第47話 爆乳さんショッピングモールへ行く

 カフェでのランチを終えた後、俺たちは近くの大型ショッピングモールへ行った。

 

 特に何か買いたいものがあるわけじゃない。

 ただ二人で、色んな店を見て回る。

 ウィンドウショッピングってやつをしに来たわけだ。


「この施設、靴の専門店だけでも3つあるんだね」

「服屋はもっとあるみたい」

「爆乳さんはそれぞれの店がどう違うのかわかる?」

「きっと、商品が違うんだと思う」

「……それくらいは俺もわかる」


 俺も爆乳さんも、アパレル業界には詳しくなかった。



 それから俺たちは、雑貨店、キャンプ用品売場、家電量販店、書店、駄菓子屋なんかも見て回った。

 

 飲食店が集まるフロアにも足を運んだが、店に入ることはしなかった。

 けれどその代わり、どんな店があってどんなメニューが用意されているのかを見て回った。



 そして気づけば、時刻は17時を過ぎており。

 外はすっかり暗くなり、陽の光で温まっていた空気も身震いするような冷たさを取り戻していた。


「爆乳さん。もう17時だし、そろそろ解散する?」


 ショッピングモールを出て少し歩いたところで、俺は爆乳さんに訊いた。

 しかし爆乳さんは解散する気がないようで、

 

「……もう少し遊ぼう? もしかして、漆黒さんは早く帰らないと不味いの?」

「そんなことはないよ。でもこれ以上遊んでると、爆乳さんの帰りが遅くなっちゃうだろうし……」

「それなら心配いらないよ。お父さんは出張で今日帰ってこないから」


 ……なるほど。だから今日は夜に解散という予定だったのか。


「それなら尚更、早く帰った方がいいよ」

「……? どうして?」


 爆乳さんは不思議そうに首を傾げる。

 それから続けて、

 

「帰りが遅くてもお父さんにバレないから、何も問題ないよ?」

「お父さんにはバレないかもしれないけど、心配させるようなことはやっぱりやめた方がいいと思う。何より爆乳さんは未成年だし……」

「………………」


 爆乳さんは不服そう顔を見せるが、年齢のことを持ち出されて何も言えないようだった。ただ黙ったまま、俯いている。

 

 そして数秒の沈黙の後、爆乳さんは観念したように面を上げて、


「……わかった。18時前には帰りの電車に乗るね」

「それがいいと思うよ。それなら20時前に家に着くだろうし」

「でも、その前に……」

「うん?」

「……すぐ近くにあるイルミネーションを見に行こう?」


 イルミネーションって、あのピカピカ光るやつか?

 そういえば、駅前と大通りに飾ってあったような……。

 日が沈んで暗くなった今の時間帯なら、もうライトアップされてることだろう。


「駅へ向かうついでに見れるから、そんなに時間も取らないと思う……」

「そうだね。じゃあ見に行こうか」


 もしかすると、イルミネーションを見に行くのも最初から予定に入っていたのかもしれない。

 

 イルミネーションを見に行くだなんて、いかにもこの時期のデートらしいし。

 デートの練習の〆にはちょうどいいだろう。

 

 ……練習。練習、か……。


「………………」

「……漆黒さん? どうかしたの?」

「ああ、ごめん。何でもないよ。楽しみだね、イルミネーション」


 俺は気を取り直して、大通りへと歩を進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る