第15話 爆乳さんは猫舌

「ちょうどお昼だし、近くでごはんでも食べようか」

「うん。ほうとう、食べてみたい」

「ほうとうか……」


 ほうとうとは、山梨県を中心とした地域で作られる郷土料理だ。

 

 小麦粉を練った平打ち麺を、たっぷりの具材とともに味噌仕立ての汁で煮込んだもので、俺は過去に食べたことがある。


「ほうとうが食べられる店なら、すぐ目の前にあるんだけど……」

「……結構混んでるみたいだね」


 蔵のような外観の店の前には、列が出来ていた。

 中へ入るのに少し時間がかかりそうだ。

 

「どうしようか? 俺は待ってもいいけど……」

「私もいいよ」

「そっか。じゃあ並んでおこう」


 俺たちは列に並ぶことにした。

 店内はそこそこ広そうだし、そんなに待つことにはならないだろう。





 メテオストーリーの話をして時間を潰すこと、約10分。

 ようやく俺たちは店の中に入ることができた。

 

 店内は落ち着いた雰囲気で、思っていたより席の数が多かった。

 座敷席とテーブル席があり、俺たちはテーブル席に案内される。


 注文を済ませた後、俺は辺りを見渡して言った。

 

「店の中も海外からの観光客だらけだね」

「店員さん、大変そう……」

 

 店内にいる客は、俺たち以外はみんな外国人だった。

 なので店員たちも、外国語を使って接客をしているようだ。

 

「ここで働いたら語学力が鍛えられそうだね」

「お金も稼げて、一石二鳥……」

「爆乳さん、ここで働いてみれば?」

「私、一日でクビになる自信あるよ」

「その自信はどうなんだろう……」


 こんな感じのくだらない会話を続けながら、俺たちは待った。

 

 そして約10分後。

 注文していたほうとうが俺たちの席に運ばれてくる。

 

 ほうとうは大きめの鉄鍋で提供され、結構ボリュームがあった。

 

「これが、ほうとう……」

「今回は本当に初めてみたいだね」

「うん。ほうとうだけに、ほんとう」

「……………………」


 俺はあえてスルーした。


「それにしても、結構ボリュームがありそうだね」

「うん。……全部食べ切れるかな」

「無理はしないようにね。いざとなったら俺が頑張るよ」


 俺たちはさっそくほうとうを食べ始める。

 

 汁はまだアツアツなので、先に麺を一口。

 

 ……うん。とても噛みごたえがある。

 もちもちとしていて、何だか癖になる食感だ。

 噛むたびに口の中に広がる麺の風味が、更に食欲を増進させる。

 

 次に具材を食べてみる。

 具材には色んな野菜が使われていて、白菜に人参、きのこにカボチャなどが入っていた。

 

 野菜以外だと、油揚げなんかも入っているようだ。

 

 そして最後に汁をいただく。

 味噌仕立ての汁には、カボチャを始めとした野菜の甘みが溶け込んでおり、甘じょっぱくて優しい味がした。

 

 過去に食べた時は冬だったけど、夏に食べるのも悪くはないな。

 

「暑い夏に、あえてこういう熱い料理を食べるのもいいね」


 そこまで言って、俺は思い出す。

 爆乳さんは猫舌だったんだ。

 

 今だって、ほら。

 

「ふー、ふー、ふー……」


 必死に具材を冷ましながら、ほうとうを食べ進めていた。

 気温の高さも相まって、爆乳さんの顔はすっかり火照ってしまっている。


「前から思ってたけど……」

「?」

「爆乳さんって、猫舌だよね」

「……私、猫舌じゃないよ」


 何故か爆乳さんは、猫舌であることを認めなかった。


「猫舌って言われるの嫌なの?」

「……うん」

「それは、どうして?」

「子供みたいで、恥ずかしいから……」


 随分と可愛らしい理由だった。

 

「まあ、火傷はしないようにね」

「うん……」


 熱がりながら食べるその姿は、いつもより幼く見えて可愛かった。

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