第45話 爆乳さん映画館へ行く

 爆乳さんとの約束の日、当日。

 

 空は晴れているが、空気はすっかり冬らしい冷たさになっていた。

 呼吸をする度に、鼻の奥まで冷えるのを感じる。

 

 今日の待ち合わせ場所は映画館の最寄り駅だ。

 俺はたった今到着し、時刻が待ち合わせ時間の5分前であることを確認したところで、

 

「おまたせ、漆黒さん」


 爆乳さんが俺に向かって、後ろから声をかける。

 振り向いてその姿を見てみると、爆乳さんは茶色いコートに赤いマフラーを巻いており、寒さ対策は完璧だという格好だった。


「俺も今来たところだよ。じゃあ、行こっか」

「うん……」 

 

 俺たちは横並びになり、映画館へと向かうことにした。

 


 




「うお……。たくさん人がいるね」

「さすが土曜日」

 

 休日だけあって、映画館内はたくさんの人で混み合っていた。

 俺たちは人混みを避けながら券売機へと進み、購入番号を入力してチケットを発券する。

 

「はい、爆乳さんのチケットだよ」

「ありがとう。後でお金払うね」

「ならランチの時に払ってもらおうかな。飲み物とかポップコーンは買う?」

「私は買わないよ。漆黒さんは?」

「俺もいいかな。もう入れるみたいだし、中へ行こうか」



 シアター入口へと向かい、係員にチケットを見せる。

 係員に「6番シアターになります」と言われたので、俺たちは6番シアターへと進んだ。


 まだ上映開始前だというのに、6番シアター内の座席はほとんど埋まっていた。

 チケットに書かれた座席番号を探し当て、俺と爆乳さんはゆっくりと席に座る。


「楽しみだね。今回観る作品は爆乳さんが好きな作品の続編なんだっけ?」

「うん、そうだよ。漆黒さんは前作観てくれた?」

「もちろん観たよ。老婆が縦横無尽に駆け回って敵を倒していくシーンは圧巻だったね」


 今日観る作品は『老婆の休日2』というタイトルのアクション映画だ。

 タイトルに2が付いている通り、続編である。


 主人公の老婆が実は伝説の殺し屋で、ひょんなことから大事件に巻き込まれてしまうが、その戦闘能力を思う存分に発揮し、大事件を解決するというのが前作のあらすじだ。

 

 続編である今作もだいたい同じ内容らしいが、元同僚の老爺が敵として老婆の前に立ちはだかるので、前作よりもハードな戦いになることが予想される。


「ちゃんと観てくれて嬉しい……。今作も凄く面白いって評判だから、前から気になってたの」

「前作以上に評判が良いらしいよね。そういえばこの前調べて知ったけど、『老婆の休日』のゲームもあるみたいだね」

「……それは、その……」

「……?」

「悪い意味で有名になってるから、あまりオススメはできないかも……」

「そ、そうなんだ……」


 要はクソゲーということか。

 映画作品のゲーム化は、だいたいそうなるものである。



 だいたい、シアターに入ってから10分が経過した頃だろうか。

 コマーシャルが終わり、上映前のマナー確認の映像が流れた後、ようやく本編が始まった。


 予想していた通り、今作は前作以上に激しい戦闘シーンが多かった。

 前作であれだけ無双していた老婆が窮地に陥る場面もたくさんあり、特に物語終盤の老婆と老爺の一騎討ちは、瞬きすら忘れて見入ってしまうほど緊張感があった。

 

 そして約2時間の上映が終了し、

 

「いやー、凄かった! まさか、老婆の入れ歯が伏線になっていたなんてね!」

「うん……! 私もあれは予想できなかった」


 俺たちは映画館を後にし、すぐ近くにあるカフェへと向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る