第34話 爆乳さんは◯◯と遭遇する

 まさか、こんなところで妹と遭遇するとは。

 叫びたくなるくらい驚いたが、俺は何とか平静を装い詩織しおりに訊ねる。


「……どうして詩織がここにいるんだ?」

「それはこっちのセリフだって! それより、佐河さがわさんとお兄ちゃんが一緒にいるってことは……」

「……っ!」

「まさか彼女だってことは、まずありえないだろうし……」

「おい」


 少しくらいは可能性を感じてほしかった。

 

「……もしかしてだけど、佐河さんが爆乳さん?」

「爆乳さん? 公共の場でいきなり何を言い出すんだ」

「だってさっき、お兄ちゃん自身がそう呼んでなかったっけ」

「……………………」


 聞こえてたのかよ!

 爆乳さんには悪いが、これは本当のことを言わなければ。

 

 だが、それよりも――。

 

「まあ、たしかに呼んでいたけど、その前にちょっといいか?」

「何?」

「詩織。お前は爆乳さんと、どういう関係なんだ?」

「どういう関係って……」


 詩織は爆乳さんを一瞥した後、こう続けた。

 

「佐河さんは私と同じ高校に通う、同学年で同じクラスの子だよ」

「詩織と同じ高校だと……!?」


 しかも同学年で同じクラスなら、爆乳さんも妹のことを知っているということだ。

 

「――――っ!」


 俺は様子が気になって、爆乳さんの方へと視線を移動させる。

 

「……………………」


 突然のクラスメイトとの遭遇に緊張して縮こまっているものの、この前のように顔色が悪くなったりはしていなさそうだった。


「……詩織。お前、爆乳さんのことイジメたりしてないよな?」

「そんなことしないって! だいたいその呼び方のほうが、よっぽどイジメてるみたいなんですけど!?」

「これは爆乳さん公認の呼び方だ」

「そうなの、佐河さん?」

「…………う、うん」


 爆乳さんは蚊の鳴くような小さな声で返事をする。

 目こそ合わせていなかったが、俺の妹と話すのは大丈夫そうだ。


「でも、いくら本人が認めているからって、女の子を爆乳呼ばわりするのはどうかと思う」

「俺だってそれくらいわかってるけど、もう慣れちゃったしな」

「慣れるな!」


 クラスメイトの前でも詩織のツッコミは相変わらず鋭かった。

 詩織は爆乳さんへと視線を戻し、


「でも、驚いたなぁ。佐河さん、うちのお兄ちゃんと一緒にネトゲやってたんだね」

「うん……」

「しかもオフ会までしてたなんて。……変なことされてない?」

「さっ、されてないよ!」


 爆乳さんは顔を赤らめ、慌てた素振りで否定する。

 詩織は流し目で俺の方を見た後、こう言った。

 

「もしお兄ちゃんに何か嫌なことされたら、すぐ私に教えてくれていいからね。私が責任を持って制裁しておくから」

「せ、制裁……?」

「はい、スマホ出して。連絡先教えておくから」


 詩織はスマホを取り出し、爆乳さんと連絡先の交換をし始める。

 俺はそんな二人の様子を、何もせずボーッと見ていた。

 

「じゃあ私、友達を待たせてるからもう行くね」

「友達? 一人で来てたわけじゃないのか」

「お兄ちゃんじゃあるまいし、一人で水族館に行くわけないじゃん」

「……………………」


 俺はとっても傷ついた。

 俺の妹は兄に対し、手加減というものを知らないらしい。


「佐河さんも、またね。いつでも気軽に連絡してくれていいから」

「うん……」


 こうして詩織はレストランの方へと去っていった。

 詩織の友達というのは、レストランで待っているのだろう。

 

 それにしても、まさか爆乳さんが詩織と同じ高校の生徒だったとは。

 これは家に帰った後、詩織から詳しく話を聞く必要がありそうだ。

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