第20話 爆乳さんは電車を降りる
この偶然、活かさないわけにはいかない。
俺は吊り革に掴まりながら、爆乳さんの様子を見る。
「…………っ!」
ここからだと、後ろ姿しか見えないのがもどかしい……!
爆乳さんは今、どんな表情をしているのか。
苦しい思いはしていないだろうか。
俺は爆乳さんの周囲にも視線を移動させる。
爆乳さんの周りに怪しい乗客はいないか。
直接爆乳さんに触れずとも、至近距離で爆乳さんの匂いを嗅ぎ、ハァハァと息を荒げる変態がいるかもしれない。
そんな輩がもしいたら、この人混みを掻き分けてでも、爆乳さんを助けにいかなければ……!
◆
どれくらいの時間が経過したのだろうか。
俺の想像するような変態は現れなかった。
気づけば乗客はだいぶ減って、俺の降りる駅が次に迫っていた。
爆乳さんはまだドア付近に立っていて、外の景色を眺めている。
この調子なら、爆乳さんは無事に帰ることができるだろう。
しかし爆乳さん、まだ電車を降りていないってことは、俺よりも遠くから都内に来ていたんだな。
案外、一駅くらいしか離れていないところに住んでいたりして。
……まあ、流石にそれはないか。
◆
そんなことを考えているうちに、電車は目的地に辿り着く。
俺は爆乳さんに気づかれないよう電車から出て、駅のホームに降り立った。
「………………」
「………………」
目の前には、爆乳さんがいた。
思いっきり目と目が合って、俺は思考停止する。
「漆黒、さん……?」
「…………はっ!」
変な勘違いをされるのは不味い……!
俺はすぐに弁明を始めた。
「こっ、これはっ! 決して跡をつけたわけじゃなくて……!」
「う、うん……」
「俺の家の最寄り駅が、この駅で……!」
「私の家の最寄り駅も、ここだよ」
「………………え?」
こんな偶然、あるのだろうか。
「……爆乳さん」
「うん」
「もしかして、俺たち……」
「……同じ町に、住んでいるみたい」
爆乳さんが、俺と同じ町に住んでいる。
初オフ会で利用したあの喫茶店へ行く時も、ハンバーガー屋へ行く時も、ラーメン屋へ行く時だって、爆乳さんはこの駅を利用していたというわけだ。
これまでよく、遭遇しなかったなと思う。
「ちょっと、おかしいね」
「え?」
「同じ町に住んでいるのに、わざわざ遠いところで会ってたなんて」
爆乳さんの言う通りだった。
互いの住んでいる場所を知らなかったとはいえ、俺たちはとんでもなく遠回りなことをしていた。
時間や交通費のことも考えれば、わざわざ都内まで行って会うより、この町で会った方がいい。
爆乳さんだって、その方が楽なはずだ。
「……今度はこの町でオフ会してみる?」
だから俺は提案してみた。
爆乳さんの行きたい場所が都内にあるならともかく、そうじゃないならこの町でも事足りるだろう。
けど、どういうわけか。
「この、町で……?」
俺の提案を聞いた爆乳さんは、どこか浮かない顔をしていた。
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