第39話 爆乳さんの家へ行く

「……駄目というか、何というか……」


 俺が爆乳さんの看病を?

 爆乳さん以外誰もいない家へ行って?

 

「……それは色んな意味で不味いんじゃないかな?」

『色んな意味で?』

「ほら、爆乳さんのお父さんに許可を貰ってないし……」

『夜まで帰ってこないから大丈夫だよ』


 許可貰う気は無いんかい。


「爆乳さんが心配で、早くに帰ってくるかもしれないよ?」

『ドアのチェーンを掛けておけば大丈夫だよ』

「それは大丈夫なのか?」


 爆乳さんの頭が少し心配になった。


「俺の妹が行くならともかく、男の俺が一人で行くのは――」

『漆黒さん、さっき私の看病をする必要がないって言ってた』

「う……」

『必要があるなら、してくれるってことじゃないの?』


 失言だった。

 たしかに俺は、そんな発言をしてしまっていた。


「あれは軽い冗談のつもりだったというか……」

『……もしかして明日は、何か用事がある?』

「用事? ……まあ、大学はあるけど……」

『……そっか。ごめんね、無理を言って』

「え?」

『漆黒さんの都合を考えてなかったから。看病のことは忘れてね』

「………………」


 平穏な日常を過ごしたいのなら、爆乳さんの看病をする件は拒否した方がいいに決まっている。

 

 でも、俺は――。

 

「……午後2時からなら行けると思うよ」

『えっ?』

「明日の午後の講義は、サボっても大丈夫なやつだから」

『来て、くれるの……?』

「住所さえ教えてくれればね」

『……っ! 教えるから、来てほしい』

 

 そして俺は、爆乳さんに家の住所を教えてもらった。

 

 本当にこれで良かったのか。

 踏み越えてはいけない一線を、越えてしまったんじゃないか。

 

 様々な不安や葛藤を抱きながらも、それ以上に爆乳さんの望みを叶えたいという気持ちが、俺の中で強くなっていた。


『……あっ、お父さんが部屋に来そうだから、もう切るね』

「ああ」

『おやすみなさい、漆黒さん』

「うん、おやすみ」


 通話を終了した後、俺は小さくため息をつく。

 さて、明日はどうなるやらだ。





 翌日の午後2時ちょうど。

 約束通り、俺は爆乳さんの家の前まで来ていた。

 

 爆乳さんの家は閑静な住宅街にあり、外壁が白いこともあって、どこか爽やかで清潔感のある印象を抱かせるものだった。

 

 もちろん家の表札には、爆乳☆爆尻だなんて書かれてはいない。

 佐河という漢字二文字だけが、そこには書かれていた。

 

「病人に出迎えさせるのは悪いけど……」


 かといって、勝手に家へ入るわけにもいかない。 

 門扉に備え付けられたインターホンを、俺は鳴らす。

 

「あの、下条と申しますが……」

『……漆黒さん? 今行くから、玄関の前まで来ていいよ』


 爆乳さんの言葉に従い、俺は門扉を開けて玄関の前まで進む。

 門扉は片開きのタイプで、鍵は備え付けられていないようだ。

 

 

 そして、玄関の前で待つこと約3分。

 

「……お待たせ。来てくれて、ありがとう……」


 爆乳さんが玄関のドアを開け、俺の目の前にその姿を現す。

 

 俺はてっきり、爆乳さんは寝巻き姿か部屋着姿で出てくるものだと思っていたが。

 

 爆乳さんは上は白のセーター、下はショートパンツと黒タイツといった組み合わせの服装で、このまま外へ出掛けられるような格好をしていた。

 

「昨日約束したからね。体調の方は……」

「少しだけ体の怠さが残ってるくらいだよ。さあ、入って」

「では、お邪魔します……」


 こうして俺は、爆乳さんの家の中へと入った。

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