第21話 妹、驚く

「えっと、この町でオフ会するのは嫌かな?」


 それならそれで構わない。

 これまで通り、都内のどこかで待ち合わせて会えばいい。

 

 俺はそう思ったのだが。

 

「……嫌じゃないよ。この町で会ってみるの、いいかもね」


 爆乳さんはこの町でオフ会することを受け入れてくれた。

 ……どこか悲しそうな、困ったような表情を浮かべながら。

 

 俺はその表情が気になって、もう一度爆乳さんの意思を確認しようとするが、

 

「早く帰らなきゃだから、もう行くね」

「あっ」


 俺が何か言うよりも早く、爆乳さんは別れの挨拶をして立ち去ろうとする。


「次どこで会うかは、また今夜あたりにでも決めよう?」

「あ、ああ……」


 爆乳さんは去っていく。

 俺はその後ろ姿を、ただ呆然と眺めていた。

 

 ……爆乳さんの姿が見えなくなるまで、ずっと。

 

 

 

  

 帰り道を歩いている時も、俺はずっと爆乳さんのことを考えていた。

 

 爆乳さんは、どうしてあんな表情を見せたのだろう。

 何か事情があるなら聞き出したい。

 俺でも助けになれるのなら、爆乳さんの助けになりたい。


「……今度こそ、勇気を出して訊いてみるか」

 

 これまで俺は、爆乳さんを傷つけまいと、不登校のことについて触れようとはしてこなかった。

 

 けどそれでは、いつまで経ってもこの現状は変わらない。

 たとえ爆乳さんを傷つけることになったとしても、俺はこの現状を変えたいと思った。



◆ 


 

「ただいま」

「はい、おかえりなさい」


 家に帰ると、エプロン姿の母さんが出迎えてくれた。

 玄関の靴を見る限り、父さんはまだ帰ってきてないようだ。


「あら? その袋は……」

「お土産だよ。河口湖の方まで行ってきたから」

「ありがとう。結構遠くまで行っていたのね」

「たまには日帰り旅行もいいかなと思って。ほら、ほうとうも買ってきたよ」


 俺は袋の中から、お土産用ほうとうを取り出して見せる。

 

「あら、いいわね。今度のお夕飯に使いましょうか」

「その時は俺も手伝うよ」

「あっ、お兄ちゃん。帰ってきてたんだ」


 水の流れる音とともに、制服姿の詩織がトイレから出てくる。

 上は半袖のブラウス、下はチェック柄のスカートで、胸元には赤いリボンも付けている。

 

「ちょうど良かった。詩織に少し話があるんだ」

「話? 何か嫌な予感がするんだけど……」

「別に悪い話じゃないよ。……まあ、びっくりはするかもな」





 俺は詩織を連れて自分の部屋へと向かう。

 部屋に着き、俺はエアコンのスイッチを入れた。

 

 俺は椅子に座り、詩織はベッドの上に座る。

 

「で、話って何? お母さんの前だと話せない内容なんでしょ?」

「爆乳さんのことについてなんだ」

「あー、たしかにそれは話せないわ……」


 詩織は呆れ顔を見せながらも、俺が話すのを待ってくれている。

 俺は意を決し、続きを話し始める。


「どうか驚かないで聞いてほしい」

「うん」

「いや、やっぱり驚いて欲しいかもしれない」

「自分、帰ってもいいっすか?」


 詩織がベッドから立ち上がってしまった。

 

「……待て。今のは俺が悪かった」

「悪いと思うなら――」

「爆乳さんはこの町に住んでいた」

「…………………………はい?」


 詩織は目を丸くして驚いてくれた。

 こんなに驚いてくれて、兄さんは嬉しいぞ。

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