第15話 爆乳さんは猫舌
「ちょうどお昼だし、近くでごはんでも食べようか」
「うん。ほうとう、食べてみたい」
「ほうとうか……」
ほうとうとは、山梨県を中心とした地域で作られる郷土料理だ。
小麦粉を練った平打ち麺を、たっぷりの具材とともに味噌仕立ての汁で煮込んだもので、俺は過去に食べたことがある。
「ほうとうが食べられる店なら、すぐ目の前にあるんだけど……」
「……結構混んでるみたいだね」
蔵のような外観の店の前には、列が出来ていた。
中へ入るのに少し時間がかかりそうだ。
「どうしようか? 俺は待ってもいいけど……」
「私もいいよ」
「そっか。じゃあ並んでおこう」
俺たちは列に並ぶことにした。
店内はそこそこ広そうだし、そんなに待つことにはならないだろう。
◆
メテオストーリーの話をして時間を潰すこと、約10分。
ようやく俺たちは店の中に入ることができた。
店内は落ち着いた雰囲気で、思っていたより席の数が多かった。
座敷席とテーブル席があり、俺たちはテーブル席に案内される。
注文を済ませた後、俺は辺りを見渡して言った。
「店の中も海外からの観光客だらけだね」
「店員さん、大変そう……」
店内にいる客は、俺たち以外はみんな外国人だった。
なので店員たちも、外国語を使って接客をしているようだ。
「ここで働いたら語学力が鍛えられそうだね」
「お金も稼げて、一石二鳥……」
「爆乳さん、ここで働いてみれば?」
「私、一日でクビになる自信あるよ」
「その自信はどうなんだろう……」
こんな感じのくだらない会話を続けながら、俺たちは待った。
そして約10分後。
注文していたほうとうが俺たちの席に運ばれてくる。
ほうとうは大きめの鉄鍋で提供され、結構ボリュームがあった。
「これが、ほうとう……」
「今回は本当に初めてみたいだね」
「うん。ほうとうだけに、ほんとう」
「……………………」
俺はあえてスルーした。
「それにしても、結構ボリュームがありそうだね」
「うん。……全部食べ切れるかな」
「無理はしないようにね。いざとなったら俺が頑張るよ」
俺たちはさっそくほうとうを食べ始める。
汁はまだアツアツなので、先に麺を一口。
……うん。とても噛みごたえがある。
もちもちとしていて、何だか癖になる食感だ。
噛むたびに口の中に広がる麺の風味が、更に食欲を増進させる。
次に具材を食べてみる。
具材には色んな野菜が使われていて、白菜に人参、きのこにカボチャなどが入っていた。
野菜以外だと、油揚げなんかも入っているようだ。
そして最後に汁をいただく。
味噌仕立ての汁には、カボチャを始めとした野菜の甘みが溶け込んでおり、甘じょっぱくて優しい味がした。
過去に食べた時は冬だったけど、夏に食べるのも悪くはないな。
「暑い夏に、あえてこういう熱い料理を食べるのもいいね」
そこまで言って、俺は思い出す。
爆乳さんは猫舌だったんだ。
今だって、ほら。
「ふー、ふー、ふー……」
必死に具材を冷ましながら、ほうとうを食べ進めていた。
気温の高さも相まって、爆乳さんの顔はすっかり火照ってしまっている。
「前から思ってたけど……」
「?」
「爆乳さんって、猫舌だよね」
「……私、猫舌じゃないよ」
何故か爆乳さんは、猫舌であることを認めなかった。
「猫舌って言われるの嫌なの?」
「……うん」
「それは、どうして?」
「子供みたいで、恥ずかしいから……」
随分と可愛らしい理由だった。
「まあ、火傷はしないようにね」
「うん……」
熱がりながら食べるその姿は、いつもより幼く見えて可愛かった。
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