第37話 漆黒チョコ棒は大学に通う

 11月に突入し、すっかり肌寒くなってきた今日このごろ。

 俺はサボることなく、真面目に大学に通い続けていた。

 

「やっと昼休みか。昼休み明けの授業も下条と同じだったよな?」


 と俺に訊くのは、友人の岩井いわいだ。

 俺は答えて、

 

「ああ、そうだよ。場所は講義棟の第1教室だったかな」

「だったらそこで昼飯食おうぜ? 席取りも兼ねてさ」

「いいね。売店で何か買って食べるか」

 

 そんなわけで、俺たちはキャンパス内の売店へと向かった。

 売店は結構混み合っていたが、俺は食べたいと思っていた唐揚げ弁当の入手に無事成功する。

 

 ちなみに岩井はカツサンドを購入していた。

 本当はツナサンドが食べたかったらしいが、もう既に売り切れだったようだ。


 売店を後にし、俺たちは第1教室へと向かう。


「この席でいいか」


 そう言って岩井は、第1教室の一番後ろの席に座った。

 俺はその隣に座り、さっそく唐揚げ弁当を目の前に出す。

 

「さて、いただきますか」


 俺たちは昼ごはんを食べ始める。

 昼ごはんを食べている最中、岩井は俺に色々と話しかけてくれたが、いまいち頭に入ってこなかった。

 

 岩井に悪いなと思いながらも、俺はつい爆乳さんのことを考えてしまっていたのだ。


 爆乳さん……。

 学校へ行っていない爆乳さんは、今日の午前中は何をして過ごしていたのだろう。

 

 メテオストーリーにログインして遊んでいたのだろうか。

 それとも、漫画を読んだりテレビを観て過ごしていたのだろうか。

 

 ひとつ考えると、連鎖的に他のことも考えてしまう。

 

「それで俺は言ってやったわけよ。その枝豆は腐ってるってね」

「………………」

「……下条? 今の聞いてたか?」

「あっ……」


 顔を上げると、岩井が心配そうな顔をしてこちらを見ていた。

 

 ……怒ってもいいくらいなのに、心配してくれるだなんて。

 こんな優しい友人に、無用な心配をかけるわけにもいかない。

 

 俺はすぐに岩井の方へと向き直り、


「ごめん。爆乳さんのこと考えてた」

「………………え?」


 岩井は口をぽかんと開けたまま、石化したかのように動きを止める。

 数秒後、ようやく岩井は口を動かし、

 

「……悪い。今、なんて言った?」

「爆乳さんのことを――」

「うん、聞き間違いじゃないみたいだな」


 岩井は右手で頭を押さえながら、言葉を続ける。


「下条。お前が午前中からずっと上の空だったのは、爆乳のことを考えていたからなのか?」

「まあ、そうなるかな……」

「爆乳のこと考えすぎだろ」


 岩井の言う通りだ。返す言葉もない。

 我ながら、爆乳さんのことを考えすぎだと思う。


「だいだい、どうして爆乳に“さん”を付けてるんだよ……」

「さんを付けないと流石に恥ずかしくないか?」

「どっちも恥ずかしいわ!」

「…………?」

「意味がわからないと言いたげな表情やめろ」


 呆れた顔をしながら、岩井は続ける。


「しかし驚いたな。下条がそんなに爆乳好きだったなんて」

「俺は爆乳好きだったのか……?」

「違うのかよ!?」


 どうなんだろう。

 好きか嫌いかで言えば、当然好きな方だ。

 でもその好きは、腹毛はらげさんやぴらふさんに対する好きと同じ好きだと思う。


「……いや、たぶん好きではあるんだと思う」

「だろ?」

「でもそれは、恋愛感情とは違うような……」

「まあ、違うだろうな」

「腹毛さんたちに対する好きと同じような……」

「ん……?」 

「共通点を持った仲間としての好きだと思うんだよな」

「……爆乳と腹毛に仲間意識感じてるお前って何なの?」

 

 どういうわけか、岩井は俺の発言に冷たい反応を示していた。

 何か気に障るようなことでも言ったかな……?

 

 ……ああ、そうか。そういうことか!

 

「もちろん岩井にも、仲間意識は感じてるよ」

「……俺って爆乳や腹毛と同列なの?」

 

 そんなこんなで、楽しい昼休みの時間は終わり。 

 俺は眠気と戦いながら、午後の授業もこなしていった。

 


 ◆

 


 そして今日の授業がすべて終わり、俺は寄り道もせず帰宅する。

 

 とにかく早く、メテオストーリーにログインしたい。

 ログインして、爆乳さんがいるかどうかを確認したい。

 

 俺は落ち着かない気持ちのまま夕飯を済ませ、自分の部屋へ行き、すぐにパソコンの電源を入れる。

 

「爆乳さんは……」


 俺がログインしてすぐに、先にログインしていた腹毛さんたちが挨拶をしてくれる。

 

 そしてその中には、ちゃんと爆乳さんも含まれていた。


「……良かった。ちゃんとログインしてる」


 俺は安堵した。

 爆乳さんはちゃんとログインしている。

 俺たちと一緒にゲーム内で遊んでいる。

 

 俺は以前と同じ日常を取り戻したんだ。

 

 

 ……そんな風に思っていたのがフラグとなったのか。

 

「あれ……?」


 翌日、爆乳さんはメテオストーリーにログインしなかった。

 スマホにも特に連絡はなく、俺は心配になって電話でもかけようかと思ったが、流石にそれは自重した。

 

 ……たった1日くらい、ログインしなくても普通じゃないか。

 

 俺だって、毎日必ずログインしているわけじゃない。

 他にやることが色々あったら、ゲームにはログインしないこともある。

 

 だから爆乳さんがログインしない日があっても、そんなに気にするようなものじゃない。

 

 そう自分に言い聞かせるが、この前のこともあって、俺はどうしても不安な気持ちに襲われた。

 

「再放送にならなきゃいいけどな……」


 もっとも今回は、ログインしなくなるような理由が思い当たらないわけだが。



 しかし、俺の悪い予想は見事に的中し。

 爆乳さんは次の日も、その次の日もログインしてこなかった。

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