第27話 ネトゲ仲間と昔話をする
「救っただなんて、大げさだなぁ……」
俺の発言を受け、腹毛さんは照れ臭そうにする。
でも俺は、本心から二人を恩人だと思っていた。
「大げさなんかじゃありませんよ。俺が不登校から脱することができたのは、腹毛さんとぴらふさんのおかげです」
「本当にそうだったとして、俺たちの方こそお前には恩があるんだ。なあ、ぴらふ?」
ぴらふさんはうんうんと頷いて、
「そうだね。僕もチョコに出会わなかったら、途中で大学を辞めていたかもしれないよ」
「そして俺は、まだニートのままだったかもな」
腹毛さんは続けて言った。
「しかし、懐かしいなぁ。チョコ坊がギルドに入ってきたのは4年前だったか? あの頃のメテオストーリーが一番楽しかったな」
「リアルの状況は三人共最悪だったけどね」
そう言って自虐的な笑みを浮かべるぴらふさんだったが、その声色は落ち着いていて優しいものだった。
「いつも俺たち深夜組が、深夜2時過ぎまで一緒に狩りをしてたんだよな。ぴらふなんかは翌日が大変だっただろ?」
「まあね。次の日の午前中の講義は遅刻ばっかりしていたよ」
当時、俺と腹毛さんは昼夜逆転生活をしていたが、ぴらふさんはそうではなかった。ちゃんと昼間は大学に通っていたのだ。
それでよく、深夜までネトゲをしてくれたものだと思う。
「俺と腹毛さんの二人だけでしたが、早朝まで狩りをしてたこともありましたよね」
「ああ、あったあった! 金曜や土日だけならともかく、それ以外の平日でもやっていたよな」
昼夜逆転生活をしていたからこそ可能なことだった。
今じゃとても出来そうにない。
「俺はてっきり、チョコ坊も俺と同じニートなのかと思っていたんだぜ?」
「まあ、そう思いますよね……」
当時の俺と腹毛さんは、単に昼夜逆転生活をしていただけでなく、睡眠時間を除いたほとんどの時間をゲームに費やしていた。
腹毛さんが俺のことをニートだと思っていたのも無理はない。
「でもそれは違っていた。チョコ坊は不登校の高校生だった」
「………………」
「チョコ坊が高校生だと知ったのは、俺の自分語りがきっかけだったよな。俺たち三人で一緒に雑談をしていた時のことだ」
今でもあの時のことは、昨日のことのように思い出せる。
深夜にゲーム内で雑談中、腹毛さんは自分語りを始めたのだ。
「どうしてそんな気持ちになったのかは覚えてないが、自分がニートになった経緯を、俺はお前たちに語り始めた」
学生時代、学級委員長をやっていたこと。
同じ部活動の女子と付き合っていたこと。
それなりに良い大学に入り、就活もうまくいったこと。
派手ではないが、特に大きな挫折もなく、順風満帆な人生を送っていた腹毛さん。
けど会社に入ってから、腹毛さんの人生は少しずつ狂い始めた。
持ち前の正義感の強さや真面目さで、腹毛さんは上司や先輩の理不尽さにも自分に非があると思い込んだのだ。
きっと俺がもっと頑張れば、態度を変えてくれるはずだ。
俺の努力が足りないから、こうやって怒られるんだ。
そうして頑張りすぎた末に、腹毛さんはうつ病を患った。
休職するが職場に復帰できる状態にはならず、そのまま退職。
これまでの貯金を切り崩しながら、腹毛さんはニート生活を送るようになった。
「その話に触発されて、僕たちも自分語りを始めたんだよね」
「……そうでしたね。もし腹毛さんたちが自分語りをしていなかったら、俺は不登校であることを話せていなかったと思います」
ここまで話したところで、注文した品が店員によって運ばれてくる。
ドリンク類やサラダ類、ネギタン塩だけではない。
ハラミやカルビなんかも先に頼んでいたようで、席の上は注文した品でいっぱいになる。
「……さて、話の続きは食べながらでもするとしようか」
腹毛さんの一言で、俺たちは食事を始めることにした。
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