第20話 爆乳さんは電車を降りる

 この偶然、活かさないわけにはいかない。

 俺は吊り革に掴まりながら、爆乳さんの様子を見る。


「…………っ!」


 ここからだと、後ろ姿しか見えないのがもどかしい……!

 

 爆乳さんは今、どんな表情をしているのか。

 苦しい思いはしていないだろうか。

 

 俺は爆乳さんの周囲にも視線を移動させる。

 

 爆乳さんの周りに怪しい乗客はいないか。

 直接爆乳さんに触れずとも、至近距離で爆乳さんの匂いを嗅ぎ、ハァハァと息を荒げる変態がいるかもしれない。

 

 そんな輩がもしいたら、この人混みを掻き分けてでも、爆乳さんを助けにいかなければ……!





 どれくらいの時間が経過したのだろうか。

 

 俺の想像するような変態は現れなかった。

 気づけば乗客はだいぶ減って、俺の降りる駅が次に迫っていた。

 

 爆乳さんはまだドア付近に立っていて、外の景色を眺めている。

 この調子なら、爆乳さんは無事に帰ることができるだろう。

 

 しかし爆乳さん、まだ電車を降りていないってことは、俺よりも遠くから都内に来ていたんだな。

 

 案外、一駅くらいしか離れていないところに住んでいたりして。

 ……まあ、流石にそれはないか。

 



 

 そんなことを考えているうちに、電車は目的地に辿り着く。

 俺は爆乳さんに気づかれないよう電車から出て、駅のホームに降り立った。

 

「………………」

「………………」

 

 目の前には、爆乳さんがいた。

 思いっきり目と目が合って、俺は思考停止する。

 

「漆黒、さん……?」

「…………はっ!」

 

 変な勘違いをされるのは不味い……!

 俺はすぐに弁明を始めた。

 

「こっ、これはっ! 決して跡をつけたわけじゃなくて……!」

「う、うん……」

「俺の家の最寄り駅が、この駅で……!」

「私の家の最寄り駅も、ここだよ」

「………………え?」


 こんな偶然、あるのだろうか。

 

「……爆乳さん」

「うん」

「もしかして、俺たち……」

「……同じ町に、住んでいるみたい」


 爆乳さんが、俺と同じ町に住んでいる。

 

 初オフ会で利用したあの喫茶店へ行く時も、ハンバーガー屋へ行く時も、ラーメン屋へ行く時だって、爆乳さんはこの駅を利用していたというわけだ。

 

 これまでよく、遭遇しなかったなと思う。

 

「ちょっと、おかしいね」

「え?」

「同じ町に住んでいるのに、わざわざ遠いところで会ってたなんて」

 

 爆乳さんの言う通りだった。

 互いの住んでいる場所を知らなかったとはいえ、俺たちはとんでもなく遠回りなことをしていた。

 

 時間や交通費のことも考えれば、わざわざ都内まで行って会うより、この町で会った方がいい。

 

 爆乳さんだって、その方が楽なはずだ。

 

「……今度はこの町でオフ会してみる?」


 だから俺は提案してみた。

 爆乳さんの行きたい場所が都内にあるならともかく、そうじゃないならこの町でも事足りるだろう。

 

 けど、どういうわけか。

 

「この、町で……?」


 俺の提案を聞いた爆乳さんは、どこか浮かない顔をしていた。

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