第42話 漆黒チョコ棒は考え事をする
爆乳さんの両親についての話が終わった後も、俺たちは色んな話をした。
小学生の頃に流行っていたゲームの話。
最近読んで面白かった漫画の話。
メテストの新情報についての話。
まだまだ話題は尽きなかったけど、気づけば外はすっかり薄暗くなり始めていた。
「これ以上長居するのは危険だね。もう帰ることにするよ」
「うん。その方がいいと思う」
ティーカップなどの後片付けをした後、俺たちは玄関へと向かう。
玄関のドアを開けると、外の冷たい空気が家の中まで入り込んできた。
「じゃあね、爆乳さん。今日は楽しかったよ」
「……私も楽しかった。来てくれてありがとう」
別れの挨拶を交わし、俺は爆乳さんの家を後にする。
帰り道、俺は歩きながら考え事をしていた。
「俺は一体、どうしたいんだろうな……」
爆乳さんの助けになりたい。
それは間違いなく、俺の本心からの想いだ。
そしてその想いの通り、俺は爆乳さんの社会復帰に協力している。
もし俺の協力により、爆乳さんがまた学校に行けるようになったら。
俺は当然、そのことを喜ぶだろう。
それが目的で始まったのが、今の爆乳さんとの関係なのだから。
爆乳さんが社会復帰――つまりは学校へ行けるようになれば、俺は自分の役目を果たしたことになる。
……ここでひとつ、ある疑問が思い浮かぶ。
役目を果たした後、俺と爆乳さんは一体どういう関係になるのだろうか?
社会復帰の練習をする必要はなくなり、今までのように二人でオフ会をすることはなくなるだろう。
もしオフ会することがあるとすれば、それは腹毛さんたちも含めたものになるだろう。爆乳さんと俺の二人だけで集まる理由なんてないからだ。
つまり俺と爆乳さんとの関係は、社会復帰を手伝う以前の関係に戻ることになる。
「それでいいはずなんだけどな……」
でも俺は、最近思い始めていた。
俺は本当に、それでいいと思っているのか。
心の何処かで、俺は今のような爆乳さんとの関係を続けたいと思っているんじゃないだろうか。
それとももっと、深い関係に――。
「………………」
……いや、やめよう。
俺はあくまで、爆乳さんのネトゲ仲間であり、社会復帰を手伝う協力者でしかない。
以前に詩織が言っていた通り、変な勘違いをしてはならない。
二人で色んなところへ遊びに行っているからといって、爆乳さんが俺に気があるとか、そういうことではないんだ。
女子は気がある男子には、ちゃんとそのことをアピールするもの。俺はそんな情報をいつだか見聞きしたはずじゃないか。
アピールがないのに気があると勘違いするのは――
「…………あれ?」
アピール?
もしかしてあれは、アピールだったのか?
今日家に俺を呼んだのは、そういうことなのか?
わざわざ隣に座ってきたのは、気があるというアピールなのか?
そもそもだ。爆乳さんが少し変わった子とはいえ、ただの男友達にキスしたことあるかなんて聞くのか?
「そういうこと、なのか……?」
もしそうだったとして。
どうやってそれを確かめればいいのか、恋愛経験ゼロに等しい俺にはわからなかった。
「…………?」
もう少しで住宅街を抜けるという時だった。
俺は眼鏡を掛けたスーツ姿の男性とすれ違う。
男性は買い物を終えた後なのか、レジ袋を持っていた。おそらく、ここらへんに住んでいるのだろう。
男性の年齢は、俺の父さんより少し若いくらいに見える。
まだ17時前なので、定時上がりとも思えない。早退でもしたのだろうか。
(まさか、爆乳さんのお父さんってわけはないよな……)
仮にこの男性が爆乳さんのお父さんだったら。
娘の体調を心配し、会社を早退したのだと考えられる。
俺がもう少し帰るのが遅かったら、大変なことになっていただろう。そう考えると、早めに帰って良かったなと思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます