第48話 爆乳さんイルミネーションを見る

 駅へと続く大通りの両脇には樹木が並んで立っている。

 そのすべてに青や黄色の電飾が施され、それらがライトアップされることにより、大通りは色鮮やかな光の道と化していた。

 

「なんだか幻想的だね」

「うん……」


 そんな光の道を、俺と爆乳さんは並んで歩く。

 歩幅を合わせ、イルミネーションを眺めながら、ゆっくりと。

 特にこれといった会話もなく、俺たちは少しずつ駅前へと近づいていく。

 

 

 ……果たして、どれくらいの時間を二人で歩いていたのだろうか。

 距離としては短いはずなのに、やけに長かったような気もする。

 

 

 気づけば俺たちは駅前に到着しており、目の前に大きなモミの木があることに気づく。クリスマスツリーということだろう。

 

 木には電飾だけでなく、色とりどりのオーナメントも飾られており、木の頂点にはクリスマスツリーらしく星の飾りもしてあった。


「立派なクリスマスツリーだね」

「こんな大きなクリスマスツリー、初めて見たかも」


 大きなクリスマスツリーを前にして、俺たちは自然と立ち止まっていた。

 クリスマスツリーを眺めながら俺は爆乳さんに訊いた。

 

「ここにクリスマスツリーがあることは最初から知っていたの?」

「知ってたよ。前から行きたいと思ってたの」

「そうなんだ。じゃあ今日は、いい下調べになったかな」

「……下調べ?」

「今日がデートの練習ってことは、いつか本番があるわけだよね? そのための下調べかと思ってたけど、違うのかな」

「………………」


 返答に困ったのか、爆乳さんは口を閉ざし俯いてしまう。

 俺はクリスマスツリーに視線を向けたまま言った。

 

「俺は練習だと思ってないよ」

「えっ……?」


 爆乳さんが声を上げる。

 俺が振り向くと、目が合う。

 けれどすぐ、爆乳さんは俺から目を逸らしてしまう。

 寒さからなのか、また別の理由からなのか、その頬は赤く染まっていた。

 

「爆乳さんはどうなのかな」

「………………」

「まだこれが練習だと思っているのかな」

「…………思って、ないよ」


 爆乳さんは振り絞るように、白い息を吐きながら言葉を続けた。

 

「私も、練習じゃ、嫌……。本当は、最初から本番のつもりだったんだよ……?」

「……うん。そんな気はしてた」

「私ね、本当は今日、漆黒さんに伝えたいことがあって……」

「待って。それは俺から言わせて欲しい」


 再び目が合う。今度は爆乳さんも目を逸らさなかった。

 爆乳さんは潤んだ瞳で、俺の目を真っ直ぐに見ていた。

 

「爆乳さん」

「……うん」

「俺は、爆乳さんのことが――」


 その時だった。俺の言葉を遮るように、


沙菜さな……?」


 と、男の低い声がした。

 俺は驚いて、声の主である男の方を見る。

 

「……っ!」

 

 その男には見覚えがあった。

 

 ……眼鏡を掛けたスーツ姿の男性。

 この前、爆乳さんの家から帰る時にすれ違った男だ。

 男は爆乳さんのことを「沙菜さな」と呼んだ。

 

 つまり、この男は――

 

「お父、さん……?」


 ――爆乳さんのお父さん。

 出張で今日帰ってこないはずの父親に、俺たちは会ってしまったのだ。

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