第23話 爆乳さんファミレスへ行く

「ごめん爆乳さん。少し待たせちゃったね」

「ううん。私も今来たところだよ」


 9月中旬。平日の昼下がり。

 俺たちは町内のとあるファミレスに来ていた。


「さあ、中へ入ろうか」

「うん」


 さっそく店内に入る。

 店内はそこそこ空いていて、俺たちは待つことなく席に座ることができた。


「こうメニューが豊富だと、何を頼もうか迷っちゃうね」

「……うん。和食まであるんだね」


 メニュー表を眺める爆乳さんは、いつもと変わらないように見える。


 それだと問題は、いつ頃話を切り出すかだな。


 食事前は……やめておいたほうがいいだろう。

 爆乳さんのメンタルが食事をするどころじゃなくなってしまうかもしれない。


 同じ理由で、食事中もやめておいたほうが良さそうだ。


 ならやっぱり、食後に話すか。

 

 爆乳さんは何歳なのか?

 爆乳さんはどうして学校へ行ってないのか?


 いきなり訊くのはどうかと思うが、こうでもしなきゃ現状は変えられない。

 ここは心を鬼にしなければ。


「私は何にするか決まったよ」

「そっか。じゃあ俺は――」


 俺はビーフステーキ丼を頼み、爆乳さんはオムライスを頼む。

 注文が来るまでの間、何をして時間を潰そうかと考えていると、


「……漆黒さん。ここのファミレス、何度か利用したことあるの?」


 意外にも、爆乳さんから質問が来た。

 俺は質問に答えて、


「最近は来てなかったけど、中学生くらいの頃はよく友達と来てたかな」

「そうなんだ……」

「爆乳さんは?」

「小学生の頃に何度か来たことあるよ」


 この町に住んでるだけあって、流石に何度か来たことはあるようだ。


「それは家族と?」

「うん。お父さんと、お母さんと」

「爆乳さんは一人っ子なんだね」

「漆黒さんは?」

「妹が一人いるよ」


 そういえば、家族の話を爆乳さんとするのはこれが初めてか。

 ゲーム内でもそういう話はしてこなかったしなぁ。


「妹は何歳なの?」

「15。今年で16になる高校1年だよ」

「高校1年……」


 爆乳さんは手元のおしぼりに視線を落とし、黙り込んでしまう。

 

 この反応は……。

 まさか、爆乳さんも高1なのか?

 

「お待たせいたしました。オムライスとビーフステーキ丼になりまぁす」


 若い女性の店員が注文した品を届けにやってくる。

 さっきの爆乳さんの反応は気になるが、今はとりあえず食事にしよう。


「いただきます」


 丼鉢に盛った飯の上にビーフステーキが乗せられた丼料理。

 それがビーフステーキ丼だ。


 もちろんステーキは一口サイズに切り分けられているので、箸だけで食べることができる。自分で切り分けなくていいので楽ちんだ。


 そしてステーキには醤油ベースのタレがまんべんなくかけられており、刻んだ細ネギも添えられていた。


「うん、うまい」  


 ファミレスにしては……なんて言い方はファミレスに失礼だが、ビーフステーキ丼は想像していたよりもずっと美味しかった。


 肉もそんなに硬くなく、タレとの相性もバッチリだ。


「爆乳さん。オムライスはどう?」

「美味しいよ。卵がふわふわしてる」

「そっか、ふわふわしてるんだ」


 爆乳さんが満足そうで良かった。

 爆乳さんが美味しそうに食べてる姿は、見ていて癒やされる。

 




 それからしばらくして、俺はビーフステーキ丼を食べ終えた。 

 爆乳さんも、もう少しで完食しそうだ。

 

 そんな時だった。

 店に女子高生の4人組がやってきたのだ。


 しかもあの制服、妹と同じ高校か。


 平日の昼下りに来たってことは、学校が午前で終わりなのか、単にサボっただけなのか。


「………………?」


 ふと爆乳さんを見てみると、どこか様子が変だった。

 残りひと口というところでスプーンを置いてしまい、俯いたままじっとしている。


「爆乳さん? どうかしたの?」

「何でも……ないよ」

 

 そう言う爆乳さんの声は少し震えていた。

 表情も何かに怯えているような感じで、顔色も悪くなってきている。


「何でもないように見えないけど……」


 もしかして爆乳さんは、あの女子高生たちに怯えているのか?


 昔の知り合いだとか、そんなところだろうか。

 それだと確かに、この状況は爆乳さんにとって嫌なものだろう。

 

「……本当に、何でもないよ」


 その言葉とは裏腹に、爆乳さんの様子はますますおかしくなっていく。

 どこか息苦しそうで、冷や汗まで出ていて、顔色も真っ青だ。

 

 このままだと、爆乳さんは――。


「……爆乳さん」

「漆黒、さん……?」


 席を立ち、爆乳さんの隣まで来て、俺は言った。


「ここを出て、近くの公園で話したいんだけど、いいかな?」

「え……?」

「ここだと周りが少し騒がしいし、公園の方が静かで話しやすいと思うんだ」

「………………」


 爆乳さんはしばらく俺の顔を見上げた後、また下を向いてしまう。


「……駄目、かな?」

「駄目じゃ、ないよ。でも……」

「でも?」

「………………」

 

 爆乳さんは黙ったまま答えない。

 その身体は、少し震えているように見えた。


 そんな爆乳さんに俺は手を差し伸べて、こう言った。

 

「大丈夫だよ。ほら、行こう」

「…………うん」


 爆乳さんは少しためらいながらも、俺の手を取ってくれた。

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