第11話 爆乳さん波のプールで遊ぶ

 流れるプールを3周ほど遊んで、俺たちはプールから出た。

 

「次はどこへ行こうか?」

「波のプールがいい……」

「流されてる途中、見かけたやつだね」

「うん」

「じゃあ、そこへ向かおうか」


 途中から思ってはいたが……。

 今日の爆乳さんは、だいぶテンションが高いような気がする。

 社会復帰の練習とかじゃなく、純粋にプールを楽しんでいるといった感じだ。

 

 まさか爆乳さん、ただプールで遊びたかっただけなのか……?





 しばらく歩いて、俺たちは波のプールに辿り着く。

 

 ちなみにサメさんフロートは、ここへ来る前に返却しておいた。

 きっと波のプールでは、邪魔になるだろうと思ったからだ。

 

 波のプールは名前の通り、波が発生しているプールだ。

 波により、本当に海にいるかのような気分を味わえるというのが、このプールの売りらしい。

 

 一番奥には造波装置があり、そこへ近づけば近づくほど水深が深くなっている。

 水深の浅いところは、まるで本物の波打ち際のようだった。

 

「前へ進んでみようか」

「う、うん……」


 爆乳さんは、恐る恐るといった感じで、波のプールの中を進んでいく。

 腰まで水が浸かる深さのところで、俺たちは一度立ち止まった。

 

「わっ……」

「どう? 波のプールの感想は?」

「本当に波だ……」

「うん、波だね」


 けどこの程度の深さなら、その場で棒立ちになっていても平気なくらいに、体の受ける波の影響は小さい。

 

 より波を楽しむなら、もっと奥へ行く必要がある。

 

「もっと奥の方へ行ってみようか」

「……私泳げないけど、大丈夫かな」


 不安げな表情を浮かべ、爆乳さんが言う。

 俺は爆乳さんを安心させようと、言葉を返す。


「波が来るタイミングでジャンプすれば大丈夫だよ」

「ジャンプしないとどうなるの?」

「顔面に波が思いっきり直撃するね」

「……ちゃんとジャンプできるかな」

「無理そうだと思ったら、俺に言ってくれればいいからさ。いざとなったら、爆乳さん一人くらい抱きかかえられると思うし」


 爆乳さん、軽そうだしなぁ。

 水着姿を見ていると、身体の細さがいつもよりよくわかる。

 

「そ、そうはならないよう、善処するね……」

「ああ。頑張ってみようか」


 そして俺たちは、更に奥へと進んでいく。

 水深はちょうど、爆乳さんの胸の辺りの深さとなった。

 

「ほら、波が来るよ!」

「う、うんっ……!」


 爆乳さんの頭よりも高い波が、押し寄せてくる。

 俺たちはほぼ同じタイミングでジャンプし、何とかその波が顔面に直撃するのを回避した。

 

「ちゃんとジャンプできたね、爆乳さん」

「……うん。こ、怖かった……」

「ほら、次も来るよ」

「え……」


 さっきのジャンプで疲れてしまったのか、爆乳さんのジャンプのタイミングは完全に遅れてしまっていた。

 

 おかげで爆乳さんの顔面に、波がモロに直撃してしまう。

 

「爆乳さん……!?」

「うッ……」

 

 それでパニクったのか、爆乳さんは次の波が来た時にジャンプをせず、俺の腕にしがみついてきた。

 

 ……爆乳さんの爆乳ではない胸が、俺の腕に当たる。

 

 慎ましやかながらもそれは柔らかく、俺の身体にはない柔らかさであり、とても柔らかく、凄く柔らかかった。

 

「ば、爆乳さん! 浅い方へ戻ろう!」

「う、うん……」


 俺たちは急いで、水深の浅い方へと移動する。

 そしてすぐに俺は言った。


「ごめん、爆乳さん。俺が強引に誘ったから……」

「……ううん。漆黒さんは悪くないよ。私は私の意思で、波のプールに来たんだよ」


 幸い爆乳さんは、気管に水が入るようなこともなかったようだ。

 それだけは、とりあえず良かったと言える。

 

「でも……」

「でも?」

「……ちょっと遊び疲れたかも」


 思えばプールに来てから、ずっと遊びっぱなしな気がする。

 適度に休憩も挟まなければ、大きな怪我や事故に繋がりそうだ。

 

「少し休もうか」

「うん」





 波のプールを出て、俺たちはプールサイドで休憩することにした。

 

 時刻はちょうど午後2時を少し過ぎた頃。

 昼食もまだだったので、プール内の売店でホットスナックを買い、遅めの昼食を摂ることにする。

 

 俺はフライドポテトとフライドチキンと肉まん。

 爆乳さんはアメリカンドッグとフランクフルトを食べ始める。


 食べながら、俺は爆乳さんに訊いた。

 

「今更だけど、どうしてプールへ行こうと思ったの?」

「もうすぐ8月も終わるから。夏っぽいこと、したいなって」

「そっか。社会復帰の練習にしては、随分と思い切ったね」

「うん。私としては、結構頑張ったと思う……」


 爆乳さんは体育座りで俯きながら、言葉を続ける。

 

「水着もね、一人で買いに行ったんだよ」

「やっぱりその水着、新しく買ったやつなんだ」

「うん。学校の水着しか、持ってなかったから……」


 それでビキニを選ぶとは、中々大胆だなと俺は思った。

 

「……今度は遠くへ、行ってみたいな」

「え?」


 爆乳さんは唐突に、遠くへ行ってみたいと言い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る