第49話 下条翔真は偽らない

「どうして沙菜がこんなところにいるんだ?」

「おっ、お父さんこそ、出張じゃなかったの……?」

「客先の都合で予定が変わったんだ。沙菜にはこれから連絡しようと思っていたんだが……」


 爆乳さんのお父さんは俺の方を一瞥した後、爆乳さんに訊いた。


「……そこの彼は?」

「えっと……」


 爆乳さんは助けを求めるように俺へと視線を向ける。 

 

 この状況はとても不味いが、下手に誤魔化そうとするのは逆効果だろう。

 俺は爆乳さんのお父さんに向かって言った。

 

「あの、俺は下条翔真しもじょうしょうまっていいます。沙菜さんとはネットで知り合いました」

「下条翔真くんか。私は沙菜の父親の佐河真之さがわさねゆきだ。君は沙菜の友達ということでいいのかな」

「…………はい」

「そうか、友達か。……ここで立ち話するのも寒いだろう。すぐ近くにあるファミレスにでも行こうじゃないか」



 こうして俺は、佐河親子と共にファミレスへ行くことになった。

 とても食事が喉を通るような気分じゃないが、俺はとりあえずハヤシライスを注文する。

 

 ちなみに爆乳さんは牡蠣かきフライ定食を、真之さんは天ぷら定食を頼んでいた。

 

「さて、下条くん。君がどういう経緯で沙菜と知り合い今に至るのか、簡単に説明してもらってもいいかな」

「はい」


 俺はこれまでのことを正直に話し始めた。

 

 ネトゲ上で、爆乳さんからオフ会の誘いが来たこと。

 社会復帰の練習ということで、度々会うようになったこと。

 河口湖に行ったことや、爆乳さんの家にまで行ったことも。

 

「なるほど、だからあの日は食洗機に2つのティーカップが入っていたんだな」

「お父さん……。どうしてあの時、私に何も訊かなかったの?」

「沙菜が正直に答えてくれるとも思わなかったからな。もう少し様子を見ようと思ったんだ。そしてそれは、結果的に成功だった」


 真之さんは射抜くような鋭い眼光をこちらに向けて、続ける。

 

「沙菜が何を隠していたのか。それをこうやって、本人の口から聞くことが出来たんだからな。……さて、下条くん。君は沙菜が不登校の女子高生であることを知っていたわけだね」

「……はい。実は俺も、沙菜さんと同じように不登校だったんです」

「ほう?」

「それをオンラインゲームの仲間に救われたんです。だから今度は、自分が救う側になりたいと思って……」

「それで、沙菜との交流を続けた、というわけか」

「はい……」


 ここまで話したところで、注文した料理が席に運ばれてくる。

 俺たちは料理を食べながら、話を続ける。

 

「下条くん。君に私と同じように不登校の娘がいたとしよう。その娘が君に内緒で、ネットで知り合った男と度々会って遊んでいる。それを知って、君ならどうする?」

「……問答無用で男を警察に突き出しているかもしれません」


 それくらいのことをされても可笑おかしくない。

 そういうことを、俺は今までしてきたんだ。

 

「そうだ。世の中の娘を持つ多くの親はそうするだろう。娘がたとえ、本当に何も悪いことをされていなかったとしてもだ」

「……………………」

「つまり君は、その危険を承知で沙菜と会っていたんだね」

「…………はい」

「それとも、バレない自信があったということかな?」

「いえ、そういうことは考えていませんでした」

「君と沙菜との関係に、やましいことは何もないと、私の目を見て言うことができるか?」


 この問いにどう答えるべきか。

 これ以上話をややこしくしない為には、何もないと言うのが正解だろう。


「……………………」


 爆乳さんが心配そうに俺のことを見ている。

 

 ……大丈夫だよ爆乳さん。

 俺はもう、自分の気持ちを偽ったりするつもりはない。


 だから、俺は――

 

「……できません」

「何?」

 

 俺の返答が予想外だったのか、真之さんは意外そうな顔を見せる。

 そしてそれは爆乳さんも同じで、目を大きく見開いて驚きを隠せない様子だ。

 

「……それはつまり、君にはやましいことがある、ということかな?」

「はい。俺は沙菜さんのことを、恋愛対象として見ています」

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