてくださり、ありがとうございます」
「感謝は不要だよ。私は警察に突き出さないと言っただけで、君たちが今後もこれまで通り会うのを許したわけじゃない。どうしてかわかるかな、沙菜?」
爆乳さんは俯きながら、これに答える。
「……内緒に、してたから……」
「その通りだ。私は彼よりも、沙菜に対して怒っているんだよ」
真之さんの声のトーンは変わっておらず、表情にも変化はないようだったが、不思議と威圧感が増したような気がした。
「もし出会ったのが悪意ある大人だったら? 沙菜は事件に巻き込まれていたかもしれないんだ。結果的に何も起きなかったからといって、沙菜のしてきたことを簡単に許すわけにはいかない」
「……………………」
「何より沙菜は、彼のこれからの人生について考えたことはあるのか?」
「えっ……?」
思い掛けない問いを受け、爆乳さんは面を上げる。
そんな娘に向けて、真之さんは言葉を続けた。
「親権者である私の許可なしに未成年である沙菜を連れ回す行為は、罪に問われてもおかしくないものだ。たとえ沙菜の同意があったとしてもな」
「……………………」
「沙菜の軽率な行いによって、彼は警察の世話になったかもしれないんだ。そのことを沙菜はちゃんと理解しているのか?」
「それは……」
次から次へと父親に正論をぶつけられ、爆乳さんは何も言えないようだった。
俺は助け舟を出そうとするが、それよりも速く真之さんは言葉を続ける。
「それに彼は、沙菜の頼みを聞いてオフ会に付き合ってくれているが、そうして消費される時間やお金について考えたことはあるか?」
「えっと……」
「……その様子だと考えてもいなかったようだな」
真之さんは呆れたように小さく溜息をつく。
そこで俺は口を挟んで、
「あの、俺は別に構わないです。俺自身が好きでやっていることなので、オフ会に使っている時間やお金についても気にしないでください」
「君がそう言うのはわかっているよ。だからこそ、このままでは沙菜は君に依存し続けてしまう。君の言葉に甘えてしまう。それは互いにとって良くないだろう」
爆乳さんが俺に依存?
……そうか、父親からはそう見えるのか。
「別に私は、ネット上でのやり取りまで禁止するつもりはない。実際に会うのを禁止にするだけだ。私としての最大限の譲歩なんだが、不満かな?」
「……不満です」
「そうか、不満か。それで、どうするのかな?」
「それ、は……」
俺は真之さんに何も言えなかった。
ここで強引に爆乳さんを連れ出しては、俺は本当に罪人になってしまう。
俺自身はそれで良くても、俺の周りはそうじゃない。
特に爆乳さんなんかは、自分のせいで俺が罪人になったと思い、自責の念を抱くかもしれないんだ。
「……さて、話は以上だ。そろそろ――」
「待って、お父さん」
爆乳さんの声。
その声は少し震えていたが、表情はいつになく強気なものだった。
「…………なんだ?」
爆乳さんは父親の目を真っ直ぐに見て言った。
「私、お父さんの言うことに納得できない……!」
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