第26話 ネトゲ仲間と焼肉屋へ行く

「おう、来たかチョコ坊」

「いやぁ久しぶりだね。リアルで会うのは4年ぶりかな?」

「そうなりますね。腹毛さんにぴらふさん、お久しぶりです」


 俺は腹毛さんとぴらふさんに挨拶をする。

 

 俺たちは今、都内某所の焼肉チェーン店にいた。

 日曜の夜6時で店内は混んでいたが、あらかじめ腹毛さんが予約していたので、俺たちは待つことなく席に座ることができた。

 

 食べ放題90分コースということで、俺たちはさっそくスマホで注文を開始する。


「前来た時は店のタブレットで注文してたのに、今は自分たちのスマホで注文するんだなぁ」


 スマホを操作しながら腹毛さんが言った。


 腹毛専門店はらげせんもんてん。本名、田中隆之たなかたかゆき

 短髪頭に厳つい顔つき。がっちりとした体格の32歳男性だ。

 

 あまりネトゲとは縁の無さそうな見た目だが、彼こそが俺たちの所属するギルドのギルドマスターだったりする。

 

 ちなみに腹毛専門店という名前だが、腹毛がもじゃもじゃと生えているわけではないらしい。どうしてそんな名前にした。


「やっぱ最初はタン塩だね。焼肉とはタン塩から始まってホルモンに終わる。昔からそうと決まっているんだ」


 面倒くさそうなことを言ってるこの眼鏡の男性は、ぴらふさんだ。

 

 ぴらふたん。本名、湯川佑樹ゆかわゆうき

 社会人2年目で、今年で24歳になるらしい。

 

 そんな彼は副ギルドマスターで、深夜アニメをよく観ている。

 名前も『天王寺てんのうじぴらふ』というアニメキャラが由来だそうだ。

 

 ゲーム内のキャラ性別は女で、キャラメイクもそのアニメキャラに寄せている徹底っぷり。

 

 こういうゲームの楽しみ方もあるんだなと、俺は素直に感心したものだ。

 

「おいおい、まずは野菜だろ?」

「僕は焼肉を食べに来たんだ。野菜なんていらないね!」

「まあ、別にいいけどよ。ぴらふもチョコ坊も、今のうちから食生活には気をつけておいた方がいいぜ?」


 俺は気になって腹毛さんに訊いた。

 

「何か健康診断で引っ掛かったんですか?」

「特に悪い病気が見つかったわけじゃねえが、ちょいと高血圧だったみたいでな。その原因が食生活だったんだよ」

「食生活、ですか」


 腹毛さんは頷いて、

 

「ああ。俺の食事には野菜が不足していたんだとよ。その野菜不足の食生活が、30代になって響いてきたわけだ」

「それで野菜を積極的に食べるようになったんですね」

「そういうこった。おかげで最近は調子がいいぜ」


 一通り注文が終わったのか、腹毛さんはスマホをしまう。

 スマホをしまった後、腹毛さんは俺に訊いた。


「で、チョコ坊は最近どうなんだ?」

「え? 健康面の話ですか?」

「いや、大学とかの話だよ」

「大学なら、そろそろ後期が始まりますけど……」


 そこまで言って、俺はようやく質問の意図に気づく。

 俺が昔のようになっていないか。腹毛さんはそれを心配してくれているんだ。

 

「……俺はもう大丈夫ですよ。大学は高校よりも気楽ですし」

「そうか。なら良かったよ」


 腹毛さんは安堵し、口元に笑みを浮かべて見せる。


「しかし、とんでもない偶然もあったものだよねぇ」


 ぴらふさんが言った。

 ぴらふさんはそのまま続けて、

 

「爆乳☆爆尻が実は未成年で、現役の高校生だったなんて。それであのログイン率。かつてのチョコと同じってことじゃないか」

「……………………」


 ぴらふさんの言う通りだと思った。

 

 かつて不登校だった俺が、同じく不登校の爆乳さんと出会う。

 同じゲームの、同じギルド内で。

 

 これは本当に、とんでもない偶然だ。

 

「俺も正直、この偶然には驚かされました。けど同時に、嬉しいとも思ったんです」

「嬉しい? そりゃまた、どうしてだ?」


 腹毛さんの問いに、俺は即答する。

 

「かつて二人が俺を救ってくれたように、俺も爆乳さんを救うことができるかもしれない。そう思ったからです」

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