第29話 爆乳さんをオフ会に誘う

 腹毛さんたちとのオフ会を終え、家に帰ってきた後。

 俺はすぐに自分の部屋へと移動をし、爆乳さんに電話をかけることにした。

 

 時刻はちょうど22時を過ぎた頃で、こんな時間に電話をするのは迷惑だったかもしれない。

 

 けれどこういうのは勢いが大事だ。

 やる気に満ちたこの状態が、いつまでも保てるとは限らない。

 

「…………よし!」


 勇気を出して、俺は発信ボタンをタップする。

 

 ……呼出音が鳴る。

 

 スマホを持つ手が震えそうになる。

 息が止まりそうなほどに、俺の心臓は早鐘を打っていた。

  

 爆乳さんは、ちゃんと電話に出てくれるだろうか。

 電話に出てくれたとして、俺の話を聞いてくれるだろうか。

 

 様々な不安が脳裏に浮かび上がる中、

 

『……もしもし』

「……っ!」

『漆黒さん、なの……?』


 爆乳さんが電話に出た。

 久しぶりに聞く爆乳さんの声。

 若干震えていて、聞き取りにくい小さな声だ。

 

 でも俺は、そんな彼女の声をまた聞くことができて、心の底から嬉しいと思った。

 

「うん、そうだよ。久しぶりだね、爆乳さん」

『うん……』

「…………」


 電話越しでも何となくわかる。

 

 爆乳さんは最近ゲームにログインしていなかったことに対し、後ろめたさを感じているのだろう。


 だから俺は、その理由を問いただしたりはしない。

 他に話すべきことは、もう決まっている。

 

「爆乳さん。最初に俺とオフ会した時のことは覚えてる?」

『喫茶店に行った時のこと? ……もちろん、覚えてるよ』


 聞いておきながら、覚えているのも当然かと思う。

 まるでそんな気がしないけど、あの喫茶店へ行ってからまだ2ヶ月も経っていないんだ。


 この約1ヶ月半、本当に色々なことがあったなと思う。


「あの時俺は、見返りなんていらないって言ったよね」

『……うん。でも私は、タダで手伝ってもらうのは悪いと思って、何かお返しするって言った』


 そうだ。爆乳さんは言っていた。

 お返しは後日改めてしますと。

 

「そのお返しの内容、俺が決めてもいいかな?」

『えっ……?』

「それとも爆乳さんは、もう何をするか決めていたのかな」


 爆乳さんはこれに答えて、


『決めて、ないけど……』

「だったら、俺が決めても問題ないよね?」

『……ちょっ、ちょっと待って……!』


 俺はちょっと待つことにした。

 先を急いであんまり強引になるのは良くない。

 

 しばらくして、爆乳さんは言った。

 

『……決めてもいいよ』

「本当にいいの?」

『うん。変なことじゃ、なければだけど……』

「それなら大丈夫かな。これまでもやっていたことだし」

『……これまでもやっていたこと?』


 俺は呼吸を整えた後、いつもより真剣な声色でこう言った。


「爆乳さん。来週の日曜に、また一緒にオフ会をしませんか」

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